東京マラソンのペースメーカー

〜 ペースメーカー依存を捨てろ 〜



昨日開催された東京マラソンは、パリオリンピック代表の男子3枠目を賭けた戦いだったが、日本人最高順位だった西山雄介のタイムは2時間6分31秒で、日本陸連が定めた設定タイム2時間5分50秒を切れなかった
このため、パリオリンピック代表の男子3枠目は去年のMGCで3位だった大迫傑に決定した

この結果自体は悪くはない。
去年のMGCで1位と2位になってパリオリンピック代表に選ばれた小山直城と赤ア暁は、これと言った実績が無く、本番での活躍はあまり期待できないのが正直なところだ。
その点、大迫傑は、過去2回も日本記録を出した事があるし、東京オリンピックにも出場して6位に入ったという圧倒的な実績があるので、重圧のかかるオリンピック本番でも活躍が期待できる。

ちなみに女子のパリオリンピック代表は、去年のMGCで1位となった鈴木優花は大東文化大学時代から活躍した若手のホープだし、2位となった一山麻緒は実績十分だし、さらに3枠目は大阪国際女子マラソンで目を剥くような積極的なレース展開で圧倒的な日本新記録を出した前田穂南に決まったので、なんの心配も無い。

ところで、今回の東京マラソンでは、ペースメーカー批判が出ている
今大会ではペースメーカーは2グループいた
ファーストのペースメーカーは国内最高ペースとなる1km2分52秒の設定で30km地点まで走る予定だった。
ところが、トップ集団のアフリカ勢が中盤まで世界記録を上回る快ペースで飛ばしたため、3人のペースメーカーは着いていくことができず、16km地点で1人目が脱落し、その後2人目も脱落し、26km地点で最後の1人も脱落し、30kmまで行かないうちに全員が脱落するという失態を演じた
ペースメーカーが脱落するなんて、あるまじき体たらくだ。ペースメーカーがペースに着いていけないなんて、ペースメーカーの役割を果たしていない。全く存在価値が無い。
優勝したケニアのキプルトは世界歴代5位のタイムだったから、ペースメーカーも気の毒ではあったが、ペースメーカーの人選ミスであるのは明らかだ。

だが、それより問題になっているのがセカンドのペースメーカーだ。
彼らは日本新記録ペースとなる1km2分57秒で日本人選手を引っ張る予定だったが、不安定なペースに選手たちは苦しめられたようだ。
コースは10km地点までは下り基調で、残りはほぼフラットなので、前半で貯金を作り、終盤は粘るというレースプランが基本になる。ところが、今回のペースメーカーはペースが非常に不安定だった。
前半は設定ペースよりかなり遅く、その後、それを取り戻すかのようにペースを上げたりして、ペースの上げ下げを繰り返し、それに着いていく選手は体力が削られていったようだ。

ペースメーカーの仕事は決められた設定ペースを精密機械のように守って走る事だ。それができないのではペースメーカーとして完全に失格だ。最終タイムだけ辻褄があっていた、と言うのではペースメーカーの意味が無い。
私たちが2009年と2010年の丸亀マラソンでペースメーカーを務めた時は、まさに精密機械のように正確なピッチを刻む人間ランニングマシーンだったと自負している。

(幹事長)「そうだよなあ?」
(支部長)「人間とは思えないような精密機械やったな」
(石材店)「あれだけ遅いペースのペースメーカーなら誰だってきっちり走れますよ」


それに対して、今回の東京マラソンのペースメーカー達はあまりにもいい加減だった。
パリオリンピックの切符を逃した西山は「思っていたより遅かった。予想外だった」と言っているし、日本記録保持者の鈴木健吾も「前半はペースよりはゆったり目で入っていた。テクニカルミーティングでは2分57〜58秒と聞いていたが、中盤は3分を越していて。大丈夫?みたいな感じで話していた。常に設定タイムという所で行って欲しかった」と言っている。
ただ、鈴木はそれ以前の問題として、今回は体調が悪くて28位に終わり、妻の一山麻緒との夫婦でのオリンピック出場はかなわなかった。

また、セカンドのペースメーカー達は、ペースが一定してなかっただけでなく、給水所で立ち止まって後ろの選手がぶつかりそうになったりしていた
自分のボトルを探していたようだが、ペースメーカーが自分のボトルを探して立ち止まるなんて、もう論外の失態だ。ペースメーカーは一般用のドリンクでも飲んでろ!
こんな役立たずと言うか、邪魔なだけのペースメーカーには報酬なんて払う必要は無い。

女子でも、女子の日本記録更新を目指していた新谷仁美がペースメーカーの不安定なペースに翻弄されたようだ。
女子のペースメーカーは日本人の男子ランナーだったが、前半は設定ペースより遅かったようだ。
新谷はそれに気づかず、「ハーフまではリズム良く走りたかったので、ペースメーカーを信用して着いていった」そうだ。
途中でコーチから指摘されてペースが遅いことに気付いたが、20kmを過ぎてからは一気にペースが上がるなど、変なリズムになってしまい、体力を使い果たしてしまったとの事だ。

ただ、そもそも、最近のマラソン大会では選手はペースメーカーに頼りすぎなのではないか?と素朴に思ってしまう。
そもそも、ペースメーカーは必要なのか?
最近のマラソン大会では必ずペースメーカーがいて、たいていは30km地点辺りまでペースメーカーが主導する
つまり、選手たちは30km地点まで何も考えず、ただひたすらペースメーカーに着いていくだけになっている。完全に受け身のレース展開だ。
もちろん、30kmまでペースメーカーに着いていくのは大変だ。だけど、何も考えずに頭を空っぽにしてただ単に着いていくだけで本当の実力が着くのだろうか?

オリンピックや世界陸上ではペースメーカーがいないので、そういう場では自分の考えるペース配分で勝負しなければならないし、自分の頭で色んな事を考えて走らなければならない。他の選手との駆け引きも非常に重要になる。
それを考えると、今回のレースでペースメーカーが不安定だったから良い結果が出なかったなんて文句を言うのは情けない限りだ。
ペースメーカーなんていなくても、自分の戦略をしっかり持ち、それを実行できる能力のある選手たちが出てこなければ日本のマラソン界の将来は無い。
オリンピックへの出場権を手にする事だけを目標にし、オリンピックに出るだけで満足しているようでは世界に通用しない。

女子では、パリオリンピック代表の女子3枠目を決める大阪国際女子マラソンで、前田穂南が20km過ぎでメースメーカーを追い越して置き去りにし、そのまま日本人としては2位以下を大きく引き離し、圧倒的な日本新記録を出した
あの感動的かつ果敢な攻めの走りを見たら、ペースメーカーに頼ってばかりで文句ばっかり言ってる男子選手の不甲斐なさに情けなくなる。

日本陸連の高岡シニアディレクターは、今回のペースメーカーの不祥事に対して「レースは生ものなので、こちらが思っている通りには進まない。その中でどう選手が考えて対応するかが必要。ダメだったからダメだったとはならない」と正論を述べている。

また、百戦錬磨の川内優輝は以下のように述べている。
「ペースメーカーがいる間はただ流れに乗ればいい」と考えがちですが「機械ではなく選手」ということは常に頭の隅に置いておく必要があります。
給水が苦手で止まったり戻る選手も時々いますので「そのような選手の近くを走らない」、「接触しないように集団内での位置取りを変える」、「スペシャルドリンクを取りに行けない位置取りをしてしまったらゼネラルを取りに行く」といったことを給水所が近づいてきたら瞬時に判断する必要があります。
また、ペースメーカーが速かったり遅かった場合には多少力は使いますが「Good!」、「Pace up!」等とコミュニケーションを取ることも大切で、実際に海外選手はよくやっています。
今回の日本人男子集団は設定より遅かったようですが中間点は五輪内定基準タイムピッタリでは通過しています。
Bestではありませんが他の海外レースを基準にすると Betterの範囲だと思います」

この川内優輝の言葉が真実だ。

彼のような超ベテランの意見を真摯に受け止め、ペースメーカー依存の幼稚なレース展開を捨てなければ、日本のマラソン界の将来は暗いままだ

(2024.3.4)



〜おしまい〜





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