ナゴルノ・カラバフ紛争

〜 アゼルバイジャンの反撃 〜



ナゴルノ・カラバフ紛争思ってもみなかった展開になった
もうワクワクして、大興奮で昼も眠れない状態だ。

(ピッグ)「相変わらず国際紛争が好きですねえ」
(幹事長)「私は昔からナゴルノ・カラバフ紛争については非常に関心があり、造詣が深いんぞ」
(ピッグ)「ナゴルノ・カラバフについて造詣が深い人なんて四国には珍しいんじゃないですか」
(幹事長)「ま、ほとんどおらんやろな」


もし他にもナゴルノ・カラバフ紛争に関心がある人がいれば、熱く語り合いたいぞ。

多くの日本人が無関心で何の知識も持っていないだろうから、ナゴルノ・カラバフ紛争の背景から説明しよう。
て言うか、そもそも多くの日本人がアゼルバイジャンやアルメニアそのものについても無関心で何の知識も持っていないだろうから、そこから説明しなければならない。

アゼルバイジャンアルメニアは、いずれも旧ソ連に属していた国だ。
旧ソ連にはロシアを始めとして15の国が属していたが、アゼルバイジャンとアルメニアは旧ソ連の中のコーカサス地方に属する国だ。ちなみにコーカサスには、他にグルジア(今はジョージアと呼ばれている)がある。
コーカサスは北はロシア、南はトルコとイラン、西は黒海、東はカスピ海に囲まれる地域だ。
ヨーロッパとアジアの間にあり、昔から周辺の大国に支配され翻弄されてきた地域で、確固とした国を持てなかった民族が多く、地域全体にアゼルバイジャン人、アルメニア人、グルジア人、アブハジア人、アジャール人、オセチア人、クルド人などが入り乱れて暮らしてきた
例えばグルジアは人口も面積も小国なんだけど、その中に民族自治区としてアブハジア自治共和国、アジャリヤ自治共和国、南オセチア自治州があり、そのうちアブハジアと南オセチアでは独立運動が盛んで、グルジア政府の権力が及ばない事実上の独立国となっている。コーカサスの国はどこもややこしい問題を抱えているのだ。

そして、アゼルバイジャン人とアルメニア人の居住地域も複雑に入り込んでおり、昔から民族紛争の火種となっている
アゼルバイジャンがアルメニアとイランに囲まれた地域に飛び地のナヒチェヴァン自治共和国を領有している一方で、アゼルバイジャン内にはアルメニア人自治州のナゴルノ・カラバフがある
ナゴルノ・カラバフは、アゼルバイジャンの西部にある地域で、面積は約4400平方kmで徳島県とほぼ同じ、人口は約15万人で今治市とほぼ同じだ。

(ピッグ)「かなり小さいですね」
(幹事長)「こんなマイナーな地域が紛争の種なんよね」


ナゴルノ・カラバフアゼルバイジャン国内にありながら、人口の9割以上がアルメニア人だ
これは上に書いたように、元々この地域には色んな民族が入り乱れて住んでいたからだ。ナゴルノ・カラバフにはアルメニア人が多く住んでいたが、周辺地域はアゼルバイジャン人が住んでいたから、アゼルバイジャンの国内に取り込まれてしまったのだ。
アルメニア人もアゼルバイジャン人も、どちらもナゴルノ・カラバフは昔から自分たちの土地だと言い張っているが、これはコソボが昔から自分たちの土地だと言い張っているセルビア人とアルバニア人の争いと同じ構図で、どちらも昔から代わる代わる占領してきたのだから、どちらも嘘ではない。どっちの方が古いかなんて、今となっては分からない。

20世紀初めまで、この地域はロシア帝国の領土だったが、ロシア帝国が崩壊してアルメニアとアゼルバイジャンが建国された時、ナゴルノ・カラバフの取り合いとなった
その後、両国ともソ連に取り込まれ、スターリンの決定によりアゼルバイジャンの領土となり、ソ連の力により紛争は抑えられていた。
しかしソ連が崩壊して両国が独立すると、再び紛争が起こったわけだ。

そしてナゴルノ・カラバフアルメニアの支援を受けて事実上の独立国となり、1991年にアルツァフ共和国としてアゼルバイジャンからの独立を宣言した
もちろん、このような場合、国際的には一切、承認は得られていないが、アルメニア側の軍事的勝利により、それ以来、元々のナゴルノ・カラバフ自治州の大半と、それに加えてアルメニアとの間に挟まれた「ラチン回廊」などの地域を含む周辺を、アルメニア側が実効支配してきた
これにより、ナゴルノ・カラバフはアゼルバイジャンの中の陸の孤島ではなくなり、アルメニアと自由に行き来できる地続きなったのだ。
なので、私の認識としては、アルメニア側は、ゴラン高原を占領して一方的に入植地を増やしてきたイスラエルと同じような優位を保っているものとばかり思っていた。

ところが驚いたことに、今年9月末に、突然アゼルバイジャンがアルメニア側に対して攻撃を開始した。アゼルバイジャンもアルメニアも、互いに相手が先に攻撃してきたと主張しているが、その後の展開を見ると、おそらくアゼルバイジャンから攻撃を始めたのだと思われる。
このアゼルバイジャンによるアルメニアへの攻撃は、私の認識ではイスラエルにパレスチナが攻撃を開始するように無謀な事だと思ったのに、そうではなかった。
1ヵ月半の戦闘の後、アゼルバイジャンが圧勝したのだ。
その結果、長年アルメニアが占領してきたラチン回廊などの周辺地期はもとより、ナゴルノ・カラバフ自治州そのもののかなりの部分までアゼルバイジャンに返還されることとなった

考えられないほどのアゼルバイジャンの一方的な勝利だ。いったい何が起こったんだろう。
分かりにくいのはロシアの動きだ。
停戦合意に基づいてロシア軍の平和維持部隊が現地に展開し、双方の攻撃は完全に停止した。その意味で、現時点ではロシアの存在は重要だが、アゼルバイジャンとアルメニアの戦いの中では、存在感は希薄だった。
普通に考えれば、ロシアはアルメニアを支援するように思える。アルメニアとロシアは防衛条約で結ばれている同盟国であり、アルメニアにはロシア軍が駐屯している
ところがロシアは、この軍事同盟にはナゴルノ・カラバフには範囲が及ばないとの見解だ。ロシアとしては、もしアゼルバイジャンがアルメニア本国を攻撃すればロシア軍は介入してくるが、ナゴルノ・カラバフはアゼルバイジャン国内の地域であり、アルメニアとは無関係のアゼルバイジャンの内政問題だから、軍事介入はしないとのスタンスなのだ。
一見、理屈は通っているようにも思えるが、そうは言っても、ロシアは中国と並んで法を無視するならず者国家だから、本当に介入したかったら、国際法や条約なんて平気で無視して介入してくるだろう。それが介入してこなったのには理由がある。ロシアとアルメニアは軍事同盟を結んでいるが、ロシアはアゼルバイジャンとの関係も悪くはないのだ。

アルメニアとロシアがキリスト教の正教で結び合った仲なのに対し、アゼルバイジャンは民族的に近いトルコと結びつきが深い。またどちらもイスラム教の国なので、キリスト教対イスラム教の争いと短絡的に見られがちだ
しかし、国際情勢というのは、そんなに簡単なものではない。
旧ソ連の国の中では、同じキリスト教の国であっても、ウクライナなんかはロシアと敵対しているが、逆にイスラム教の国でもカザフスタンを始めとする中央アジアの国々はロシア寄りだ。同じようにアゼルバイジャンも決して反ロシアではない
一方、アルメニアはロシアと軍事同盟を結ぶ関係ではあるものの、密かにEUとの関係強化も図ってきた。ウクライナがEUとの関係強化を図ったがためにロシアに攻め込まれたのを目の当たりにして、アルメニアはその二の舞を恐れてとりあえずは大人しくているが、決してロシア一辺倒という訳ではない
つまり、ロシアにとってはアゼルバイジャンもアルメニアも同じくらいの重要性を持つ国だから、どちらに一方的に肩入れする訳にはいかないのだ。

アゼルバイジャン側には民族的に近いトルコが強力に支援してきたが、これは直接的な支援のほか、アルメニアに対する経済封鎖も含まれる。アルメニアは東のアゼルバイジャンと西のトルコに挟まれており、トルコによる経済封鎖は強烈なダメージとなる。
さらに驚いたことに、なんとイスラム教の敵と言われるイスラエルもアゼルバイジャンを支援している
これはソ連時代に各地で弾圧されたユダヤ人をアゼルバイジャンが保護したことでイスラエルと良好な関係を築いたことによる。このため、アゼルバイジャンは独立後、イスラエルから多くの財政支援を受けている。

一方で、アゼルバイジャンと同じイスラム教なのに、イランやサウジアラビアやアラブ首長国連邦はアルメニアを支援している
つまり、アゼルバイジャンとアルメニアの紛争は宗教的な色彩は全く無いのだ。アゼルバイジャンはイスラム教ではあるが、それほど熱心な信者というわけではないことも影響している。
またアルメニア人はアメリカを始めとする世界各国に散らばっており、本国への多額の資金援助やロビー活動を繰り広げている。

このような非常に複雑な関係の中でのアゼルバイジャンの圧勝は、正直言って、予想だにしていなかった。
30年前は圧倒的な軍事的優位のもとでアルメニアが圧勝したが、いつの間にか軍事的な優位性は逆転していたという事だ。本当に驚きだ。

アルメニアの実質的な大敗北はアルメニア人には受け入れがたい事であり、停戦合意が発表された直後から怒り狂った市民による反政府デモが繰り広げられている。このままアルメニア側が大人しく引き下がるとは思えない
そして、今回のアゼルバイジャンの大勝利で全てが終わったかというと、そんな事はなくて、そもそもの問題の根源であるナゴルノ・カラバフの帰属問題は全く決まっていないのだ。
今後、アゼルバイジャンがさらにナゴルノ・カラバフまで侵攻して全土を奪回するのか、それともアルメニアが反撃して再び領土を拡大するのか、ワクワクして目が離せない。

(2020.11.22)



〜おしまい〜





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