元ナチス党員の強制送還

〜 気の毒なスケープゴート 〜



アメリカ政府は、第2次大戦中にナチス・ドイツの強制収容所の看守を務めていたアメリカ在住のドイツ国籍の95歳の男をドイツに強制送還した
あまりの情け容赦の無さに愕然とする。

この男はアメリカのテネシー州在住で、約60年間もアメリカに暮らし、すっかりアメリカ人になっていたのに、アメリカ司法当局が、過去の経歴を基に国外追放を命じたのだ。
司法当局の発表によると、彼は第2次大戦末期の1945年に、ドイツ北部のノイエンガメ強制収容所の支所で、武装した看守として勤務していたとのことだ。

ナチス・ドイツの強制収容所と言うと、ユダヤ人を抹殺するための収容所のようなイメージがあるがこの収容所はそういう収容所ではない。
ユダヤ人も少しはいたようだが、囚人の多くはロシアやオランダ、ポーランドの市民であり、さらにデンマーク人、ラトビア人、フランス人、イタリア人のほか、ナチスの政敵であるドイツ人も収容され、野外での強制労働に就いていたとのことだ。
もっとも、ガス室でユダヤ人を抹殺するような収容所ではなかったにせよ、過酷な強制労働のため、4万人を超える収容者が死亡したとのことだ。

アメリカには、ナチスの迫害に関与していたあらゆる人物について国内に居住することを禁止する法律があり、男はこれに当てはまったとのことだ。
彼は強制収容所の看守として自発的に働いていたから、強制収容所の武装警備員としてナチス主導の迫害に加担し、ナチスによる迫害を支援する性質があったとしている。
まあ、それはそうだろう。看守なんだから、当然ながら囚人の脱走を阻止するために働いていたのは当たり前だ。
ただ、彼は当時19歳で、「収容所で勤務するよう指示を受けただけだ」と語っている。
また、収容所にいたのは僅か数週間で、収容者らが過酷な扱いを受け、死者が出ていたことは知らなかったし、残虐行為は目にしなかったと話している。
もちろん、この証言が本当かどうかは分からない。かなり疑わしい。しかし、仮に残虐行為が行われていた事を知っていたとしても、配属されたばかりの少年に何の責任があると言うのだ

アメリカ政府は、ナチスの残党を突き止めることを目的に、司法省内に特別調査室を設けており、今でもナチスの残党を探し出そうとしているが、60年間もアメリカに住んできた寿命もあと僅かの老人を強制送還するなんて、その執拗さに愕然とするし、アメリカの人権意識の無さに驚愕する

ドイツに送還された後、この男はドイツ当局の尋問を受けることになるが、裁判が行われるかどうかは不明だ。
そもそも、この男は、看守として働いていたことでドイツから年金を受け取っていた。そういう人間を、今さら罪に問えるだろうか。

しかし、偽善の固まりであるドイツ政府は、白々しく男を裁くかもしれない。
アメリカ政府と同じように、ドイツ検察当局も存命のナチス・ドイツ関係者の法的責任追及を進めており、最近では100歳になる強制収容所の元看守の男を、3518人の殺害の共犯として起訴している。
彼はベルリン北郊オラニエンブルクにあるザクセンハウゼン強制収容所で「故意に、かつ自ら進んで被収容者の殺害をほう助した」とされたが、殺人や残虐行為を直接行ったのではなく、あくまでも幇助しただけだ。
そんな希薄な罪で100歳の高齢者を捕まえるなんて、ドイツ政府の人権意識の無さに驚愕するばかりだ。

また、強制収容所の秘書だった95歳の女性も、1万人以上の殺害を幇助したとして訴追されている。
彼女は、ナチスに占領されていたポーランドのグダニスク近郊にあったシュツットホフ強制収容所で働いていたのだが、強制収容所の司令官の速記者兼秘書として「ユダヤ人捕虜やポーランドのパルチザンやソビエトの戦争捕虜を組織的に殺害した収容所の責任者らを手助けした」とされたのだ。
彼女も、当時は未成年だったし、単に秘書として働いていただけで、何の権限も無かった

また、強制収容所でユダヤ人収容者ら5200人の殺害に関与したとして、殺人幇助助罪で有罪判決を受けた93歳の男もいる。
彼は元ナチス親衛隊員だが、17歳の時に国防軍に招集され、親衛隊に転属されただけの少年兵だ。1944年〜1945年にシュツットホフ強制収容所に勤務しており、収容者の殺害に直接加わった証拠は全く無いんだけど、看守として収容所での虐殺状況を把握できたとして、5200人の収容者の殺害を幇助したと認定された。
検察側は「被告は看守からの転属を求めるべきだったのにしなかった」なんて言う無理難題を吹っかけて、有罪に持ち込んだ。
もちろん、被告は「収容者の殺害状況などは認識しておらず、看守の仕事から逃げられなかった」と無罪を主張していたが、無視された。

このように、戦争が終結してから約75年も経過しているにも関わらず、今でもドイツでは、ナチス・ドイツの残虐行為に対して個人の刑事責任を追及する動きが続いている
これは、今のドイツ人は、あらゆる不都合な歴史をナチスの責任に押しつけ「自分たちはヒトラーに騙されて戦争をしてしまった被害者だ」として振る舞っているからだ。
自分たちの責任を逃れるために、どんなに僅かでもナチスに関わっていた人間を決して逃がさず、ナチスの残党だと認定した同胞を率先して狩り尽くすことで、国際的に自分の立場を守っている
一般の国民には罪はなく、むしろ被害者であり、ナチスだけが悪かったのだから、少しでもナチスに関係したものは徹底的に断罪する」というスタンスだ。
これによって自分たちは潔白だと訴えているのだが、もちろん完全な偽善だ

そもそも、ナチス政権はドイツ国民が公正な選挙で選んだ合法政権だ。当時のドイツ人は全員共犯ではないのか。何を偉そうに「我々は騙されただけだ」なんて言ってるんだ。
仮に騙されたのが本当だとしたら、看守たちも全く同じだ彼らには何の責任も無い
戦争責任を追求するのなら、その対象は政府や軍の幹部に限るべきであり、看守なんていう下っ端に責任をなすりつけるのは完全に間違っている
まだ少年とも言えるような年齢の下っ端の看守に、何の権限があると言うのだ。

どこの軍隊でも同じだが、優秀な精鋭兵士は機甲師団の戦車隊なんかの第一線に配属され、前線であまり役に立ちそうにない連中が強制収容所の看守に回される。
大戦末期で兵士不足に陥っていたはずだから、少年たちを駆り集めて収容所の看守をさせたのだろう。
そのような何の権限も無く、ただ命令に従うだけの若年の看守が、上官に逆らうなんてできるはずがない
て言うか、ナチスの命令に逆らうなんて不可能だろう。命令に逆らえば、自分が処刑されるだろう。

彼らは完全にスケープゴートだ。ドイツ人が「私たちは何の罪も無い被害者です」なんて白々しい顔をして生きていくために犠牲にされた気の毒な生け贄だ

(2021.2.25)



〜おしまい〜





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