家賃滞納者の家財処分

〜 妥当な判断かな 〜



家賃を滞納した借主の家財無断で処分できるとする契約条項をめぐって、関西の消費者団体が家賃保証会社を訴えた裁判の控訴審判決で、大阪高裁条項は適法だという判決を出した。
これはNPO法人「消費者支援機構関西」が家賃債務保証会社「フォーシーズ」を相手取り、契約条項の差し止めを求めて提訴していたものだ。

フォーシーズは借主と結ぶ契約の中で
  ・賃貸物件の借主が2ヵ月以上の家賃を滞納している
  ・借主と連絡が取れない
  ・長期にわたり借主が電気、ガスなどを使用していない
  ・客観的に見て借主が再び住宅を使用する様子がない

の4要件を満たせば、「物件を明け渡したとみなし、室内の家具や荷物といった家財を無断で処分することが可能だ」とする条項を定めている。

原告は、この契約条項が「追い出し条項」にあたり違法だとして条項の差し止めを求めていたもので、1審の大阪地裁は原告の訴えの一部を認め、契約の差し止めを命じていた
しかし、控訴審の大阪高裁では、これらの条件を満たしている場合は「借り主は物件を住居として使用する意思や家財を守る意思を失っている可能性が極めて高く、占有権が消滅していると認められる」と判断し、1審判決を取り消して条項は適法だとした。
また、消費者利益の保護を定めた消費者契約法にも反しないと判断した。

なかなか微妙な問題だ。
一般的に言って、借主は法律により強力に保護されている。
借地借家法により、家賃滞納が生じたからといってすぐさま借主を追い出すことはできない。過去の判例からすると、本人への督促はもちろん、連帯保証人への督促をしてもなお3ヵ月ほど家賃滞納が続けば契約解除の事由に該当するとされる。
ただ、それで契約解除ができたとしても、借主を強制退去させることはできない借主を退去させるには民事訴訟を起こさなければならない。そして、判決後も借主が退去しない場合は、強制執行の申立を行わなければならない
このような手続きには、早くても半年、長い場合2年はかかると言われており、弁護士費用もかかるし、その間は家賃収入も入ってこない。

このような時間と費用がかかる手続きを避けるため、家賃を滞納している借主の部屋に勝手に入って家財を撤去処分したり、鍵穴に鍵ロックを取り付けたり鍵自体を交換して借主が入れないようにする事があるが、これらは違法な「追い出し行為」として禁止されており、損害賠償を求められる。
たとえ賃貸借契約書に「賃貸人は、賃借人が賃料の支払を滞らせたときには、鍵を交換できる」とか「賃借人が賃料を滞納した場合、賃貸人は、賃借人の承諾を得ずに建物に立ち入り、適当な処置をとることができる」なーんて特約を定めていたとしても、そのような条項は公序良俗に反し無効とされている。

通常、借主が退去した際に家財道具等の動産を残していた場合は、特に契約が無い限り、大家は勝手に処分してはいけない
大家からすれば、借主が明け渡す際に残していったということは、「借主にとって不要な物だから所有権を放棄して残していったのだろう」と判断して処分したくなるところだが、明らかにゴミだと判断できる物以外は、所有権は借主にあるとみなされる
なので、勝手に処分すると所有権侵害で損害賠償義務が発生するし、さらに刑事上の責任として器物損壊罪が成立する場合もあり得る。

もちろん、借主と連絡が取れる場合は、引き取りを要請することができるが、借主が家賃を滞納したまま夜逃げしたりして連絡が取れなくなったら、大家は困ってしまう
通常は、残された家財道具等の競売申立てを行い、競売代金から家賃の滞納分を回収することになるが、こうした手続を取ることは大きな負担になる。
そもそも、大家としては、残された家財道具なんてほとんど価値が無いだろうから、それを競売して収入を得たいという事ではなく、早く残された家財を処分して、次の人に貸したいのが本音だ。
ただでさえ家賃を滞納されて被害を被っている上に、残された家財道具の処分ができないために次に貸すこともできないなんて、大迷惑だ

このように、借主を被告として裁判を起こして裁判所の許可を得るには、大変な労力を要するため、それを避けるために、今回、問題になったような契約条項が付けられたりする訳だ。
私はアパート経営なんてしてないので、決して大家に同情的ではない。最近のコロナのバカ騒ぎにより生活が困窮している気の毒な人に対しては、雀の涙のような金銭補助よりも、強制的に家賃を半額にしてあげると言った措置の方が望ましいと考えているくらいだ。
しかしながら、今回、訴訟となったフォーシーズの契約条項の4要件を満たしているような場合は、さすがに勝手に家財を処分されても仕方ないんじゃないかなあと思う。
まっとうな常識的な判決と言えるだろう。

(2021.3.15)



〜おしまい〜





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