マイホームは買うべきか?

〜 マイホーム 対 賃貸住宅 〜



「マイホーム」という言葉は嫌いです。なんだか侘びしいぞ。高度経済成長期に地方から東京へ出ていって、狭い公団住宅に住みながらがむしゃらに働いて、「将来、小さなマイホームを建てるのがまっとうなサラリーマンの夢です!」みたいな侘びしさが漂う語感だぞ。でも、分かりやすいからタイトルに使いました。
ここではマイホームを取得すべきか、それとも一生賃貸住宅に住むべきか、論じてみます。


住宅取得優遇策により好調なマンション販売
長引く不況をなんとかしようと必死になってる政府は、住宅投資を景気回復策の大きな柱と位置づけ、低金利政策や住宅ローン減税など、住宅取得の優遇措置を図ってきた。そのおかげで、バブル経済崩壊以降の徹底的な地価下落と相まって、住宅は今が買い時と宣伝されている。宣伝しているのは政府と建設業界なんだけど、実際にマンションの売れ行きは絶好調みたい。最近になってゼロ金利政策は解除されたけど、今後、緩やかな金利上昇が予想される限り、金利面でもまだ買い時と言われる。

本当に買い時か?
でも本当に、今、住宅は買い時なんだろうか。新聞や雑誌に論評を寄せている経済評論家達の意見は総じて否定的だ。金利は低いと言っても、かつての経済成長期と違って所得が頭打ち傾向の今、実質的な金利負担は、実はかなり重い。地価の下落傾向はかなり落ち着いてきてはいるものの、条件の悪い土地はまだまだ下がりそうだし、条件の良いところも、今後、極端に上がることはなく、全体としてはまだ下落傾向が続くというのが一致した見方。今、焦って買う必要性はない。
それに、日本人に根強かった持ち家信仰が崩れつつあるとも言われている。終身雇用による安定した収入の保証が無くなり、一生ローンに苦しむくらいなら、賃貸住宅で気ままに暮らしたいと思う人も多いだろう。今後、景気が回復したとしても、かつてのような土地の値上がりも見込みにくく、持ち家の資産としての魅力も色あせてきた。余暇を楽しむライフスタイルが定着して、積極的に賃貸住宅に住むという人生設計も一般的になってきたようだ。

みすぼらしい発想の経済評論家
でも、このような訳知り顔の経済評論家の見解は、実は、極めて視野の狭い貧しい発想じゃないか。彼らは住宅の取得について、金の損得勘定しか考えていない。資産価値としてどうのこうのとか、キャッシュフローとしてあーだこーだとか、まことに貧しい視点でしか物事を見ていない。家って、そんなものじゃないぞ。家って、気持ち良く住むもんなんだぞ。ゴルフをする楽しみ自体を無視して、相場だけでゴルフ場会員権を云々していたのと全く同じ。
これには仕方ない理由もある。彼らの言うところのマイホームとは、すなわち分譲マンションなのだ。僕らの感覚からすれば、「家」というのは「一戸建ての家」のことであって、コンクリートで仕切られたマンションとは明確に区分されているけど、東京に住んでいる友人達が「家を買っちゃったよ」って言う場合は、間違いなくマンションのことである。いくら地価が下落したからと言って、東京でサラリーマンが一戸建てを買うのは容易ではない。むしろ、かつては通勤時間が2時間もかかるような埼玉や千葉の僻地で一戸建てを買う人も多かったが、地価下落により、最近は都心に近いマンションの方が人気のようだ。確かに、いくら一戸建てと言っても、通勤に1時間も2時間もかかるようじゃ疲れるもんなあ。
とにかく、マンションが対象なら経済評論家の言い分も分かる。賃貸アパートだろうが分譲マンションだろうが、コンクリートの箱に変わりはない。物理的に全く同じようなものなんだから、後はお金の損得勘定だけで悩めば済む。住宅取得と言うときに分譲マンションしか頭に無ければ、確かに今が買い時かどうかは判断に苦しむところ。
マンションの資産価値は確実に落ちていく。だって建物が古くなれば、当然価値は落ちる。それ以上に周辺の地価が高騰すればトータルでプラスとなるけど、今後、そういう可能性は少ないかな。建物が古くなって建て替えたいと思っても、地震で半壊でもしない限り、全住人の同意が成立して立て替えできる可能性はほとんどゼロ。どうにも身動きが取れなくなり、どんどんスラム化するしかない。もちろん、40歳前後で買えば、死ぬまではなんとか住めるだろうけど、それくらいなら何年かおきに新しい賃貸アパートに引っ越し続けた方が常に新しい快適な住居にありつける。

マイホームに否定的だった私
実は僕も、ほんの1年半前までは、このような経済評論家の意見に全く同感だった。て言うか、そもそも自分の家を持とうという発想が無かった。うちの会社の社宅は交通至便で、誠に立地条件がよろしい。マンションならともかく、一軒家でも建てようと思ったら、いくら地方都市の高松市とは言え、物件の大半は郊外にあり、立地条件は断然悪くなる。通勤も通学も買い物も何しても不便になる。住所も郡部になっちゃう。それに僕の両親は丸亀市に住んでいるが、実はそこからでも十分通勤できる。事実、多くの同僚が丸亀市から通っている。いまさら高松市の郊外の郡部に家を建てたところで、立地条件は丸亀市の実家と変わらない。なんだか中途半端でパッとしないなあ。
かと言って、しょせんアパートと同じようなマンションなんて買う気にはなれないし。実はその時住んでいたアパートは、新築の素晴らしい物件だったのだ。それ以前に数年間住んでいたアパートはかなり古くて狭くて、とても快適とは言い難かった。あんまり家に帰らなかったのは、そのせいであった。って言うのは言い訳だけど、とにかく、そういう所に何年も住み続けると、もしかして不快さがたまらなくなって自分の家でも買おうかという発想も出てきたかもしれない。しかしラッキーなことに、そのアパートがついに崩壊寸前で建て替えとなり、一気に新築の広いアパートに移ることができたのだ。こうなると、本当に快適で、もう定年までここに居座ろうか、なんて考えたりした。
で、僕としては、このままずっと社宅に住み続けながら、郊外の山中に週末用のセカンドハウスを建てたいと思っていたのです。最近、東京辺りだと、そういう人も多いですね。定年になって社宅を追い出されれば山荘に永住すれば良いし。そのうち丸亀の実家に移るかもしれないし。

突然の転勤命令
ところが、状況は突然変わる。いきなり予想外の異動辞令が出てしまったのだ。たいてい辞令というのはいきなり予想外のものがくるもんだけど、これは本当に予想外でびっくりした。ある日、突然、高知へ行けと言うのだ。しかも、しゅっちゅうコロコロ変わる社内の福利厚生制度のエアポケットに入ってしまい、高松の社宅は出ないといけなくなったのだけど、子供の学校の関係でどうしても家族は一緒に連れて行けない。それで急遽、やむを得ず、家族が高松に住む住宅を手配しなければならなくなった。
それまで家を買おうなんていう発想が無かったもんだから、まずは賃貸アパートを考えた。ところが、それまで安い社宅に住み続けた感覚からすると、社宅と同等の立地条件と広さのアパートを借りるとなると、家賃がとんでもなく高くて非現実的。かと言って、その時住んでいた新しくて広いアパートより古くて狭いアパートに、社宅より高い家賃を払って住むなんて、なんだかとってもバカらしい。それで賃貸アパートはあっさりと諦めた。

やっぱり冴えないマンション
で、突然、自分の家を買うことにする。と言っても、この時点で一戸建てにこだわっていた訳ではない。本来的にマンションには否定的だったんだけど、子供が学校を変わらずに済む範囲で探すとなると、そもそも一戸建ての物件はほとんど無い地域。会社のアパートは立地条件が良すぎるから、周辺で買うとなるとマンションくらいしか無いのだ。
近くにちょうど新築のマンションが出来ていたので、さっそく見に行く。まずは、住んでいたアパートと同じくらいの広さの3LDKを見る。当然、新しいし、広さも同じようなものなので、会社のアパートから移り住んでも惨めな気分にはならない。でも、お値段は2千数百万円もする。会社のアパートの家賃が2万円/月だったので、100年分の家賃と同じお値段。会社のアパートなら100年もすれば何回も建て代わってどんどん新しくなるけど、マンションならどんどん古くなる一方。100年はもたないぞ。ま、会社も100年はもたないだろうけど、やっぱりちょっと虚しい。せめてもっと広い部屋を見ると、4LDKは3千万円を超える。いくらなんでも、そのうち資産価値がゼロになるマンションに3千万円は出せないよなあ。それに4LDKなんて言っても、無理に部屋数を増やしたような狭い部屋ばかりだし。なんだかなあ。

奇跡の一戸建て
なんて途方にくれながら住宅情報誌を隅から隅まで見ていたら、あるじゃないのーっ!もうすぐ完成すれば売り出し開始します、っていう一戸建ての予告情報みたいなのが小さく載っている。物件の詳細内容は記載されてないけど、すぐさま不動産屋さんに連絡して物件を見に行く。立地条件は、会社のアパートよりも、さらに町中に近い申し分の無い場所。こんな所に一戸建ての住宅が売られているっていうこと自体が信じがたい。なんでも大手生命保険会社が社宅を手放した跡地に建てたのだそうだ。ちゅうことは、不況のおかげで建ったような家ですな。土地は60坪程度で、まあまあの広さ。本当はもっと広い土地が欲しいところだけど、この場所でそれは無理な話。て言うか、会社まで自転車で通えるこの場所で、これだけの広さの物件があること自体が奇跡のような話。
家自体も、まだ完成はしてなかったけど、悪くはない造り。床面積はちょっと狭い気もするけど、その分、庭もあるし、駐車場は3台分あるし。
家を探し始めて、まだ半日。こなな大きな買い物を僅か半日で決めてしまうのも恐かったので、取りあえず1日だけ待ってもらい、一晩よーく考えて、結局、翌朝に決めてしまった。実質、まる1日で決めてしまった家探し。時間が無かったから仕方なかったけど、その後、色々と見ているけど、こういう立地条件の良い場所に一戸建ての物件は、やはり皆無に近い。たぶん1年も2年もかかったって、見つからないだろう。ひょんないきさつで信じられない短時間で決めてしまったけど、どう考えてもラッキーだったなあ。

一戸建ての喜び
て言うことで、ある日、突然、自宅を持ってしまった。
家自体は小さなものだけど、場所が良い分だけ土地はバカ高く、一夜にして膨大な借金を背負ってしまった。おまけに地価はまだまだ下落傾向で、資産がどんどん減っている気もする。ちょっとやな感じ。
しかし、悔やんでいるかと言えば大間違い。持って初めて分かった一軒家の素晴らしさ。家に居るのが楽しいなんて、初めての経験だわ。高知へは単身赴任となったけど、金曜日の夕方には高松の自宅に帰り、月曜日の朝まで居る。早く家に帰りたくなる。何やっても充実してしまう。色んな物を作ってしまう。大工さんにも左官さんにもなってしまう。それまで何の興味もなかった草花も植えまくる。ほんとーに生きるって素晴らしい。ぜんぜん大げさに言ってるんじゃないぞ。
昔、会社の人で同じアパートに住んでいた先輩が「土の上に直に住まないと落ち着かない」なんて言って早々に郊外に家を買って出ていったのだけど、わざわざ不便なところに住むなんて理解できなかった。それに、一戸建てよりアパートの高層階に住む方が気持ちが良いと信じていた。子供の頃は、実家の一戸建てに住んでいたけど、子供時代には住宅のことなんて考えないもんね。田舎の一戸建てに住むよりは町中の高層住宅に住む方が気持ち良いと信じて疑わなかった。
でも、今初めて分かった。そんな事は大間違いだったんだっ!もちろん、今でも、不便な郊外に住むのは嫌だけど、町中の一戸建てに住めるんだったら、いくら借金抱えてもへいっちゃら。よく「一生ローン抱えて生きるより気楽にやりたい」なんて言うけど、でも、本当に一生ローン払う訳じゃないんだよ。うちのローンだって、所詮は20年で、定年とほぼ同時期。年金暮らしになればお気楽人生になれる。逆に賃貸アパートは一生、家賃を払い続けなければならない。それって、歳取ったときに、本当にお気楽と言えるのか?
また、「ローン抱えて倹約生活送るよりも、色んな楽しみにお金を使って豊かな人生を送りたい」っていう人も多いけど、金利の安い今、ローン抱えたって、そんなに生活が質素になるもんでもないよ。毎月している貯金の額が今までより減ったくらいで、生活費が少なくなったわけでもないし。むしろ、もう大金を使う予定も無くなったので、かえって気楽に消費できるようになっちゃった。デジカメや高性能パソコンも買ったし。

結論から言えば、賃貸アパートにしても分譲マンションにしても、住む喜びってのが乏しいと思います。毎日、会社に行ってストレスためて働きながら、枠で仕切られたコンクリートの箱に住む人生って、ちょっと虚しいじゃない。生きていく必要条件としての住宅としては許容できるけど、それ自体の喜びは無いよなあ。一戸建ての家は、住むこと自体が喜びです。庭に草木を植えていくのも楽しいし、レンガ並べたり芝生を植えていくのも楽しいし、庭で使うテーブルやベンチを作るのも楽しいし、こんなに楽しいなんて思いもよらなかった。それから子供がドンドンしても平気だし、上や隣の住人の音が聞こえてくることもないし。今までは考えたこともなかったけど、コンクリートの壁一枚はさんで他人が住んでいるなんて、なんだか気持ち悪いと思いませんか?
どうせ生きるのなら、せせこましいコンクリートの箱に住むより、土の上の一軒家に住むべきだと思います。

一戸建ての弱点
このように天国のような一戸建て住宅だけど、弱点もありまする。庭のウッドデッキやベンチで気持ちよく寝転がっていると、すぐ蚊に刺されちゃうことです。アパートの上層階に住んでいると、あまり蚊の事を心配する必要はないけど、地べたに生活していると、どこに住んでも蚊にやられてしまう。これは、なんとかならんもんでしょうかねえ。虫除けスプレーとか蚊取り線香を使ってるけど、ちょっとめんどくさい。一気に撲滅したい。農薬か何かを撒けば良いのかしら。でも、体に悪そう。
それから、ウッドデッキやら駐車場の屋根やら、すぐ鳥のフンが落ちているぞ。
それから、野良猫ちゃんが時々訪問してくるぞ。でも、それは、ま、いっか。

新しいフォロンティアを目指して
ところで、以前、企んでいた山の中のセカンドハウスだけど、これは諦めたわけではない。むしろ、最近の方が熱望している。
一戸建てに住み始めて大工仕事や左官仕事や庭師仕事に目覚めてしまった僕は、色んな物を作り始め、その結果、このホームページにも「日曜大工作品集」のコーナーを開設してしまったのです。ところが、町中としては余裕のある方とは言え、所詮は狭い我が家。あっという間に作品集に埋め尽くされてしまい、新しい物を作る余地が無くなってしまったのだ。もっと大工仕事や左官仕事がしたいのに。
と言うことで、郊外の山の中にログハウスを建てて、その周辺を思う存分整備していきたいと思うのです。広い庭を造ってブランコや露天風呂も作りたいな。建設予定地のメドもつき、後は建設費をひねり出すだけ。って言ったって、それが一番大問題か。

(2000.10.17)



〜おしまい〜





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