国債暴落

〜 機能不全の銀行 〜



ここんとこ株価が急回復してきて、なんだか活気づいているが、その裏で金利が急上昇しているのを知っているかな?
金利が急上昇なんて言ったって、別に銀行預金の利率が上がっているわけでも何でも無いので、一般の人は無関心だろうと思う。でも、僕のように、安くお金を借りるのが仕事の人間には、株価よりもずっと重要だ。

どれくらい急騰しているかと言えば、長期金利の代表的指標である10年国債の利回りは、ほんの半月前の0.44%から一気に3倍の1.4%にまで上がってきたのだ。3倍だぜ、3倍。ほんの半月で利率が一気に3倍だなんて、狂気の沙汰だぜ!
これが国債の大暴落で無くしてなんであろう!

この国債利回りの仕組みっていうのが、関係ない人には分かりにくいので少し説明すると、例えば1%の利子が付く額面1万円の国債を1万円で買えば、その利回りは1%だ。当たり前だ。しかし、銀行に貯金したって0.1%も付かないご時世なので、これが1万円以上で売られている。利率1%で額面1万円の国債を、もし1万500円で買えば、利回りは0.5%くらいに下がる。それでも銀行預金よりはマシだ。もっと言えば、1年分の利子が100円だから、その10年分の利子合計1000円を加えた1万1000円までなら、買っても損にはならない。
って事で、ちょっと前まで国債の値段がどんどんつり上がっていき、その結果、利回りはどんどん低下していたのだ。その最安値が半月前の0.44%なんだ。10年で0.44%だなんて、誰がどう見ても、行き過ぎなんだ。だって、10年間も預けて、合計でたった4.4%しか利子がつかないなんて、悲しすぎるぞ。だけど、株も地価も同じだけど、バブルっていうのは、みんな「これはおかしい。行き過ぎだ。どう考えも異常だ。でも、まだしばらく異常が続くんなら、もう少し買い進んだ方が儲かるぞ」と思って、みんなで渡れば怖くない式で行け行けドンドンで買って買って買いまくられるもんだから、今回も極端な異常低金利状態になってたのだ。
それが、ほんのささいなきっかけで一気に売られ始めて大暴落だ。もちろん、大暴落って言ったって、まだ1.3%なんだから、レベルとしては、まだまだぜーんぜん低すぎる金利だけど、価格の下がり方が異常だ。株もそうだけど、価格が上がる時ってのは、だんだん上がっていくんだけど、下がるときはパニックになってみんな投げ売りし始めるから一気に暴落する。それがバブルの宿命だ。

で、ここで問題提議だ。何も、国債が暴落して金利が急上昇すること自体を問題視しているのではない。僕の仕事は低利で資金を調達することだから金利が低いのに越したことは無いんだけど、ここんとこの異常低金利は経済に歪みを生むほどのレベルだったので、多少上がったって、その方が健全であり、トータルで見れば好ましい。もう少し上がった方が良いような気がするくらい。
問題は、そもそも、最近の異常低金利状態がなぜ発生したか、なんだ。で、その犯人が銀行なのだ。

銀行って何をするところなんだろう?一般の人にとっては、銀行は金を預けて利子をもらうところだ。もちろん、振り込みとかローンもあるけど、本来的な銀行の意義は、沢山の人から金を集めて利子を払うことだ。その利子はどこから来るかと言えば、みんなから集めたお金を企業に貸し出して、もっと高い利子をもらうことで稼ぐのだ。企業から高い利子を取って、みんなには安い利子を支払う事で、儲けるのだ。
これは何も悪いことでもなんでもなく、健全な姿だ。企業はまとまった多額の資金を貸して欲しいが、一般の人々は少しずつしかお金が無いので、銀行はそれをまとめるのだ。しかも、金を借りた企業は潰れるかもしれないけど、一般の人は預けた金が戻ってこないなんて思ってはいない。だから銀行が貸した企業が潰れれば、その損は銀行がかぶらなければならない。最近、よく問題になっている銀行の不良債権問題は、まさにこの問題であり、貸した企業で潰れそうなところが多いので銀行が危なくなっているのだ。銀行としては、潰れるリスクを考慮しながら貸し付けるんだから、多少、高い利子を取って当たり前なのだ。これは健全な姿なんだ。

じゃあ、何が健全でないか、と言えば、銀行が企業に貸し出すのを止めて、国債なんぞを買ってばかりいることだ。本来、銀行が庶民から集めた金を企業に貸すから経済が成長する。金を借りた企業が成長するから国全体が成長する。それなのに、リスクを怖がり始めた銀行が企業に貸すのを止めてしまったのだ(これを世間では「貸し渋り」と言います)。でも、企業に貸すのを止めてしまえば、みんなに払う利子を稼げない。そこで、代わりに国債を買って儲けようと言うわけだ。
以前、銀行は株をたくさん買っていた。ところが株価が低迷しているもんだから損がいっぱい出るし、おまけに株のようなリスクのある資産を持つことが政府によって規制されようとしているから、最近、銀行は所有していた株を売りまくっている。株価低迷の大きな原因は銀行自身にある。で、一方で、株の代わりに国債を買いまくっているのだ。株はリスクがあるからダメで、国債ならいいのか、と言えば、そんな事はないぞ!その証拠が、ここ半月の国債暴落だ。こうなれば、国債だって株と同様にリスクがあるぞ。完全に投機の対象としているのだ。

銀行とは非常に深いお付き合いをしている私だが、個人的には、なにも銀行からワイロをもらっている訳でもないので、別に銀行が株を買って損しようが、国債を買って損しようが、どうでもええんですけど、一体、なにを怒っているのかと言えば、国債をそういう投機の対象にして、市場をかき回すのを止めて欲しいのだ。そもそも金利は、企業などの資金需要と資金を供給する側との、お金の需要と供給の関係で均衡すべきなのだ。そうなれば経済が健全にうまく回っていくのだ。或いは、日銀がうまくコントロールすることにより経済を調整する事ができる(かも知れない)のだ。
それなのに、そういう次元とはぜーんぜん違う投機目的で銀行が国債を買いまくるので、金利体系が異常になっているのだ。

これは為替相場も同じですね。本来、円とドルの交換レートなんて、輸出と輸入の額や、物価の格差などを反映して適正に決まるべきであり、そうすることにより国際的な産業の役割分担などが合理的に決まる(はず)だし、変動するにしても極めてゆっくりと変動していくはずなんだけど、為替相場を投機の対象とするヘッジファンドなどがかき回すから乱高下してしまい、本当は適正な価格で石油や石炭を輸入したいのに邪魔されてしまう。腹立つ。
しかし、為替については、非常に腹が立つけど、敵が圧倒的に多いので諦めざるを得ない。でも、国債は、国内の銀行が投機目的で売買するのを止めれば、かなり落ち着くのではないだろうか。

銀行は、国債の投機なんぞで儲けようなんてセコい事を考えずに、本来の役割に立ち返り、有望な企業に貸し出すようになって欲しい。

(2003.7.4)



〜おしまい〜





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