世界初の民間宇宙船

〜 アメリカの底力 〜



すごいなあ、アメリカは。民間の力で有人宇宙船の打ち上げに成功しちゃった
宇宙での商業遊覧飛行を目指しているスケールド・コンポジット社という名前のアメリカ企業が、世界初の民間有人宇宙船「スペース・シップ・ワン」を、カリフォルニア州モハベ砂漠から打ち上げ、地球の大気圏を超える高度100キロの宇宙飛行を達成したのだ。

今回の宇宙船の打ち上げは、これまでの国家的宇宙開発事業で用いられてきたような巨大ロケットを使って地上から打ち上げるものではなく、宇宙船を飛行機で上空まで運び、かなり上がった所からロケットエンジンで大気圏外へ行く、というものだ。

宇宙船「スペース・シップ・ワン」

流線形の機体に翼を持つ宇宙船スペースシップワンは、両翼の差し渡しが約5メートルで、かなり小型だ。これを運搬用の細長いジェット機「ホワイト・ナイト」の下に吊り下げ、高度15キロにまで上昇し、そこで切り離す。そこから、宇宙船はロケットエンジンを約80秒間噴射して音速の約3倍にまで加速し、高度100キロに到達する。帰りは、翼の先端部を動かしながら滑空して帰還し、約1時間半にわたる飛行を終える。これが民間による初めての有人宇宙船の打ち上げ概要だ。

輸送用飛行機「ホワイト・ナイト」

とは言え、ここまで読んだ限りでは、これまでのロケット打ち上げと方式が違うこともあり、宇宙ロケットと言うより、なんだか飛行機の延長みたいな感じがしなくもない。また、スペース・シップ・ワンが達成した高度100キロってのが、高いのか低いのかも、よく分かんない。地球の直径が12000kmだから、その100分の一くらいだ。地球がリンゴとすれば、皮の厚さくらいのものだ。「なーんだ。それって、ほんの表面に過ぎないじゃないか」っていう気もする。でも、日本も含めて世界各国が協力して作っている国際宇宙ステーションの高度も、せいぜい400キロなので、まあ、宇宙と言えなくもないかも。

また、高度100kmになると、大気は極めて薄く、外は完全な宇宙らしいし、上方の空が宇宙空間のように黒く見え、地球の丸みや青い大気との境界線が目視できるらしい。また、この高度では無重力が体験できるなど事実上の宇宙飛行が味わえるとされているから、一般市民の宇宙旅行の夢が一歩実現に近づいたとは言えるだろう。

スペースシップワンから見た地球

今回の打ち上げでは、テストパイロット1人だけが搭乗したが、宇宙船スペース・シップ・ワンは、本来はパイロット1人のほか2人の客を乗せられるらしい。こんな小さな機体に3人も乗れるんかいな、って疑問に思うけど、実際の遊覧飛行が実現すれば、高度100キロから60キロまで落下するまでの約3分間、搭乗者は無重力状態が体験できるという。こんな小さな機体じゃあ、仮に無重力状態になったところで、ほとんど身動きは取れないだろうけど。

今回の偉業に対して、冷静な、というか、やや批判的な論評も出ている。「スペース・シップ・ワンはロケットのエンジンに小さな操縦席が付いているだけだし、その速度も50年前に既に達成されている程度のものだ。運搬用の航空機から落とすという発想も、第二次世界大戦で実施済みだ」とか「スペース・シップ・ワンのハイブリッド・ロケットのエンジンは、搭乗するパイロットが1人なら、なんとか宇宙の境界線を越えることができるかもしれないが、3人搭乗したら難しいだろう」というようなものだ。

しかし、そういう事とは関係なく、とにかく、小さな企業が有人宇宙船の打ち上げに挑んでいるって事自体に僕は感動した

今回、打ち上げに成功したスケールド・コンポジット社は、最初に民間宇宙船で有人飛行を達成したチームに1000万ドルを贈る国際コンテスト「Xプライズ」に参加しており、直接的には、その賞金狙いって事かもしれない。Xプライズは、3人乗りロケットで高度100キロまでの飛行を2週間以内に2度達成した最初のチームに賞金が贈られるというものだ。
しかし、目的が賞金狙いであろうが何であろうが、このような挑戦をするって事が素晴らしい。日本の企業で、こういう事を本気で考える企業があるだろうか。日本じゃ、飛行にしても何にしても行政の規制が強くて、がんじがらめなので難しいという面もあるだろうが、このような夢のある事業を本気でやろうとする企業は少ないだろう。

Xプライズの賞金は、たかだか1000万ドル(10億円程度)だから、そんなに大した額ではない。日本の無人ロケットH2Aの打ち上げ費用の10分の一程度だ。スケールド・コンポジット社は、マイクロソフト社の創立者の1人であるポール・アレン氏から財政援助を受けているとは言え、国家事業に比べれば予算は格段に少ないため、様々な工夫をしている。例えば、宇宙船スペース・シップ・ワンの操縦席は運搬用航空機ホワイト・ナイトの操縦席とほぼ同じだ。そのため、パイロットは2種類のシステムの訓練を受ける必要がないし、シミュレーターも1つで十分だ。しかも、そのシミュレーターは、適当なエンジンカバーと2台のパソコン、モニター数台を寄せ集めて作られている。

このように、少ない予算でも色んな工夫をして、一見、無謀とも思われる民間での有人宇宙船打ち上げに挑む、ってのが、非常に素晴らしいなあ。これぞアメリカの底力って気がします。もちろん現在、圧倒的な技術力や資金力や軍事力など、アメリカはダントツの力を持っているんだけど、そういうものではなく、知恵と勇気がアメリカの底力だと思う。政府のやってる事を見ると、イラクでのアホな戦争を見るまでもなく、独りよがりで我が儘で独善的な国であり、技術力や資金力や軍事力を、くだらない使い方をしているように思えるけど、人々の活力と潜在力はすごいなあ、と思う。

日本じゃあ、行政の不要な規制も多いし、社会自体の許容度も極めて少ないけど、こういう夢を追求できる世の中になればいいのになあ、なんて思います。

(2004.6.22)



〜おしまい〜





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