蔓延するドーピング

〜 いっそのこと許可するか? 〜

国際オリンピック委員会(IOC)が、陸上男子ハンマー投げで優勝したハンガリーのアヌシュ選手をドーピング規定違反で失格とする裁定を下し、2位の室伏選手を金メダルに繰り上げることを決めた。

これで、今大会の日本金メダル16個となり、最多だった1964年の東京オリンピックと並んだ。東京オリンピックの時と比べれば、柔道が男子だけ4階級だったものが男女で14階級になるなど、競技種目は2倍くらいに増えているから、その価値は半減しているが、それでも近年は3〜5個が続いていた事を考えると、大変、嬉しい。

しかし、ここでは、そういう喜びよりも、ドーピングに関して意見を述べたい。

22日のハンマー投げ決勝でアヌシュは3投目に83.19mを投げ、最終の6投目に82.91mを投げた室伏を僅か28cm上回り優勝し、金メダルを獲った。そして、競技直後のドーピング検査では禁止薬物に陰性だった。
しかし、24日に、アヌシュと同じコーチから指導を受ける男子円盤投げ優勝者のハンガリーのファゼカシュ選手がドーピング検査の尿検体の提出を拒否して失格し、金メダルを剥奪される事態になり、アヌシュにも尿検体すり替え疑惑の目が向けられたのだ。
そして、26日にIOCが「アヌシュにも尿検体を操作した疑惑がある」として追跡調査を決め、既に帰国していたアヌシュに再検査を要求したが、アヌシュは応じなかったのだ。

今回のアヌシュの疑惑に対して最初に指摘したのは室伏選手だ。22日の決勝では、アヌシュは競技中にトイレに行っているのに、ドーピングでは誰よりも先に尿を提出した。これについて、競技中にトイレに行って何か工作しておき、競技後の検査ではそれを使って提出したのではないか、と疑ったのだ。室伏の証言を受けて日本オリンピック委員会が徹底調査を訴えた結果、IOCの対応が一転した。
室伏は、なにも、自分が繰り上がって金メダルを欲しいから疑問を呈したのではなく、純粋に、不正をする選手を許せなかったのだろう。室伏は「ドーピングがなくならないのは、それぞれの国の事情、立場があると思う。大切なのは、選手間で友好を深めること。競技のときは戦いだが、いい雰囲気が自然と沸くような、そんな雰囲気を作りだしたい」と話してきた。世界中を転戦するサーキットの中で、そんな室伏を中心に選手間の友好の輪が広がり、そうしてできたネットワークには、さまざまな情報が入ってきた。アヌシュに対しては、選手間で、前々から薬物使用が怪しいという情報が出回っていたのだ。

アヌシュに渡された金メダルはどうなるのだろう。剥奪っていうくらいだから、ちゃんと返されて室伏に授与されるのだろうか。でも、そんな金メダルなんて、薄汚れていて気持ちが悪いような気がする。IOCはアヌシュに対して「速やかに返還するように」と要求しているが、五輪のドーピングの歴史では、いったん授与された金メダルが返ってきたことはないとのことだ。剥奪されても、絶対に返さないのだ。たぶん、いっぱい言い訳をしながら「本当の金メダリストは私だ」と言い張るために必要なのだろうなあ。そのため、おそらく、室伏には、新たに作られた金メダルが渡されるだろう。その方が気分もいいよね。

IOCはアヌシュ選手に対し、金メダル剥奪だけでなく、さらに重度のドーピング違反を追及する構えだ。今回の金メダル剥奪は、直接的には、IOCが求めた27日の再検査を同選手が正当な理由がなく拒否したためだ。しかし、本当はそんな単純な話ではない。全く検査を受けなかったのなら仕方ないが、彼はそれまで何度か検査を受けており、その結果は陰性だったのだ。だから、再検査を拒んだだけで簡単に金メダル剥奪とはならない。しかし、調査の過程で、陰性だった2度の検査で彼が提出していた尿検体を分析すると、それが別人のものだった事が判明したのだ。だからこそ金メダル剥奪という厳しい処罰になったのだ。IOCは、検体の不正工作がちゃんと証明されれば、アヌシュを五輪から永久追放にする可能性もあるという。

さらに、アヌシュに尿検体を提供した人物を捜し、組織的ドーピングの疑いも追及するという。どう考えても、コーチを含めた組織ぐるみの犯行だろう。ハンガリーあたりは以前から絶対に怪しい。て言うか、投てきや重量挙げのような力が物を言う競技は、以前からドーピングが非常に怪しい。て言うか、陸上の短距離にしたって、もう、むっちゃくちゃ怪しい。アメリカなんかも組織的に大々的にやっていると思われる。中国だってかつて一世を風靡した馬軍団なんか間違いなくドーピングしていただろう。もちろん、これらの国だって、各国のオリンピック委員会のレベルまで汚染されているかどうかは分からない。しかし、少なくとも、コーチを含む末端の組織は一体となってドーピングしているだろう。

ドーピングは悪だ。なぜかと言えば、身体に悪い。身体に悪くても本人の意思でやっているのならええではないか、という考えもあるが、それではドーピングしてない選手と不公平になってしまい、みんながみんなドーピングせざるを得なくなる。
それなら、ここで発想を変えて、ドーピングを自由にさせてはどうか。本人の意思でやるのなら、どんな薬品の使用も認めるというものだ。あらゆる薬品を使って、通常のトレーニングではあり得ないようなサイボーグのような驚異的な肉体を造り、それで競わせるのだ。それはそれで、画期的に面白いような気もする。
でも、そうなっちゃうと、なんだか見せ物小屋のような雰囲気になってしまい、スポーツらしさが無くなるかなあ。それに、アマチュアの選手もみんなドーピングするようになってしまい、社会が荒廃しそうだなあ。

それにしても、金メダルのためなら、どんな姑息な工作でもしちゃう、ってのは、想像しただけでもの悲しい。金メダルが富と栄光をもたらすんだろうから、そこまでしても勝ちたいという気持ちも分からぬでもないが。

(2004.8.29)



〜おしまい〜





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