日米映画評論

〜 文化の差 〜



自宅から歩いて数分のところにロッキーがある。ロッキーとは、香川県人なら言わずとも分かるが、CD&ビデオのレンタルショップである。かつてはTUSTAYAとかWillも頑張っていたが、ロッキーが勢力を拡大し始めてから、香川県のレンタルビデオではロッキーが圧倒的な力を誇る。なんと言っても豊富な品数と、各種の割引メニューにより、どう見ても他店に勝ち目はない。ロッキーに無いCDやビデオを借りたい時だけ他店へも行ったりするけど、どこへ行っても潰れないのが不思議なくらいの閑散ぶりである。

うちの近所のロッキーは毎月4日がCDもビデオもDVDも100円となっており、当然、客は朝から殺到する。勤務中と思われる背広姿のおっさんもいる。昨日(1月4日)は今年最初の4日であり、仕事始めの日とは言え、まだまだ休んでいる人も多く、かつ、学生は冬休み真っ最中なので、平日だけど朝から大盛況だった。で、私がちょっと遅めに行った時には、イナゴの大群に襲われた畑のように、めぼしい物は何一つ無くなっており、見るも無惨な光景であった。
私が遅めに行ったのには理由がある。開店と同時に攻めれば、何かめぼしい物にありつけるのだけど、ものすごく混んでいるため、チェックアウトするのに異常に時間がかかる。それがいやなの。そして、実は、最近、プレイステーション2を買ったため(正確に言うと、子供が買ったのだけど)、今まで自室のパソコンでしか見られなかったDVDをリビングルームの大きなテレビで見られるようになった。だから、ビデオが無くなっていてもDVDが残っていればいいや、と楽観視していたのです。ところが、これは甘かった。今時、DVDもそれほど珍しいものではないらしく、私が行った時には、DVDもめぼしい物は無くなっていたのだった。

しかし、さすがに、最新作がほとんど何も残っていないビデオとは違い、DVDのコーナーは、最新作でも、さほどめぼしくないものはかなり残っている。で、その中からSFホラーものを借りてくる。1つ目は蜘蛛が人間を襲うやつ。2つ目はゴキブリが人間を襲うやつ。3つ目は巨大熊が人間を襲うやつ。(同じようなんばっかりやんか) で、3つとも最新作だったので、1泊2日で返さなくてはならなかったため、無理して深夜まで見てしまいました。で、ものすごーく、腹が立ちました。完全に時間の浪費でした。
1つ目の蜘蛛が人間を襲うやつは、状況設定もチャチなら、理由付けもほとんど無しで、とにかく蜘蛛がどんどん大きくなって、最後には怪獣のような大きさになって人間を襲うという3流映画でした。予算をかけてないので、セットもチャチで、昔のウルトラマン並みでした。2つ目のゴキブリが人間を襲うやつは、これも理由付けが無茶苦茶なままゴキブリが巨大化して人間を襲うのだけど、ま、1つ目と同レベルの3流映画。3つ目の熊が人間を襲うやつは、ちょっと状況設定がまともで、なかなかマシかな、と思ったけど、最終的には、途中で見るのをやめたほどひどかった。
要するに3つとも完全な時間の浪費のクソビデオでした。テレビゲームでは、しょーもないゲームの事をクソゲーと呼びますが、全くひどいクソビデオでした。もちろん、どれもアメリカの映画です。この類のバカ映画はアメリカとか日本でしか作ってないけど、日本のものは予算が無いせいか、一昔前のテレビのウルトラマン並みのちゃちなものしかなく、アメリカ物の独壇場ですが、それは予算が豊富な話題作の話であって、こういう予算の乏しい作品は、日本並みのひどさでした。

で、怒り狂いながら今日(1月5日)、新聞のテレビ欄を見ると、ビート武が作った「HANA−BI」をやっている。昼間の1時からなんて言うとんでもない時間だけど、いまだに冬休みを満喫、というか持てあましている僕にとっては楽勝の時間なので、見ました。ビート武なんで、あんまり期待してはなかったけど、確かカンヌ映画祭でグランプリを取った映画だった、と思うので、もしかして、良い作品かもしれないと思ったのです。
で、見て、ぶっ飛びました。こないにすごい映画は、あまりに久しくて、記憶に無いくらい。ものすごく良かった。20年以上前に、「タクシードライバー」を見て、感動のあまり、そのまま座り続けて4回連続で見た時と同じような衝撃でした。ほんまに、すごい。ビート武って、すごいのね。さすがはヨーロッパで賞を取っただけのことはあります。

その感動を引きずったまま、夜はテレビで「ロストワールド」をやってました。これは、第1作の「ジュラシックパーク」を最初に原書で読み、余りの面白さに映画を見たら、ストーリーが本の1/10くらいの安易なちゃちなものになっていたのにはがっかりしたものの、映像のすごさに大喜びし、続いて「ロストワールド」も原書を先に読み、映画で見ると、やはりストーリーはカスカスになっていたものの、映像が一段とすごくなっていて、映画館でも見たしレンタルビデオでも見たものです。で、テレビでやっているとなれば再び見なくてはならないので見ましたが、やはり何度見ても映像はえーぞー。

で、ここで考えた。
日本の映画とアメリカの映画は根本的に違う。同列には比較できないな、と。
例えば、本の場合、ちらっと本棚を眺めて目に入った「恐るべきさぬきうどん(全4巻)」と「新時代の企業ファイナンス戦略」と「失敗しない野菜作り入門」を同列に比較する人はいない。単に、どれも紙に印刷した本であるという物理的な特質以外に何の関連性も無い。それと同じように、日米の映画は、同じようにフィルムに映したという物理的な特質以外には関連性は無く、どれが良いとか悪いとか言えるようなものではなく、内容は別次元のものではないだろうか。
そして、日本の映画はヨーロッパの映画に通じるな。と。

僕はアメリカに2回も住んだことがあるくらいアメリカが好きで、完全にアメリカナイズされた嫌な日本人ですが、文化に関しては、アメリカの底は浅いと思っている。もちろん、日本もヨーロッパも、今は文化面でかなりアメリカナイズされていて、その同じ土俵で勝負しているものに関しては、当然のことながら、日本もヨーロッパもアメリカにかないっこない。音楽にしても美術にしても文学にしても、さらには学問や科学技術にしても、同じ土俵の勝負なら、投入する予算だけの問題ではなく、沸き上がるアイデアの点でも、完全にアメリカの勝利である。
特に、エンターテイメント的な作品については、アメリカの力は圧倒的であり、それは映画も同じである。だjから、日本の映画も、全部がアメリカの映画と本質が違うわけではない。むしろ、日本の映画も100本中99本以上は、アメリカ映画と同列のものだろう。で、それらは完全にアメリカ映画より劣る。これは断言できる。明らかに劣る。そしてヨーロッパも同じ。

しかし、違うのは、日本やヨーロッパにはエンターテイメントではない映画がある。これは映画だけでなく、他の美術や音楽や文学についても同じ。そして、実は、エンターテイメントでない日本の映画は、ヨーロッパの映画にすごく似ている。

かつて20年ほど前には、300円で2本の映画が見られる名画座が東京には何十館もあった。一時期、僕は大学をサボって朝から晩まで映画を見続けていた。今は東京にも、そういう安い映画館はほとんど無くなったみたいだけど、僕はあの経験があるおかげで、俳優や作品の解説や情報は知らなくても、映画を見る目はあると自負している。
そして、今日見たビート武の「HANA−BI」は、ゴダールにも通じる作品だった。こういう映画はアメリカには存在しない。「タイタニック」のように、お金をかけているだけでなく、大きな感動をよぶ作品もある、との声もありますが、あなな駄作に感動するようでは、それこそ知性の底の浅さが知れます。完全に商業ベースで作り上げられたバカバカしい「感動」です。もちろん、アメリカ映画にも「ペーパームーン」のような秀作もありますが、ちょっと無理して作ったわざとらしさが残ります。(もちろん、無茶苦茶好きですけど)

と書くと、アメリカ映画を否定しているようですが、そなな事はなく、エンターテイメントでは圧倒的な素晴らしさがあると思います。特に映像技術はすごい。アニメならともかく、「ジュラシックパーク」や「トイストーリー」のような見事さは、日本では残念ながら今は不可能でしょう。
だから、僕個人としては、アメリカ映画には、ヘタな感動を狙うのではなく、文化の底が浅いのは仕方ないのだから、徹底的に見事なエンターテイメント作品を作って欲しい。「スターウォーズ」も映像面ではなかなか良く出来ているのだから、安易でチャチで底の浅いストーリーを絡ませようとするから、程度の低い作品に成り下がっているけど、ああいう愚かな悪あがきは止めて、映像面だけに集中して欲しい。(もちろん、底の浅いアメリカ人は、あのストーリーに感動してますが)
一方、日本映画には、どんなに頑張ってもアメリカにはかないっこないのだから、娯楽物ではなく、深い感動を呼び起こすような作品を作って欲しい。
でも、「HANA−BI」にしたって、たぶん、興行的には成功はしてないのだろうから、それは難しいのかもしれないなあ。

(2001.1.6)



〜おしまい〜





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