うどん偽装表示

〜 消費者は表示に頼るな! 〜



全国各地で食品の偽装表示が問題になっているが、ついに讃岐うどんにまで波及した。
原材料を香川県産小麦粉「さぬきの夢」100%と表示して、香川県農業協同組合(JA香川県)が販売していた讃岐うどんの半生麺が、実はオーストラリア産小麦を8割も使ったものだった事実が判明したのだ。
あまりにバカバカしくて、批判する気力も沸かないが、年にうどんを500玉は食べる典型的な讃岐男として、黙ってはいられない。やっぱり批判しましょう。

この不正は、香川県が「さぬきの夢」を使用している主要商品について、タンパク質の成分分析を実施した結果、分かったものだ。JAは、「製造委託先の県内業者がオーストラリア産を勝手に混入させたためで、知らなかった」としているが、そんなことは言い訳にもならない。東京のデパートが騙されたってのなら言い訳も通用するだろうが、JAと言えば食糧供給の大元締めだし、しかも地元の香川県産小麦が使われているのかどうかなんて、ちょっと調べれば、すぐ分かるだろう。だって、香川県で作られる「さぬきの夢」は全てJA香川県に出荷され、JA香川県から製粉業者に卸されるんだよ!

JAの説明では、製造を委託した香川県内の業者に対しては品質仕様書を示しただけで、正式の契約書を交わしていないらしい。そんなずさんな事って、ある!?信じられない。それに、製造開始から2年間、一度も品質チェックなどを実施していない。食品を作る者の姿勢として信じられないぞ。

JAの理事長は「JA側から不正を指示したようなことはない」と釈明しているが、仮にそうだとしても、それは当たり前すぎて、言い訳にはならない。しかも「JAのチェック体制の甘さが原因だった」と全責任がJAにあるかのごとく反省しているフリをしつつ、それを言い訳にして製造業者の公表を頑なに拒否している。むちゃくちゃ怪しいぞ。JAと製造業者は完全にグルだ。JA側が積極的に指示したのでないにしても、少なくとも担当者は事実を知っていたんとちゃうか。まともに契約書も交わさずに適当に指示していただけだから、強く言うことも出来ないのか。完全な馴れ合いだ。しかし、パッケージには「さぬきの夢100%」って書いてあるのだから、どんなに言い訳しても、詐欺であることに間違いない。

「さぬきの夢」は香川県が8年もかけて開発した独自品種である。香川県は「さぬきの夢」を広め、讃岐うどんのブランドイメージを高めるために、「さぬきの夢」を使用するうどん店のスタンプラリーを実施したり、消費者向けのPR活動も進めてきた。さらに生産農家に補助金を出したりして、「さぬきの夢」の作付けを広げてきた。その結果、今年は香川県内の小麦の作付け面積のほぼ100%が「さぬきの夢」になった。
このような中で、JA香川県も「さぬきの夢」の普及では先導的な役割を担ってきただけに、今回の事件は、一体何を考えとんかいな、って不思議に思う。うどんブームを支える香川県産小麦「さぬきの夢」での不正を、業界をリードする立場のJAがやっていただなんて、下手すると讃岐うどん全体の壊滅的なイメージダウンになるぞ。

と、ここまでは、とにかく、今回の失態というか、不正を行ってきたJAを厳しく批判した。食糧を供給する組織として、呆れて物も言えないくらいで、いくら批判しても批判しすぎる事はない。

しかーし。
もう一つバカバカしい事がある。それは、うどんと小麦粉の関係だ。オーストラリア産小麦を使ったって美味しい讃岐うどんは出来るし、「さぬきの夢」を使ったって必ずしも美味しい讃岐うどんが出来る訳でもない。もっとはっきり言おう。「さぬきの夢」が使われ始めたからと言って、讃岐うどんが美味しくなったとは、全く思わない。讃岐うどんの美味しさは、多くの職人が、オーストラリア産の小麦を使って苦心惨憺して生み出したものなのだ。今さら、それを突然、香川県産の小麦に代えたところで、急に美味しくなるとは思えない。

今回の不正は、コストだけの問題ではなさそうだ。「さぬきの夢」を100%使用した場合と比べて、オーストラリア産小麦を使った場合、材料費は1パック当たり2円弱しか安くならないらしい。1パック220円の商品だから、牛肉の不正表示のような大儲けできる不正ではない。むしろ、扱いやすさの問題らしい。
「さぬきの夢」は麺にする水加減が難しく、切れやすい、とも言われ、高度な製めん技術を要する。そのため、業者は加工しやすいオーストラリア産小麦粉を使ったようだ。
このような業者の態度に対し、香川県は「さぬきの夢を100%使ったうどん作りの技を懸命に磨いている職人が製麺業者がいるのに、これは表示だけのタダ乗りではないか」と憤っている。

しかーし!
はっきり言うけど、香川県の憤りは、ちょっと筋違いだ。偉そうに言ってるけど、「さぬきの夢」なんて、ほんの少しは美味しいかもしれないが、使いにくいだけの小麦粉ではないか?そんなに味が変わる訳ではないぞ。うどんの美味しさは粉で決まるのではない。あくまでも職人の腕だ。

讃岐うどんのバイブルと呼ばれる「恐るべきさぬきうどん」第5巻に、うどん用の小麦粉の話題が載っている。
それによると、香川県では10社もの製粉会社が讃岐うどん用の粉を卸している。その銘柄を列挙すると「金魚」「雀」「緑あひる」「紫駱駝」「だいぶつ」「かぐや姫」「すもも」「いちご」「白椿」「ダリヤ」「すずらん」「サツキ」「赤まつ」「裏梅鉢」などなど、支離滅裂で、何を意味しとんのか、さっぱり分からんが、60種類以上もあるとのことだ。
そして数十軒のうどん屋を調査した結果、
 @ 非常に評判の高いうどん屋が、どこも同じ粉を使っているわけではない。
 A ムチャクチャうまいうどん屋とスカタンみたいなうどんを出す店が同じ粉を使っていたりする。
という事実が判明した。同じ粉を使っていても全然違ううどんが出来る。つまり、うまいうどんを作るには粉の良し悪し以前に「職人の腕」が最大の要因なのである。あまりにも当たり前の結果だ。
そして、「さぬきの夢」を使ったうどんも例外ではなく、腕の良い職人が使えば美味しいうどんが出来るし、ヘボ職人が使えばマズイうどんが出来る。

こんなん誰が考えても当たり前だ。それなのに香川県は、せっかく苦労して開発したからと言って、やたら「さぬきの夢」を宣伝するから、何も知らない県外人の間に「さぬきの夢を使っているからこそ香川県の讃岐うどんは美味しいのか」なんて誤解が広まってしまうのだ。そして、そういう誤解が広まった後で、今回のような偽装問題が出てくると、壊滅的なダメージを受けてしまう。

もう一度、はっきり言いましょう。讃岐うどんの良し悪しは小麦粉なんかで決まるのではなく、あくまでも職人の腕で決まるのだ。だから、「さぬきの夢」を使っていようがオーストラリア産小麦を使っていようが、美味しいうどんは美味しいし、マズイうどんはマズイのだ。よって「さぬきの夢100%使用」なんていう無意味な表示に惑わされることなく、自分の舌で美味しいうどんを見分けよう。もっと言えば「さぬきの夢100%使用」なんていう無意味な表示は止めたらどうか。無知な消費者を混乱させるだけだ。


さらにさらに言えば、これはうどんに限った話ではない。食品全てに言える事だ
よく食品偽装問題が出てくるが、その原因は消費者側にある。自分では本当の味が分からないくせに、表示だけに頼って食品を選ぶ愚かな消費者の行動が原因なのだ。「国産」と書いてあろうが、「手作り」と書いてあろうが、自分の舌で判断して美味しい物は買い、マズイものは買わなければ良いのだ。本マグロであろうが偽物マグロであろうが、自分の舌で区別が付かないのなら、一緒じゃないか。同じように美味しく感じるのなら、それでいいじゃないか。表示だけに頼って買っておきながら「騙された」なんて怒るのは、とんだ筋違いだ。どうせ味なんて分かるはずないんだから、そんな表示に騙されるなよ!

(2004.11.10)



〜おしまい〜





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