南アフリカ総選挙結果

〜 かろうじて理性が勝利したか 〜



南アフリカ総選挙が行われ、与党アフリカ民族会議(ANC)が過半数を獲得し、1994年の民主化以降、一貫して担ってきた政権をかろうじて維持した
ただし、得票率は1994年の民主化後の選挙として史上最低だった。

(石材店)「またまたマニアックな話題ですねえ」
(幹事長)「国際情勢マニアで、かつ選挙オタクの私としては興味津々の話題でな」


もともと黒人解放闘争に源流を持つANCは、マンデラ元大統領が率いた政党で、初めて全人種が選挙権を得た1994年の総選挙で「すべての人により良い暮らし」を約束して圧勝したが、その後、資源ブームに沸いた2000年代は、世界屈指の水準にある金やダイヤモンドの産出のおかげで、5%前後の成長率をみせた。豊富な資金力を背景に、アフリカ随一の工業力を誇り、2011年にはブラジル、ロシア、インド、中国と共にBRICSと称され、新興国としての地位を確立した
ところが資源価格急落などにより経済成長に陰りが生まれ、2009年から9年に及んだズマ大統領時代には汚職や縁故主義が横行し、それ以降、経済は低迷が続いている。通貨ランドの価値は下がり、失業率は27%に達し、性犯罪や殺人も多発している。
ANCの主要メンバーは、白人による人種隔離政策アパルトヘイトに反対し、全人種が等しく権利を保護される民主的な国家として南アフリカを再生させた解放の闘士だった。だからこそ、アパルトヘイト廃止以来、ANCは人口の多数派を占める黒人の支持を集め、一貫して与党の座を握ってきたのだ。それなのに、近年は万年与党の弊害でANC幹部に汚職が絶えず、支持離れに拍車をかけている

もともと南アフリカは世界でも屈指の格差社会だが、民主化から25年が過ぎても所得格差や貧困、高い失業率といった課題を解消できないできた。黒人の失業率は約30%で、白人の8%の約4倍で高止まりしている。
さらに黒人間でも貧富の差が拡大している。かつては一律に貧しかった黒人から富裕層が誕生したが、恩恵を受けたのは一部で、社会全体は豊かにならず、黒人社会の間でも階層分化が進んだ。。
もちろん、人種間の貧富の差も埋まらず、黒人の世帯年収は白人家庭の4分の1にも満たない。黒人の貧困率は60%に上り、白人との生活環境の格差が今なお大きな社会問題となっている。

人種間の格差を生む大きな理由の一つは、少数派の白人が手にしたままの土地を巡る既得権益だ。南アフリカではアパルトヘイト政策の名残で、現在も全人口の8%しかいない白人が7割超の土地を所有している。この土地の配分をめぐる白人と黒人の格差の問題は、今回の選挙の大きな争点にもなっていた。
ANCに対する不満が広がる中で、台頭してきたのが経済的解放の闘士(EFFだ。左派ポピュリズム的な主張で支持を広げ、南ア政界の台風の目になっている。ANCから追放されたマレマ党首が率いるEFFは、「白人に奪われた先祖の土地を取り戻せ」などと白人に攻撃的な主張を繰り広げ、補償抜きで白人の土地を収用するという強硬な政策を主張し、これが黒人の支持を集めているのだ。
これに対抗するために、ANCのラマポーザ大統領も「白人の土地を補償金なしで接収し、黒人に再配分する」という意向を表明した。EFFとの違いは、EFFが即時の実施を要求している点で、ANCはもう少し時間をかけながら進めようというものだ。

これらの主張は、もっともだ。
元々、南アフリカは17世紀にオランダから、そして18世紀にイギリスから白人が勝手に移住し、黒人から土地を奪い取り、勝手に国を作ったものだ。アメリカやオーストラリアも全く同じで、過去に残虐の限りを尽くして自分勝手に国を作った白人が、今、やたら他の国の人権侵害なんかを批判するのは呆れてものも言えない。また、あれだけ黒人やインディアンを迫害しておきながら鯨を捕るのを妨害するのも信じられない厚顔無恥の暴挙だ
アメリカやオーストラリアは、もう原住民の数が圧倒的に少なくなってしまい、今さら土地を返せと言うのは非現実的だが、南アフリカやジンバブエは人口の大部分が黒人なので、白人の土地を黒人が剥奪するのは非現実的ではない。当たり前の主張であり、権利だ。

しかしながら、実際にそういう事をすれば、必ず失敗するのは確実だ
お隣のジンバブエで前例がある。ジンバブエでは、コンゴ内戦への派兵などにより経済が悪化し、それに対する批判を押さえつけるためムガベ大統領が白人農場を強制収用する政策を進めた。白人から強奪した土地を黒人農民に再分配したのだ。
その結果、白人地主が持っていた農業技術が失われ、食糧危機や世界最悪になるハイパーインフレーションが発生した。こうした経済混乱に対して批判が巻き起こり、それら反対派へ弾圧を繰り返した事により、最終的には軍によるクーデターでムガベは大統領の座を追われた。

なぜ白人からの土地強奪が失敗したかと言うと、単に土地を奪い取って無知な黒人に与えたためだ。いくら農場で働いていたからと言って、農場の全体的な経営手法を全く知らない素人の黒人では農場を経営する事は不可能だったからだ。南アフリカで同じような政策をとれば、同じような失敗に陥ることは間違いないだろう。なので、過去の歴史を考えると許し難い白人農場主達ではあるが、経済の立て直しを考えると、彼らの協力は不可欠だ

て事で、選挙で支持率を減らしたとは言え、穏健なANCが過半数を取って政権を維持したことは一安心だ
EFFは獲得票10.8%で躍進はしたが、最大野党で白人を主な支持基盤とする民主同盟(DA)の20.8%にも及ばなかった。南アフリカの選挙民はトランプを大統領にしたアメリカ国民よりは理性があったのかな

(2019.5.12)



〜おしまい〜





独り言のメニューへ