ALS患者嘱託殺人

〜 死ぬ権利を尊重しよう 〜



京都でALS(筋萎縮性側索硬化症)に苦しむ女性薬物を投与して殺害したとして医師2人が嘱託殺人の容疑で逮捕された
事件が起きたのは8ヵ月も前だが、警察が慎重に捜査を進めた上で、このたび逮捕に踏み切ったものだ。

警察は「女性の症状が安定していて死期は迫っていなかったから安楽死とは考えていない。安楽死か否かを問題にする事案ではない」としている。
ただ、安楽死なら認められたのかと言うと、日本では安楽死だって非常に要件が厳しく、なかなか認められない

今回の事件は、ちょっと特殊だ。
逮捕された医師は女性の主治医ではなく、直接の面識もなく、女性はSNSを通じて医師に「安楽死させてほしい」という趣旨の連絡を取りあっていたらしい。
医師は女性からの依頼を受け、昨年11月に女性の自宅マンションを訪れ、室内で薬物を女性の体内に投与した。その後、女性の容体が急変し、病院に搬送されて死亡が確認されたが、体内から普段服用していない薬物が検出されたことから警察が捜査を始め、防犯カメラの映像などから医師を特定したという。
また、女性から医師に金銭が振り込まれていたことから、医師が金銭目的で請け負った可能性が高く、正当な医療行為ではないと判断されたようだ。ただ、全ての医師は金の亡者であり、どんな場合でも我々に不当なまでの高額な診療費を請求するのだから、金銭の授受があったからと言って正当な医療行為ではないというのは乱暴な議論だ。
また、逮捕された医師の妻は元自民党の衆議院議員だ。彼女はネットで夫の行為を批判し、「もう離婚する」などと言い放っている。ただし、彼女の経歴を見ると、もう支離滅裂で、なんでこんな人を自民党は擁立していたのだろうかと頭を抱えるくらいなので、信用はできない。
また、逮捕された医師は、かつて厚生労働省の医系技官として7年半も働いていたらしい。
そして「高齢者は見るからにゾンビ」などとネットに投稿し、「高齢者への医療は社会資源の無駄」、「寝たきり高齢者はどこかに棄てるべき」と言った主張を繰り返し、安楽死法制化にたびたび言及していた。

このように、今回の事件は、かなり特殊な医師による非常に特異な事情がある事件なので、ことさら分析しても、あんまり意味はない。
ただ、一般論として、私は自分の死は自分で選択できる権利を確立して欲しいと思う。

今回の女性は9年ほど前にALSを発症して体が思うように動かなくなり、しばらくして車椅子生活になり、5年前からは目で文字盤を追ってコミュニケーションを取るしかなくなった。
最後は声を出したり手足を動かすことができない状態で、障害福祉サービスの重度訪問介護を利用して、24時間ヘルパーから生活全般のケアを受けながら1人で暮らしていた。
ただ、意識ははっきりしており、メールをやりとりすることは可能だった。そして、ALSの苦しさと安楽死が認められない現状に対する怒りを訴えていた。
屈辱的で惨めな毎日がずっと続く」「安楽死させてください」「望まないのにこんな体で無理やり生かされてるのは人権の侵害だと考えます」「患者を生かすことをなぜいつまで医療者は使命だと思っているのだろう?」などと医療制度や法体制を批判していた
安楽死が認められているスイスへの渡航を計画したこともあったが、体を動かすことも不可能だったため断念した。
最後まで自尊心を持ち続けていたため、自分の尊厳を守るための死を選びたかったのだろう。

この気持ちは非常によく分かる。何も、このような難病だけの話ではない
高齢者になり、また認知症になり、何も訳が分からなくなった状態で、体中にチューブを繋がれて生き続けるのは苦痛と恥辱以外の何物でもない。絶対に拒否したい。
そこまでいかなくても、ベッドから動けず、自分で食事もとれないような状況では、本人は延命させられて幸せではないだろうし、何の尊厳も無い状態だ
抽象的な話をしているのではない。重度の要介護者の世話をした事がある人なら、誰でも分かると思う。

しかし、このような患者は金の亡者である病院にとっては金を生むガチョウだから、医療関係者はできるだけ生かしておこうとする。こういう無意味で有害な延命措置に関しては医療報酬を打ち切るようにしなければ金の亡者である医者は患者を手放そうとはしないだろう。

また、こういう事件が起きると、「死ぬ権利よりも生きる権利を守る社会にしていくことが、何よりも大切だ。どんなに障害が重くても、重篤な病でも、自らの人生を生きたいと思える社会をつくることが重要だ」というような批判も巻き起こる。
断っておくが、生きる権利を奪おうと言うのではない。生きたい人には可能な支援をして生きてもらえばいい。私が言っているのは、今の日本では完全にないがしろにされている「死ぬ権利」を確立しろと言うことだ。批判している人は、生きる権利の事ばかり言ってるが、死ぬ権利の重要性を認識していない

また、なぜ警察はキチガイみたいに必死になって安楽死を阻止しようとするのか、というのも疑問だ。安楽死に見せかけた殺人を防ごうとしているのかもしれないが、警察に個人の死ぬ権利を阻止されたくはない。

(2020.7.24)



〜おしまい〜





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