イラク政権の崩壊

〜 あっけない幕切れ 〜



イラクのフセイン政権が、あまりにもあっけなく崩壊してしまった。もう、びっくり!

確かに、開戦前は、アメリカは短期決戦で終わるだろうとの楽観的な見通しをしていた。圧倒的な戦力差と、フセイン政権に抑圧された民衆の蜂起によって、フセイン政権は外と中から簡単に崩壊するだろう、との見通しだった。
ところが、緒戦で意外に手間取ったため、最初から戦争反対だった世界中のマスコミ共が「それ見たことか。そう簡単にアメリカは勝てないぞ。ざまあみろ。長引いて泥沼化するぞ」などと大声で批判しまくったから、僕も、これはもしかしたら、アフガンの時のように簡単にはいかないのかもしれないなあ、なんて思っていた。ところが、実際は、拍子抜けするほど簡単にフセイン政権は崩壊してしまった。最後は、アメリカの当初のもくろみ通り、外と中からの自壊だった。

ところで、僕は、この戦争には、根本的に反対だった。これは以前の「アメリカはイラクを攻撃するのか?」に凝縮して書いている。短い文だけど、言いたいことは書いている。前回の湾岸戦争の時は、クウェートも良い国ではないが、そこへ攻め込んでいったイラクは攻められても仕方無い面がある。しかし、今回、まだどこも攻撃していないイラクを、潜在的に危険だというだけの理由で攻撃するのは、やりすぎだ。潜在的に危険な国は、他にもいっぱいあり、アメリカこそ、多くの国にとって潜在的に危険な国なんだし。もちろん、アメリカの本音の大きな部分は石油の確保だろうけど。

しかし、いくら今回のイラク攻撃が理不尽な戦争だからと言って、アメリカに反対する訳にはいかない。この点で、小泉政権の取った態度は仕方ない。他に選択肢が無いからだ。僕は自民党は嫌いだし、小泉政権も積極的に支持する訳でもない。特に、経済政策の無能ぶりを見ると、憤りを通り越して無力感にとらわれるが、今回のアメリカ支持は仕方ないと思う。
まず、反対しても意味がないからだ。フランス、ドイツ、ロシア、中国が束になってあれだけ反対しても、まるっきり無視して戦争を始めるアメリカだ。世界中が束になったって、かなわない国力と軍事力を持っている。最初から、あんまり重要視されていない日本が、そこに加わって反対したって、屁のつっぱりにもならない。まるで意味がない。アメリカの機嫌を損ねるだけだ。そして、アメリカの機嫌を損ねるとどうなるか。日本にとって最大の懸念事項である北朝鮮問題が暗い影を投げかける。
つまり、北朝鮮への牽制を考えると、アメリカがイラクを攻めるのも悪くは無い。イラクに対する攻撃だけを考えると、根本的にアメリカは間違っていると思うが、日本にとって最大の脅威である北朝鮮への抑止を考えると、アメリカがイラクを攻撃していくれるというのは有効策である。フセイン政権の余りにもあっけない崩壊を目の当たりにすると、さすがの狂信的無法国家の北朝鮮も、そう簡単には日本を攻めてきたりはしないだろう。

これは、まあ、普通に考えれば、誰でもたどり着く結論だと思うのだけど、なぜかマスコミは世界中が連帯して戦争反対の一色だ。もちろん、マスコミだけじゃなく、多くの市民も戦争反対だ。しかし、ここは冷静に考えなければならない。各国の事情は全く異なるのだ。
まず、フランスやロシアの政権がなぜ反対したのか。これは、何も、奴らが平和主義者だからではない。まさか、フランスやロシアの政権が平和主義者だなんて思っている人いませんか?世界中の反対があったって平気で無視して太平洋で核実験するフランスや、唯一の輸出商品として世界中に武器を売りまくっているロシアのことを、戦争反対の平和主義者だなんて思うのは、平和ボケしたおばさんくらいですよ。フランスやロシアは、フセイン政権のイラクにおける石油権益を持っていたが、フセイン政権が崩壊すると、一気に権益が無くなってしまうので、徹底的に反対していただけだ。イラクの石油権益を奪い取るために戦争をしかけたアメリカと全く同じ発想だ。戦争好きと平和主義者との争いではなく、石油をめぐる帝国主義どうしの争いにすぎない。
また、中国は、単に自分の存在感を示すために反対しているに過ぎない。経済的には無視する事のできない大国にのし上がった中国だが、世界的な政治力は意外に小さい。日本にとっては超大国で、超危険な国だけど、世界的には、さほど影響力がある訳ではない。中国の世界政治における存在は、国連の常任理事国だけが支えだ。だから、国政政治はあくまでも国連を中心に回って欲しいわけだ。それなのにアメリカが国連を無視して戦争を始めたので反対しているのだ。

大国同士が自分たちの思惑で争うのは昔から何も変わっていないし、国益を守るためには当然の行為だから、どうでもいい。
問題は、反対運動を繰り広げる市民達だ。まさか、フランス国民は、フランス政府が平和主義だから戦争に反対しているなんて思っているのだろうか。イギリス国民も、大半が戦争反対だったけど、どういう理由なんだろう。恐らく、彼らは、政府の政策とは全く無関係に、自分の主張をしているだけだろう。政府が賛成しようが反対しようが、おかしいと思ったから反対しているのだろう。これは、北朝鮮の脅威を抱える日本と違って、アメリカと対立しても失うものが無いからだろう。また、何の役にも立たない反対運動をする余裕があるからだ。一種のレジャーのようなものだ。豊かで幸せな人たちである。
ロシアや中国は、と言うと、市民の反対運動はほとんど無い。もちろん、マスコミはロシアや中国での反対運動も大げさに伝えるけど、それはほんの小さなものであり、ほとんどの市民は無関心だ。ヨーロッパの人たちほど豊かではないため、何の役にも立たない反対運動なんかする余裕が乏しいからだ。

日本の場合はどうか。日本も不況とは言え、世界レベルで考えると大変豊かな国なので、反対運動する人もいる。はっきり言って、これもレジャーの一種でしょう。僕も学生時代は、よくデモに参加して国会議事堂に押しかけたりしたから分かるけど、デモって、本当に気持ちいいものです。すごく良い事をやっているような陶酔感にとらわれる。「自分たちの手で世の中を改革するんだ」なんて思い上がる事が簡単にできる。本当は何の役にも立ってないくせに。単なるレジャーなのに。ま、安上がりなレジャーなので、行ったこと無い人は一度行ってみてはいかが。と言っても、昔ほどデモって流行ってないから、なかなか参加するチャンスもないけど。
それでも街頭を市民が埋め尽くしたような海外での反対運動の盛り上がりは日本には見られなかった。さすがに多くの国民が、戦争はおかしいけど北朝鮮の脅威を考えるとアメリカの機嫌を損ねるのはまずいかな、なんて理解しているのでしょう。あるいは、不況で余裕が無かっただけかもしれないけど。自分の売名しか考えていない市民運動家どもがいくら煽っても大半の国民が冷静だったのは、まずは良かった。
イラクにまでノコノコと出かけていって人間の盾なんかになった頭の悪い、もしくは目立ちたがりのふざけた野郎は、ごく一部だけだった。戦争に反対するのはいいけれど、フセイン政権の手先となって浄水場を守って、一体なにを考えているのか。マスコミが全く無視すればいいけど、マスコミは戦争反対一色で、戦争反対の人は何でもかんでも大きく取り上げるから、結構、最後まで報道していたなあ。
人間の盾になっていたバカ野郎どもは、あまりにもあっけなくフセイン政権が崩壊して市民が大喜びしている姿を見て、どう思っているんだろう。ぜひ聞きたい。今まで自分たちがやってきた行動が、イラク市民のためではなく、フセイン政権のためだけだった、という事を自覚したのだろうか。あるいは、街に繰り出して略奪の限りを尽くすイラク市民を見て、自分たちが守ろうとしていたのは何だったのか、と自省してくれているかなあ。自分たちの甘さを痛感してくれていれば良いのだけど。

もちろん、一番、反省せねばならないのはマスコミだ。マスコミは世界中が一丸となって戦争に反対だった。戦争に賛成するマスコミって、確かに少ないだろうけど。それぞれ国の事情が違うから一概には言えないが、せめて日本のマスコミの中には、「そら、あんた、正論を言えば、いくら悪い事をしそうだとは言え、まだ悪い事をしてない国を一方的に攻めるのは批判せんといかんけど、そうは言っても、アメリカの機嫌を損ねたら北朝鮮が攻めてきた時に守ってくれへんようになるから、ここは、まあ、大人の対応をしてアメリカに協力しといた方が得になりますわなあ」ていうような論調が少しはあってもいいと思うのだけど、あんまり見かけませんでした。
それは仕方ないとして、問題は、戦争反対のあまり、冷静で中立的な報道がなされなかったって事だ。(これは原子力問題をめぐる賛成派と反対派が争う選挙の報道の時にも、いつも繰り返されてきたことだが。多くの売国奴マスコミは反対派の御用新聞になりさがってしまう)

まず、イラク側を応援する姿勢が目立ち、アメリカは苦戦するといった書き方で貫かれていた。何が起こっても、アメリカに不利なような捉え方ばかりしていた。自分の希望が前面に出すぎてしまい。中立的な判断ができなくなっていた。ちょっとした戦闘でアメリカが苦戦すると、「それ見たことか。イラクは強いぞ。そう簡単にはアメリカの思うようにはならないぞ。泥沼に入るぞ。ざまあみろ!」てな感じだった。逆に予想外にイラク側が弱かった戦闘では「イラクがこんなに弱いはずはない。これは罠だ。悪い罠だ。いつか逆襲に会うぞ。せいぜい気を付けておくことだな」なんて皮肉っぽい書き方だった。最後は「地方は簡単に落ちたが、これは首都を防衛するために兵力を集中させているためだ。首都は簡単には落ちないぞ。市街戦になると一般市民に多大な死傷者が出るぞ。さあ、どうする。アメリカは身動きが取れなくなるぞ。ざまあみろ」てな書き方だった。
僕らは、これらの偏りまくった報道に騙されてしまった。アフガンの時と違って、今度こそはベトナム化するのかなあ、なんて思った。戦争が長引くのは嫌だもんなあ。いくら反対したって始まってしまった戦争は、早く終わらせないといけないのに、先の見通しは暗いなあ、なんて思っていた。
ところがどうだ!信じられないくらい、あっさりとフセイン政権は崩壊してしまった。無茶苦茶弱かった。ほとんど抵抗無しだった。なんのこっちゃ、って感じ。アフガンのタリバン政権と同じくらい弱かった。ここまで弱いのか、と呆れるよなあ。これは、ひとえに、マスコミの「イラクは強いぞ」という嘘に騙されていたからだ。バカなマスコミなんか信じた僕が愚かだったのだけど、ほんま腹立つ。
アメリカのマスコミは「アメリカは強いぞ。て言うか、イラクは意外に弱いぞ。これは、当初見込み通りあっさり片が付くかも」なんて書いていたのに、アメリカ以外の世界中のマスコミは、「アメリカは国中が戦争一色になってマスコミまでが戦争礼賛で冷静な報道ができなくなっている」なんて批判していたけど、実は冷静に報道していなかったのはアメリカ以外のマスコミだったのだ。
それから、これと相通じるものがあるが、アメリカと戦争を非難するあまり、いつの間にかフセイン政権側に立ったような論調が多かった。戦争に反対しアメリカに反対するっていうことは、注意してないとフセイン政権の擁護になってしまう。その端的な例がバカな人間の盾の連中だ。奴らは脳みそが空っぽなので完全にフセインの手先となっていた。しかし、マスコミも似たような論調だった。

いざフセイン政権があっさり崩壊してお祭り騒ぎで浮かれまくるイラク市民を見て、マスコミも反省しているのだろうか。「フセイン政権を倒してアメリカ軍が進駐していけばイラク市民は大喜びで迎えてくれる、なんていうアメリカの思い上がった勘違いは、イスラム教徒の強い反感で打ち砕かれるだろう」なんて言いまくっていたマスコミは、本当に大喜びしてアメリカ兵に花束を渡すイラク市民を見て、少しは反省しているのだろうか
マスコミだけではない。イラク以外のイスラム教徒達も同じだ。「フセイン政権は良くないが、異教徒がイスラムの地に攻め込んでくるのは、それ以上に悪い。みんな、ジハードじゃ!」って大騒ぎしていていたけど、アメリカが攻めてきて大喜びするイラク市民を見て、どう思っているのだろう。自分たちの勘違いに呆然としているのだろうか。自分たちが思っているほど、イスラムの結束は強くないってことが分かったのだろうか。略奪して大騒ぎのイラク市民を見て、「イスラム教徒って、いったい・・・」と反省してくれているかなあ。
そもそも、イスラム教というだけで団結できると思っているのが脳天気だ。アフガンを見たって分かる。あそこだって、みんなイスラム教徒同士だけど争いまくっている。何も、アメリカが攻めていったからではない。昔からイスラム教徒同士が争いまくっていた土地だ。イラクだって同じだ。イスラムの大国同士のイラクとイランだって戦争したじゃないの。あの時はイランを押さえ込むためにアメリカはイラクを支援したけど。
今回、イラク周辺の国からジハードに参加するために多くのイスラム教徒が送り込まれた。参加した本人達は信仰に従って純粋に自爆しに行ったのだが、彼らを送り込んだ各国政府の本音は、「ああいう過激派は国外に出て行って、あわよくば自爆してくれた方が国内の安定になる」と言うものだ。現実は、そういうものだ。
イスラム国家のほとんどは民主主義ではない。日本のマスコミなどは「西洋思想の民主主義はイスラムには馴染まないので、一見、非民主主義的に見えても、アメリカのように自分の価値観をごり押しするのは間違いだ」と批判している。それは一理あるのだけど、現実として、イスラムの国のほとんどが独裁政治か王政だ。西洋思想の民主主義を押しつけるのは良くないかもしれないが、それでも今よりはマシなんじゃないの?
イスラム教を信じている人たちが、みんな品行方正だと思ったら大間違いだよ。イスラム教に限らずキリスト教でも仏教でも、信者がみんな品行方正だったら、もっと世の中良くなっているわな。

つまり、イスラムも平和主義も、国際政治には決め手にはならないのが現実だ。結局は強い国が自分の国益のために争っているだけだ。脱力感をおぼえる結末だが、それが現実だ。良くないことですけどね。もちろん、理想を捨ててはいけないので、心の中では戦争に反対し、できることなら平和で解決したいけど。心の中ではイマジンを歌い続けたいけど。
ただ、自分の心の中にある理想と現実を混同して欲しくないだけだ。マスコミは、自分がアメリカに反対しているからといって偏った報道をするのは止めて欲しい。イスラム教徒は、イラク市民が自分の考えと同じだと勝手に勘違いして欲しくない。市民運動家は、自分が正しいから、みんな同じ考えだと思い上がって欲しくない。そういう勘違いが事態を悪化させるからだ。

(2003.4.13)



〜おしまい〜





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