君は「バトル・ロワイヤル」を読んだか?

〜 どこが悪書なんだ? 〜



「バトル・ロワイヤル(BATTLE ROYALE)」を読みました。
最近、映画化されて、その残酷さと青少年への悪影響が騒ぎになったストーリーの原作です。その話を聞いてから、とても興味を持っていました。中学生が生き残りを賭けてお互いに殺し合う話なんです。
で、つい先日、中学生の娘が友達から借りて、一気に一晩で読んでしまった、と言ってたのを又借りして、私も一気に徹夜して読んでしまいました。かなり分厚い本なんですが、読み出すと、途中で止めるのは不可能です。めちゃめちゃ面白いのです。

あらすじは、
東洋の全体主義国家、大東亜共和国の話。もちろんこれは日本のことだが、戦前のファシズムがそのままうまく続いて、経済的には今の日本と同じように繁栄しながら、政治的には北朝鮮のような徹底した弾圧の全体主義国家という設定。そして、高松市の沖合の島(たぶん女木島や男木島のすぐ北)が舞台となっている。なんで、いきなり高松が出てくるんや!?とびっくりしたが、作者が高松の人だった。なんと。知らなかった。
で、この国では毎年、全国の中学三年生を対象に任意の50クラスを選び、国防上必要な戦闘シュミレーションと称する殺人ゲームが行われる。これはクラスの全員を隔離されたエリアに放り込み、各自与えられた武器で互いに殺しあい、最後に残った一人だけは家に帰ることができる、というルール。プロレスで全員がリングに上がって、お互いに闘い合って、最後に残った者が勝ち、というバトル・ロワイヤルのルールだ。通常は、最初に強い奴と組んで他の奴らをやっつけておいてから、最後にそいつと対決するっていうのが常套ですかな。
このプログラムの一環として、1997年は全国50のクラスのうちの1つとして、香川県城岩町立城岩中学校3年B組が選ばれた。修学旅行に向かっていたバスごと政府に拉致され、島に連行された。
突然、理不尽なゲームに投げ込まれた少年少女たちは、さまざまに行動する。殺す者、殺せない者、自殺をはかる者、狂う者。仲間をつくる者、孤独になる者。信じる事ができない者、なお信じようとする者。愛する気持ちと不信の交錯。

こう書くと、なんだか荒唐無稽な残酷なストーリーのようだけど、これがとっても面白い。
まあ、ええおっさんの僕が読んだら、別に残酷でもなんでもない。世の中には、もっともっと残酷な話がいっぱいあって、こんなん、別に大したことはない。
でも、ストーリーとしては、非常に面白い。なぜこういうプログラムというか国家的ゲームが存在するのか、という設定がめちゃめちゃ甘くて、なんじゃそりゃあ〜、って脱力感を感じるけど、それに目をつぶって、その設定のもとでの展開、って事になると、もう、すごくよく出来ている。なぜ少年少女達が殺し合いにはまっていくのか、という展開が、とてもうまく出来ている。ぜんぜん無理がない。しかも、すごく面白い。もちろん、登場人物に、日本中探したって滅多にいないようなすごい奴らが大勢いるのは不自然だけど、ま、それはええじゃないの。42人のクラスが対象なので、とにかく登場人物が多くて、多少、混乱するけど、登場人物が多い割に全員のキャラが光っていて、良くできているなあと感心する。

本の宣伝文句には、「ギリギリの状況における少年、少女たちの絶望的な青春を描いた問答無用、凶悪無比のデッドアンドポップなデス・ゲーム小説!」なんて書いてあるけど、ちょっと違うなあ。そなな事を書いたら、敬遠する人が多いと思う。そんなに凶悪無比でもなんでもないよ。設定が単に中学生だというだけで。
出版社としては、残酷さを売り物にしているのだろうけど、読んでみると残酷さにではなく、社会のあり方とかも色々と考えさせられる。設定としては政治的に徹底した弾圧が繰り返されるファシズム国家に対する反逆であり、ファシズムに対する警告であるが、受験競争を考えると、何も非現実的な話ではなく、今の日本の教育の状況そのものである。クラスメートだろうが誰だろうが、自分が生き残らなければならない。同じことだ。
それから、そういう特殊な設定のもとだけど、仮に自分が同じ立場に立たされたら一体どうするか?と考えると、自分の性格を見つめ直すこともできる。どういう生き方を選ぶか。結局自分という人間の本質を突き付けられる。また、どういう戦略で行くか。ビジネススクールで勉強したゲーム理論にも通じるところがある。
結論から言えば、これはホラー小説とかバイオレンス小説というより、青春小説である。

などと、色々と分析するのもいいけど、要は、とにかく面白い。こんなに面白い小説は滅多にない。これは断言できる。昔「狼男だよ」シリーズがめちゃめちゃ面白かったけど、こういうのは少ないもんなあ。最近では、「ハリーポッター」シリーズが面白かった。こういう面白いのは英語の原書で読んでも苦痛じゃないので、英語の勉強がてら原書で読むようにしているけど、あっという間に3巻まで読んでしまった。早く第4巻が安いペーパーバックで出ることを待っている。しかし、「バトル・ロワイヤル」面白さは「ハリーポッター」をはるかに凌ぐ。読み始めたら、絶対に止まらない。

それなのに、専門家の評価はひどいものだった。
もともと、既に1997年に完成した作品で、某ミステリー小説賞に応募したけど、一次予選さえも通らなかったという。翌年、手直しを加え、今度は第5回日本ホラー大賞に応募した。今度は最終選考にまで残ったけど、審査員全員から「非常に不愉快」「こういうことを考える作者が嫌い」「賞のためには絶対マイナス」と、様々な非難を浴びて落選したとのこと。
一体、どういう審査員なんだろうなあ。僕はかつて、20年くらい前、池田満寿夫の「エーゲ海に捧ぐ」が芥川賞を受賞したときの吉行淳之介の評を読み、ひどく感激した記憶がある。作品自体は、もちろんすごかったのだが、なぜそれを選んだのか、という吉行淳之介の評の方に圧倒された。それまで、吉行淳之介なんて大して評価してなかったけど、すごい人なんだと思った。でも、長野県知事になった田中康夫が 「なんとなくクリスタル」なんていう幼稚園児の作文みたいな駄文で受賞してから、文学界の賞にはとても懐疑的になった。
そして、この「バトル・ロワイヤル」の落選だ。ひどいもんだ。見る目が無いのか、頭が悪くて想像力が欠落しているのか。どこが不愉快なんだろう。僕は「羊たちの沈黙」とかの方が、よっぽど気分悪いぞ。「こういうことを考える作者が嫌い」って、あなた、子供の心も精神も理解していない教育委員会のおっさんか、お前は。

ま、しかし、文学界から抹殺されようとしていた作品だが、太田出版という、聞いたこともないマイナーな出版社が拾い、1999年になって、なんとか出版されたのだ。もちろん、刊行と同時に激しい賛否両論の嵐を巻き起こしながらも、「このミステリーがすごい」で99年の作品中4位、「99ダ・ヴィンチBOOK OF THE YEAR」ミステリー・ホラー・SF部門3位、「週刊文春・99傑作ミステリー」国内部門5位と高い評価を獲得した。

さて、この強烈に面白い話を書いた高見広春という人は、なんと高松の人だった。生まれ(1969年1月10日生まれ)は県外だが、育ったのは香川県で、大阪大学文学部美学科卒を出たあと、1991年から5年間、四国新聞社に勤務していた。記者として地方部、警察、行政、経済など各部署を経験して退社し、今は香川県に在住したまま小説家家業をやっている。全然、ジャンルは違うけど、やはり青春小説で強力に面白かった「青春デンデケデケデケ」を書いた芦原すなおも香川の人だったし、なかなか有能な作家を輩出しているではないの。

ところで、私がこの作品を知ったのは、これが映画化されて、それが15歳未満は見てはいけない指定になり、それで話題になっていたからだ。で、昨年末から映画館で放映されている。こないに面白い話だから、原作に従って、アメリカ映画並にお金もかけてきちんと作れば、絶対に面白いと思うけど、通常、映画化されたら、面白くなくなるのが世の中の鉄則。唯一、例外は、これも、余りにも面白かったので原書で一気読みできたジュラシックパークです。これも鉄則通り、ストーリーは1/10くらいに簡略化されてしまって、ひどくつまらにストーリーに落ちぶれていたけど、なんといっても映像のすごさがそれを完全にカバーしてしまい、原書とは違った意味で、映像としてすごく面白かった。だから、「バトル・ロワイヤル」もお金をかけてリアルに作り込んでくれたら、絶対に面白くなると思うけど、日本の映画状況じゃ、無理だろうなあ。たぶん、すごくちゃちな作りになりそう。しかも、いくら一気読みしても一晩もかかる長編を、わずか2時間程度の映画にするんだから、ストーリーとしては、はしょってはしょって簡略化しまくりだろうから、ちょっと期待できない。
ちなみに、映画での設定は、原書と違って、
飽和した世界経済はアジアのある国に大不況をもたらした。完全失業率は15パーセントを越え、1千万人もの失業者が全国にあふれていた。さらにこの年の全国の不登校児童・生徒数は80万人。校内暴力による教職員の殉職者は1200人に及んだ。BR法とは深刻化する学級崩壊、卑劣な少年犯罪の多発に業を煮やした国民の憤懣を解消し、困難を生き抜く強靭な生存能力を備えた青少年の養成、ひいては強い大人の復権を目指して公布された「新世紀教育改革法」の通称である。
となっていて、まあ、原書よりもむしろ説得力があるような気もする。
それから監督が深作欣二ってところも期待はできる。それから、原書では不愉快の固まりのようだった監視官がビートたけしってのも期待できる。
なんだ、じゃあ、期待しまくりやんか。

ってことで、たぶん、肩すかしだろうなあとは思うのだけど、あまりの原書の面白さにつられ、映画も見に行こうと思っているのでありました。


(2001.1.31)



〜おしまい〜





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