どしたんや? 新庄!

〜 自分の生き方を反省 〜



いよいよプロ野球が始まっちゃった。
予想した通り、我が阪神タイガースは、最初からメロメロである。開幕戦としてはセリーグ新記録となる17点も取られて3対17のボロ負けである。相手は、このチームだけは死んでも嫌いな巨人である。これで開幕戦は11連敗である。開幕戦は、前年最下位の阪神は前年優勝のチームと当たってしまうから、かなりの確率で負けちゃうけど、それにしても気合いがまるで入っていないところは、阪神ファンと同じですなあ。ファンはええとしても、選手はもうちょっと気合いが入っていてもえんやけどなあ・・・。
引き続いて昨晩は開幕第2戦。前日のような一方的な試合ではなく、シーソーゲームになり、5回表には9対5とリードしてしまった。同居人は「あら。珍しく今日は勝ちそうやね」なんて言うが、「甘い!相手にはまだ攻撃が5回も残っている。10点差くらいあれば、少しは勝利の可能性もあるが、たった4点差では何の突っ張りにもならない」て言うことで、まだまだ期待する訳にはいかない。ヘタに期待して裏切られた時の虚しさを、この20年間、嫌と言うほど味わってきているのである。そして9回裏2アウトで2点差になったとき、同居人は「さすがにこれで勝ちやね」なんて言うから「いや!まだまだ甘い。阪神はここからなんぼでも点を取られる可能性がある。やっと勝利の確率が50%になったっていう程度やな」なんて言ってる間に、見る見るピンチがふくれあがり、一打同点、一発出ればサヨナラ負けという場面になる。さすがに呆れかえる同居人は「どしたん?このチーム!」なんて言うが、阪神ファンには想定内の展開であり、こななことで一喜一憂していては体がもたない。タイガースファンであるということは、他のチームのファンように、勝っては喜び、負けては悔しがる、なんていう人間の煩悩のようなスタンスではいけない。チームが存在すること自体で満足せんと。結局、最後はなんとか切り抜けて9対7で勝ちましたが、珍しいこっちゃ。

て言う具合で、最初から「やれやれ。今年も同じ調子やなあ」って感じの阪神タイガースですが、この阪神に見切りをつけて飛び出した新庄が活躍している。イチローも活躍しているが、これは予想内ですよね。いくら日本ではトップのバッターと言えども、アメリカでは通用しないんじゃないか、っていう予想もあったけど、いくらなんでも日本では群を抜く圧倒的な実力者であったんだから、これくらい活躍したって不思議でもなんでもない。しかし、高校野球に出ても優勝できないと思われる弱小阪神だからこそレギュラーで使ってもらえていたけど、実力的には2流中の3流っていうレベルの新庄がアメリカで通用するとは思えなかったほんの4ヶ月前に、このコーナーでボロクソに書いて、「こんなアホの勘違い男は、ニューヨークでのたれ死んでしまえ!」とまで言い放った私としては、信じられずにボーゼンとしています。
もちろん、まだオープン戦であり、本番が始まるとピッチャーは全力を出してくるから、新庄やイチローに限らず、どのバッターも成績はぐっと落ちるのだけど、それでも今の活躍だけでも信じられない。守備での活躍はある程度は考えられたが、新庄のパワーではメジャーの球威のある重い球を引っ張るのも難しいので、ホームランも期待できない、なんて言われていたけど、オープン戦とは言えホームランも出ちゃったし。 現地の新聞も、最初は完璧に無視していたが、一気に人気者になり、好意的な記事が続いている。

この信じがたい新庄の活躍に私は猛省しなければならない。もちろん、まだオープン戦であり、本番が始まれば全然ダメになっちゃうかもしれない。でも、そうなったからと言って「どうだ。やっぱり本番が始まればダメだろうが。それ見たことか」なんて言うつもりはない。開幕戦からベンチ入りすることだけでも、私は「参った。参りました」と土下座するしかない。十分である。

僕が猛省するのは、何も、新庄の実力評価の点ではない。だって僕は野球評論家でもなければマスコミでもないので、好きな事を言っても何の責任も無い。
僕が反省しなければならないのは、生き方の問題である。
僕が新庄をボロクソに書いたのは、単に阪神を飛び出したからではない。もちろん、阪神に個性的な選手がどんどん居なくなっていくのは寂しかったが、そのドケチ阪神が5年で12億円なんて言うとんでもない破格の条件を提示したのに、それを蹴って2千万円という年間最低保障という屈辱ものの条件で大リーグを選んだことが頭にきた。なぜなら、それは純粋に夢を追い求めたというより、よこしまな動機が見え隠れしたからである。 「お金じゃない。夢なんです」と涼しい顔をしていたけど、そななんは嘘で、将来タレントへの転身を目指すためにメジャーのブランドを欲したのではないか、という勘ぐりである。もちろん、その可能性もまだ否定はできないけど。
しかし、もしかして新庄は本当に夢を追い求めたのかも知れない。そして僕は自分の事を省みて、しばし考え込むのである。

確かに、新庄に限らず、最近の若い人の考え方は変わってきている。大卒で就職しても、平気で転職する。しかし、それは単に、世の中が豊かになって自由度が高くなってきたからに過ぎないと思っていた。景気低迷が続き、就職難だとは言え、失業者が街にあふれているわけではなく、何でもよければ若い人には仕事はいくらでもある。だから、単に、人生を真面目に考えていないから平気で転職とかするけど、フリーターなんかやっていると後ですごく後悔するぞ、って思っていた。
例えば、うちの会社だと、入社して数年で辞めてしまうっていう奴は非常に少ない。女子社員の中には結婚や出産で辞めてしまう人もいるけど、男子社員では滅多にいない。それには理由があって、僕もそうだけど、東京とかの大学に行って、わざわざ四国に帰るっていう人間は、何かしら事情があって帰ってきているのであって、うちの会社の仕事自体に魅力を感じて帰ってきているのではない。僕は就職活動を始めるまで、電気事業なんて国営だと思っていたくらいだし、会社について何の知識も無かった。単に四国へ帰ってくると他に就職口がないからという選択にしか過ぎなかった。何らかの事情で帰ってきただけであり、また、他にこれといった就職口もないような状況だから、そもそも転職なんて言う可能性は極端に少ないのだ。だから、新入社員は全員、最初は現場に配属になるけど、そこで「こんな仕事をするために入ったのではない」なんて言って辞めていくような奴はいないのだ。
しかし、世の中はそうでもないみたい。東京のように色んな就職口があるところでは転職は珍しくないみたい。留学していた頃の同級生の中には、どんどん転職している奴もいるし。それから先日、外資系の証券会社の人が挨拶に来たのだけど、彼は東大の医学部を出て、そのまま証券会社に入り、12年間勤めた後、今度また大学の医学部に戻る、なんて言ってました。もうそんなに若いとは言えない人だけど、結構、極端な転身やなあ。

まあ、転職が良いか悪いかは別の問題なのだけど、僕が反省するのは、いつの間にか自分もガチガチの保守路線になってしまっていたのではないか、って事です。
最初から会社に魅力を感じて入社したわけでもないし、自分がやりたい事も明確ではないし、転職の可能性ってのは最初から現実的には少なかったと言えなくもない。しかし、一生この会社に勤めようなんて考えもさらさら無かった。会社が40年も安泰に存在するとも思ってなかったし。だから真面目に仕事をしたこともほとんど無かったし、やたら我が儘を言い続けて海外駐在や留学させてもらっておきながら、会社に貢献しようなんていう発想も無いし、何かええ話があれば、いつでも飛び出しますよ、っていうスタンスだった。しかし、最近はそういうスタンスが小さくなってきたように思う。
理由はいくつか考えられる。家を建てちゃったので引っ越しが面倒になった、なんていう情けない理由も少しはあるかな。生まれてこのかた、たぶん30回は引っ越ししている僕にとって、引っ越しは日常的なことであり、辛くて面倒な事もある反面、常に新しい環境へ変化するっていう引っ越しの魅力は捨てがたかった。それが、家を建ててしまうと、この四国の片田舎がますます居心地が良くなってきたのだ。それで日曜大工にもはまってしまっているのだけど、本来はこのような小市民的発想は嫌いだったんだけどなあ。
それから、子供も大きくなってくると、せめて学校を終えるまでは面倒をみなければならないっていう責任が出てきた。上の子は中学生なので、まあそんなに長くはないけど、下の子は幼稚園児なので先が長いなあ。
それから、世の中、不景気がいつまでたっても終わらず、他にええ話なんて、とんと聞かないような状況が続く。今の仕事が魅力的という訳ではないが、じゃあ、何をやりたいんだ、と言われると、遊ぶことしか頭に浮かばない。もっと楽して、もっと高収入の転職口なんて、どう考えてもあるわけない。
なーんて事で、ついつい守りのスタンスに入っているような気がする。今まで常に頭の片隅にあった「新しい事を求めて日本を飛び出す」なんていうことが、非現実的になりつつある。だから、阪神に残っていれば5年12億円で、一生、遊んで暮らせたのに、目先の確実なお金よりも自分の可能性に賭けてみた、っていう新庄の生き方は、まるっきり純粋には受け取れないにしても、かなり強烈なパンチです。

それにしても、一方で、メッツは安い買い物をしたもんだなあ。なんちゅうても新庄の年報は大リーグの最低保障額の20万ドルだし、契約年数もたった1年やし。大リーグ選手の平均年俸が1億円を超える状況からするとタダ同然。これで新庄が本物なら、気まぐれに安い宝くじ買ったら大当たりだった、って感じやね。長銀を始め、色んな金融機関が破綻して、それをうまく外資系が買いたたいてあぶく銭を儲けているけど、このようなドライな商売のやり方も見習わなければならない点であるぞ。うちの会社にしたって、エンロンあたりに買収されてバラバラにされて売り飛ばされる可能性も高いぞ。ま、それはそれで刺激的ですけどね。

(2001.4.1)



〜おしまい〜





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