牛丼が消えた日(つづき)

〜 呆れるアメリカの検査体制 〜



たった1頭の狂牛病の牛が見つかっただけで、アメリカ産の牛肉が全面輸入禁止になり、日本列島から牛丼が消えてしまった事については、怒りの記事を載せた。日本のヒステリックな対応に対する怒りは、まだ消えていないし、米国産牛肉の輸入禁止解除への提案も覆すつもりはないけど、ちょっと認識を改めなければならない事実が分かったので、補足します。

何かと言えば、想像を絶するアメリカの検査態勢のずさんさだ。狂牛病の発生のないことを誇ってきた米国だが、狂牛病の牛が発見された後、お粗末な検査体制が明らかになった。

アメリカでは、歩行に異常がある牛は「へたり牛(ダウナーカウ、downer cow)」と呼ばれ、狂牛病発生の危険性が高いとして、検査の対象になっていた。アメリカで初めて狂牛病と確認された牛も、このダウナーカウだった。ところが実際は、ダウナーカウでも検査の対象にされるのはごく一部であり、獣医の目視だけで「問題はない」「外傷が原因」などとされ、何の検査も経ずに食用に回る牛が多いらしい。また、市場に出すことが禁止されたダウナーカウでも、自家消費するとの名目で肉にすることが許され、その後、闇業者を通じて市場に出回ることもある。もっと悪質なのは、ダウナーカウの足腰に補強器具を付け、正常な牛に見せかけるケースもあるらしい。ここまでくれば、消費者に危険を与える恐れがあるのを故意に誤魔化しているのだから、単に金をせしめようとした雪印の国産肉偽装事件よりも悪質な犯罪だ。
また、1997年以来、飼料への肉骨粉の使用は禁止されているが、数年経った後でも、かなりの数の飼料工場で守られていなかったことが判明した。
さらに、機械的に骨から肉を回収する「先進的食肉回収」というシステムで生産した食肉中の35%に、狂牛病に感染する危険のある脊髄組織などが含まれていた。これって、吉野家の牛丼に使っている肉じゃないかなあ。
さらにさらに、解体後の牛に「要検査」との標識を付けても標識の部分の肉だけ残されるなど、検査なしに多くの肉が売られていることも明らかになった。

今回の騒ぎを受けて、アメリカ政府は、ダウナーカウの食用全面禁止や、抜き取り検査の結果が判明する前の肉の販売禁止、牛の生産履歴などを迅速に把握するための家畜識別ID制度の導入などの安全対策のほか、畜牛の飼料原料に牛など哺乳類の血液や血液製品を使うことを禁止し、ダウナーカウについては栄養補助剤、食品、化粧品の原料に使うことも禁止することを表明した。また、狂牛病発症の危険性が高まる生後30ヶ月以上の牛の脳や眼球など危険部位や、処理場へ送る前に農場などで死亡した牛を食べたり、化粧品原料にすることや、鶏など家禽類を食肉処理した残りを原料に使うこと、レストランなどで発生する残飯を飼料にすることも禁じられることになった。
哺乳類の血液が飼料に使われていたなんて知らなかったし、化粧品の原料になっていたことも、牛の脳や眼球を食べていたことも、鶏を食肉処理した残りや残飯を飼料にしていたことも、全く知らなかったので、どれもこれも、かえってびっくりだけど。結構、恐ろしい業界ですね。
とにかく、アメリカ政府としては、「全頭検査以外は、ほとんどやり尽くしたと言っていい」としている。確かに、「日本が求めている全頭検査はコストがかかるだけで、狂牛病発生のリスク低減にはほとんど役立たない」っていうのは国際的な常識だから、ヒステリックな要求は取り止めるべきだとは思うので、これで十分とは思うが、しかーし、そもそも、今までの規制だって、ほとんどまともに守られてなかったんだから、いくら規制を厳しく強化したって、あんまり真面目に守られるとも思えないぞ。

と言うことで、アメリカの検査体制が余りにもずさんな事が分かってびっくりした。それじゃあ、輸入禁止を続けるべきか、と言えば、そうでもない。だって、どっちにしたって人間に感染する恐れは極めて低いし、アメリカで人間が発病したって言う話も皆無だし、リスクとメリットを秤にかければ、限りなくゼロに近いリスクを許容して、安くてうまい牛丼を食べたいよ。あくまでも、そのリスクを受け入れる人だけが食べるんだから、ほっといてくれ、と言いたい。

(2004.2.18)



〜おしまい〜





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