三菱自動車の危機

〜 復活は可能か? 〜



三菱自動車がガタガタだ。まさに存亡の危機だ。
近年の経営不振と、ダイムラーからの支援打ち切りに加え、三菱ふそうトラック・バスのリコール問題による致命的なイメージダウンにより、5月の新車販売台数は前年同月比で半分以下に落ち込んだ。

4年前にも、30年に及ぶ顧客のクレーム情報を隠し続けて批判を浴びたが、その時でも月間販売への影響は最大で前年同月比40%減くらいだったから、今回はさらに悪い状況だ。4年前のクレーム情報隠しは、トラブル自体はそんなに大きな問題でもなかったけど、今回の問題は死亡事故が多発しているから、消費者に対するイメージ悪化は強烈だ。

三菱自動車って、昔からイメージが弱かった。僕が育った田舎では、三菱自動車って農協の車っていうイメージだった。農協と提携していたため、農家は三菱自動車の車に乗っている人が非常に多かったからだ。だから、自動車自体の性能が良いのか悪いのかは知らなかったが、あんまりパッとしたイメージではなかったなあ。
でも、農協との関係のおかげで安定して売れていたため、経営的には悪くなかったのではないだろうか。また、農協の車というイメージではあったが、ギャランとか若者向けの良い車を作っていたので、そんなに悪いイメージでもなかった。まあ、中途半端な立場だったと言える。

僕の個人的な好みで言えば、あんまり興味を引くような車は無かったため、これまではホンダ、トヨタ、トヨタ、ホンダの順で乗り換えてきた。特にメーカーの好みは強くは無いのだけど、その時点での欲しい車に乗り換えていったら、結果的にトヨタとホンダだけになっている。
アメリカに住んでいた時は「せっかくアメリカにいるんだからアメ車に」という気持ちも無かった訳ではないが、あの広い国で郊外で車のトラブルでもあれば、ヘタすればのたれ死ぬ可能性もあるし、治安の悪い国なので、立ち往生していたら強盗に襲われる可能性もあるので、信頼性の観点からトヨタに乗っていた。僕のイメージでは、トヨタの車の信頼性は、他の追随を許さないほど強固なものである。

ただ、実は、現在、主に家内が乗っているセカンドカーは三菱自動車のパジェロミニである。この車は楽しい。セカンドカーなので軽自動車で十分なんだけど、普通の軽自動車って面白くもなんともないから、パジェロミニを選んだのだ。
はっきり言ってパジェロミニは実用性に乏しい。今どきの軽自動車って、中が結構広いんだけど、同じ軽自動車でもパジェロミニは中が非常に狭い。パジェロミニなんて、いかにも実用的なイメージだから、「実用性が乏しい」と書くと意外に思われるかもしれないし、実際に、実用性に富んでいる場合もある。高知に住んでいた時に驚いたのは、パジェロミニの多さである。山が多くて狭い山道の多い高知では、小さくて、しかも何処へでも平気で行けるようなパジェロミニが重宝されるようだ。しかし、今、僕が住んでいるような町中では、実用性を考えれば普通の軽自動車かリッターカーの方がはるかに使いやすい。
それなのにパジェロミニの価格は結構、高い。各メーカーがこぞって出しているリッターカーの方がはるかに安い。この点は、はっきり言って腹が立つ。
しかし、それでも、パジェロミニは乗っていて楽しい。乗っているだけでウキウキしてくる。一家に一台しか車が無いのなら、あんな狭い車を選択する余地は乏しいが、遊びで乗れるセカンドカーならパジェロミニは良いですよ。

それじゃあ、そもそものパジェロはどうか、と言えば、かつてのパジェロは良かった。ラリーで活躍して一躍人気商品になった頃のパジェロだ。トヨタのランドクルーザーは、パジェロに比べれば、はっきり言って見劣りがした。ところが、いつの間にか、なんでか知りませんが、どんどん悪くなっていったなあ。今のパジェロなんて、プラドを改悪したような車に成り下がっている。なんでかなあ。中途半端に消費者迎合してしまい、トヨタと同じ土俵に上がったのが失敗だったのかもしれない。まあ、トヨタにしても、以前のランドクルーザーは良かったんだけど、今のプラドはおもちゃみたいですね。なんだか情けない車になりました。どのメーカーに限らず、国産の4駆車は次々に丸くデブくなってきた。パジェロもランドクルーザーも、渋好みだったビッグホーンなんかも、ぜんぶブヨブヨになっちゃいました。基本的に4駆車は角張っていないとだめだと思うのだけど。バンパーだってプラスチックのヒヨヒヨのじゃなくて金属のでかいのでないと駄目だと思うのだけど。
それからデリカスペースギアも良かった。過去形じゃなく、これは今のも良いと思います。大変よろしいと思います。あんまり販売に力を入れているとは思えないんだけど。なんでやろ。パジェロもデリカスペースギアも、あんまり売れる車ではないのかなあ。でも、他の車は、他のメーカーと競合して見劣りしているんだから、良い車に力を入れて欲しい。
元々のダイムラーによる再建案では、パジェロなんか止めてしまう、っていうものだったから、ダイムラーの再建が打ち切りになったのは、そういう意味では良かった。ダイムラーの世界戦略の中での三菱自動車の在り方と、単独で生き残る在り方では当然、ビジョンが異なってくるわな。

リコール問題で落ちるところまで落ちてしまったイメージの回復は簡単ではないが、メーカーなんだから良い商品を作れば回復の可能性はある。て言うか、リコール問題が無くても、良い商品が無ければダメでしょう。命に関わる商品だから信頼性の回復も非常に重要なんだけど、それでも良い商品が無ければ話にならない。
ゴーンが来る前の日産も存亡の危機に立たされており、「もしかしたら潰れるかも」なんて思っていたのが、驚異的な回復を成し遂げた。過去のしがらみが無い外人社長がコストカットを好き放題やった成果ではあるが、良い商品が伴わなければ、利益は確保できても会社は縮小する一方だから、コストカットと並行して良い商品を出した結果だろう。
マツダも一時期、かなり危機的な状況だったが、ここへきて良い車を出し、だいぶ回復してきた。やはりメーカーは商品が一番だわな。

とは言え、三菱自動車って不思議な会社だ。三菱グループの強大なブランド力にあぐらをかいていたのだろうけど、本当に危機感の無い会社だった。上にも書いたように、僕らが抱く三菱自動車のイメージって「農協の車」だったのに、彼らは、まさかそんな事は想像もしてなかっただろうなあ。たぶん三菱ブランドが輝く車っていうイメージを持ってるんだろうなあ。僕らは、三菱は確かに輝くブランドだけど、それは三菱銀行や三菱商事に抱くイメージであり、三菱自動車のイメージはパッとしないんだけどなあ。例えば、トヨタにしたって、トヨタ自動車のイメージは100%信頼できる素晴らしい会社だが、住宅のトヨタホームになると、ちょっと不安で住む気はしない。ブランドなんて、そんなものであり、ジャンルが変われば通用するものではない。

それなのに、これまで長年の経営不振でも三菱自動車の危機感は薄かった。身近なところで言えば、パジェロミニの修理などでの対応が非常に悪い。悪質というのではなく、「対応が遅い」と言うか、「のんびりしている」と言うか、「やる気が無い」と言うか、もう信じられない。車検にしたって、もう1台のホンダの方は何ヶ月も前から「車検をお願いしますよっ!」って熱心に案内してくれるのに、三菱自動車の方は、なんとこっちから言って初めて「あっ、すんません。忘れてましたっ」てな感じで唖然とする。家内は、かなりうんざりしている。

三菱自動車は、あんまりパッとしたイメージは無いにしても、そんなに悪いメーカーでも無いと思う。雪印事件の時も書いたけど、今の日本は、企業がちょっとした不祥事を起こすと、寄ってたかってヒステリーに叩きまくる。そりゃあ、今回の事件は、死亡事故を多発させた重大犯罪だし、ちょっとした不祥事ではない。しかし、それにしても、その企業そのものが全部「悪の固まり」みたいな叩かれ方だ。悪い体質や悪い役員もいただろうが、会社を潰してしまわなければならないほどの事かどうかは疑問だ。会社が潰れると、何万人という従業員が家族と共に路頭に迷うことになる。従業員に取っても悲劇だし、社会に取っても悲劇だ。
それから、日本が獲得している外貨の大半が自動車産業であり、すなわち日本が成り立っている最大の産業が自動車であり、経済波及効果は計り知れない。その自動車会社を安易に潰してしまうのは問題あると思う。
ここは、三菱自動車には、心機一転、頑張って欲しいと思うと共に、マスコミなんかも、調子に乗って叩きまくるのは考え直して欲しいな。

(2004.6.2)



〜おしまい〜





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