外来生物を許すな

〜 呆れた国会議員 〜



骨抜きされる特定外来生物被害防止法

アライグマブラックバスなど、海外から日本国内に持ち込まれた外来生物による生態系破壊を防ぐため、今年6月、特定外来生物被害防止法が公布された。生態系や農作物に被害を与える外来生物の輸入、飼育、運搬を制限するもので、違反した法人は最高1億円の罰金が課せられるし、必要に応じて駆除も行う。以前、輸入クワガタの侵略の記事で書いたが、外来生物による日本の環境破壊は危機的なものがあり、ようやく待ち望んでいた法律が作られたわけだ。これ自体は大変喜ばしい。

ところが、どの外来生物を対象にするかの選定に当たって、大問題が起きている。環境省は来年6月までの施行に向け、規制対象種を選定中だが、この法律が作られた最大の原因であるブラックバスを規制の対象から外そうとする動きが、業界団体や圧力団体により強まっているのだ。アライグマと並んで最も被害が深刻なブラックバスを規制から外したりすれば、一体、何のための法律なのか。法律の骨抜きどころか、法律の存在意義が無くなってしまう。

規制の対象種に指定されても、釣りをする事自体は規制を受けない。これは当たり前だ。釣りをすることによって駆除されるのなら、結構なことだ。しかし、これまで密放流によってブラックバスを全国に広めてきた勢力は、大反対だ。新たに密放流とかできなくなるため、だんだん先細りになるからだ。
反対している最大勢力は釣り具業界であり、そのバックアップを受けた議員連盟だ。釣り具メーカーなどで作る日本釣振興会によると、ブラックバス釣り人口は約300万人、関連市場は約1000億円にのぼる。予想以上に大きな業界だ。これだけの大規模な業界になると、政治力も強い。日本釣振興会は、ブラックリストからブラックバスを外すよう強力な働きかけを進めているが、この日本釣振興会の会長は、なんと麻生総務大臣だ

このような業界の強い反対や、政治家による圧力に屈して、環境省は弱腰だ。バスの一種であるコクチバスや、北米原産のブルーギルなど7種類の魚や、アライグマ、ジャワマングース、タイワンザル、カニクイザル、アカゲザル、タイワンリス、クリハラリス、ヌートリア、キョンなどは指定される方向だが、バス釣りのメインの対象であるオオクチバスについては、他の外来生物と切り離して、個別に評価することになったのだ。学識経験者や釣り関係者らによる専門の検討会を設置して、指定の是非を議論している。
この時点で大きな妥協を強いられている訳であり、この先、かなり厳しい展開が予想される。来年6月までの施行には、1月までにリストを作る必要があり、それまでに合意できるかどうかは微妙な情勢だ。なんと言っても、指定には与党の承認と閣議決定が必要なので、総務大臣が強く反対すれば、非常に厳しいのだ。

総務大臣だけでなく、超党派の国会議員で作る釣魚議員連盟も釣り具業界の意向を受けてブラックバスの指定に反対している。彼らは「在来魚の減少は水環境の悪化が原因」という勝手な理論で、駆除の可能な規制に強く反対してるほか、「バス釣りは、釣った魚を再放流するキャッチ・アンド・リリースが特徴で、命の大切さを教える教育にも役立つ」などという、信じられない詭弁を使っている。環境を破壊する魚を大切にするだなんて、本末転倒も甚だしい。水のギャングの命を大切にして、どうするんだ。
アメリカでは、銃による犯罪が後を絶たないため、銃を規制しようという動きが市民の間では大きいのに、全米ライフル協会の支援を受けた議員達によって、いつまで経っても銃が規制されない状況が続いているが、これと全く同じ状況だ。どこの国でも、国会議員は有力な団体の操り人形だ。

また、ブラックバス釣りのメッカとなっている河口湖の商工会は、ブラックバスが指定された場合でも、河口湖を法の対象外とすることを求める請願を提出した。河口湖はバス釣りの全国的な名所で、バス釣りで年間約16万人の釣り客と約40億円の経済効果があり、大きな観光収入源となっているからだ。しかし、これもどうかと思いますけどねえ。釣り客を呼ぶために河口湖では年間約30トンもブラックバスを放流しているのよ。ちょっと、やり過ぎじゃない?


恐ろしいブラックバス

日本国内で繁殖しているブラックバスは、北米産のオオクチバスとコクチバスで、中でも「引き」が強く、釣り人に人気が高いのがオオクチバスだ。北米原産の淡水魚で、全長50センチ(最大70センチ)にも達し、魚はもちろんエビ、カニ、カエル、イモリ、ネズミ、鳥など、動くものなら何でも食べる肉食魚だ。バス釣りのマニュアル本には、「大きなバケツのような口は、小魚を追い、食いまくるフィッシュ・イーター」と書かれている。さらに、外敵からオスが卵を守るなど、極めて繁殖力も強い

1970年代に第一次ルアーフィッシングブームが起こり、全国の湖沼に密放流が行われ、ブームに歩調を合わせるかのようにブラックバスは急激に生息地を拡大した。1985年には、バス釣りのプロたちが大会に参加して賞金を稼ぐバスプロトーナメントが始まり、釣具メーカーなどの企業が賞金や協賛金を出資し、イベントを展開、派手な商業主義に乗って第二次ルアーフィッシングブームが巻き起こった。全国、全ての都道府県で生息が確認され、フナやタナゴなどの在来魚を食い荒らすなど、大きな環境問題になり、複雑で豊かな日本の淡水生態系は、深刻なダメージを受けた。
1992年に、事態を重く見た水産庁は内水面漁業調整規則を改正し、ブラックバスやブルーギルの移植放流を制限する通達を出した。これを受けて、全国の自治体は相次いで放流禁止の条例を出したが、その後もバスの違法放流は止まるどころか、ますますエスカレートしていき、全国津々浦々までブラックバスが広まってしまったのだ。これだけ爆発的な勢いでバスの分布拡大を果たした裏には、釣具業界がからんだ組織ぐるみの密放流があった。愛好者が個人的に放流するだけでは限界がある。

1999年には、ブラックバスによる環境破壊を少しでもくい止めようと、キャッチ・アンド・リリースの禁止が打ち出された。これに対しては、バス擁護派は、ゾーニングという最後の切り札をかざして100万人署名運動を展開し、バス釣り産業界を挙げて猛反撃に出た。この圧力に屈して、水産庁は「閉鎖水域に限って外来魚の利用を認める」というゾーニング案を提示したが、日本魚類学会、日本生態系学会、日本自然史学会連合などから強い反対を受け、ゾーニング案は宙に浮くこととなった。
そもそも、最初にブラックバスが日本にやってきた時、もともとゾーニングされた閉鎖水域である芦ノ湖にだけ放流され閉じ込められていたにもかかわらず、今や日本全国、全都道府県に広まっている事を考えれば、ゾーニングがいかにまやかしであるかが分かる。


釣り人の呆れた言い分

このように恐ろしい外来生物の増殖をくい止めなければならない危機的状況にあるのだが、バス釣り愛好家の反発は強い。彼らの意見を紹介しよう。

・今回の法律は、自然保護や生態系、生物多様性というものを狭義でしか見れない人達によって作られたのではないか。人間だけの一方的な判断で、生物を駆除するなど、既に出来上がっている生態系を安易に改変することが本当に正しいとは思えない。自然のことは自然の摂理に任せることが中長期的に見て一番の施策ではないか。今回の法律は、極めて偏った物の見方しか出来ない、環境原理主義者のような人達によって作られたものだと思う。

どう思いますか?「既に出来上がっている生態系を安易に改変することが本当に正しいとは思えません」だなんて、本来の自然を破壊しておきながら、よく言うわなあ。呆れて物も言えないよなあ。「自然のことは自然の摂理に任せることが中長期的に見て一番の施策ではないでしょうか」だなんて、自然の摂理に反する事をしておきながら、ほんまに、よく言うわ。

・バスフィッシングは産業的に価値が高いだけではなく、外に出て生き物に触れる行為を通して、人や自然との関わりを学び「青少年の健全な育成」に大きく役立っている。今の汚染された日本の環境では、鯉や鮒だけでは子供達の遊びの相手をする事が出来ない。コンクリートで護岸され水質汚染の進んだ環境でもある程度生きていけるバスなどの遊びの対象魚を無くしてしまえば、子供達は身近に釣りという趣味を持つことさえ出来なくなってしまう。これではますます子供達の情操教育は難しくなり深刻な事件の引き金になることも懸念される。現在の限られた日本の自然の中で子供達が生き生きと遊べる大切な友達を国が都合で奪い去ることに抵抗を感じる。

どうですか?完全に論理のすり替えであり、極めて自分勝手な、都合の良い詭弁ですね。バス釣り愛好家って、このような我が儘な人たちなんですよ。

・2000種にも及ぶ外来生物の中から「特定外来生物」をたった数ヶ月で選別する事は物理的に不可能だ。特にバスなどの国民の余暇やそれに関わる産業が根付いている(利用価値の高い)生物を、十分な調査や関係者を含めた公平な協議無しで「特定外来生物」として決定することは民主主義のルールに大きく背く行為だ。

これも、既得権益を守ろうとする自分勝手な論理ですねえ。何が民主主義だろう。

・ライオンがほかの動物を食い尽くすことはないように、バスも在来魚を食い尽くすことはない。

しかし、ライオンが安定しているのは、あくまでも本来の土地に止まっている限りのことだ。ライオンが日本に放たれたら、どうする?ブラックバスだって、原産国である北米では問題はない。自然に棲息しているからだ。

・たとえ密放流されたバスでも、やがて生態系は安定する。

こなな楽観論は、何の根拠も無い。ハブ退治のために放したマングースの事例と極めて似ている。「マングースはハブを食べ、ハブはマングースを攻撃する。放っておけば、ハブもマングースも著しく減少して安定する」といった愚かな楽観論により野放しにされたマングースが繁殖し、生態を破壊している。
かつて「ブラックバスとブルーギルのワンセット放流」が失敗した事例は、マングースの失敗と同じだ。「ブラックバスはブルーギルを食べ、ブルーギルはブラックバスの卵を食べて、生態系は安定する」という勝手な楽観論だった。実際には、ブラックバスはブルーギルをほとんど食べず、バスから身を守る術を知らない在来魚ばかりを食べ続けた。一方、バスに食われることなく増え続けたブルーギルも在来魚を猛烈に食べまくり、今やブラックバスを脅かすまでに増え、最もやっかいな移入種になってしまった。

・バスに限らず人間の都合で連れてこられ、長い時間を経て既にわが国の生態系に組み込まれてしまった生物を、再び人為的に取り省こうとした場合、新たな生態系の攪乱が起こりうると言うことを考えるべきでしょう。

ここまで来ると、何を言ってるのか分かりません。たぶん、言ってる本人も分かってないんでしょう。要するに、反対のための反対をしているだけですね。


ブラックバスだけじゃない危険な外来生物

ブラックバスと並んで、今回の法律のメインの標的であるアライグマは、国内に人為的に持ち込まれて野生化し、生態系に深刻な影響を与えている外来種だ。ペットとして人気が出たが、気性が荒いため育てきれず、放した飼い主が多いとされる。北海道では農作物被害が深刻化しているほか、在来のタヌキなどと競合して絶滅させるなど生態系に大きな影響を与える。回虫症や狂犬病といった感染症を人に媒介する危険性もある。

しかし、アライグマは指定される見通しだが、指定からはずれそうなのはブラックバスだけではない。今回の法律が標的とすべき外来生物としては、ブラックバスやアライグマのほか、マニアの間で高額取引されている輸入種甲虫類が、新たな生態系破壊の原因として指摘されている。日本自然保護協会などは規制すべき種として354種を公表している。しかし、第1陣で指定されるのはアライグマやコクチバスなど40種以下の見込みである。ブラックバスだけでなく、外国産クワガタ類や北米産のミドリガメなども「広く飼われており、影響が大きい」として、リストから外れる公算が大きい。でも、これは理由になるのか?広く飼われていて影響が大きいから除外するとなると、実際に大きな悪影響を及ぼしている生物が軒並み除外となり、まだ大して影響のない生物だけが指定される。それでは実効性が無いだろう?いったい何のための法律なの?

沖縄本島の河川に生息する淡水魚のうち、魚種の7割が、本来沖縄にいない外来種になっている。個体数全体では9割が外来種で、中南部の河川ではメダカなどの在来魚は壊滅状態だ。比謝川や報得川に生息する魚はほぼ100%外来種とみられる。このままでは沖縄の川から在来魚が消えてしまうだろう。
最も多いのはアフリカ原産のテラピアで、グッピーやブルーギルなども増えている。熱帯魚が繁殖するってところが、いかにも亜熱帯の沖縄らしいが、在来種が絶滅の危機にあるのだから、喜んではいられない。いずれも食用や観賞用などに持ち込まれ、飼育の放棄などで放流されたものが繁殖しているとみられる。大雨で海に流された外来魚が隣の川に戻るなどの行動を繰り返しながら、徐々に北に分布を広げているという。
体長が小さい在来魚は、餌や生息域の競合に敗れ、生活空間を奪われているし、交雑が起こり、純粋な在来種がいなくなる恐れもある。

ブラックバスやアライグマ、マングース等の外来生物に共通する点は、天敵が存在しないことと、食欲旺盛で繁殖力が極めて強いことだ。島国日本に生息する在来生物は、残念ながらこれら侵入者に対して極めてもろいという弱点を持っている。なかでもブラックバスとマングースは、生態系の頂点に君臨する食肉の生き物である点が際立っている。これらは、世界自然保護連合の移入種ワースト100にも選ばれている。

こんなに悪質な外来生物なんだけど、良識ある人々がブラックバスの駆除に立ち上がれば、釣り人は「罪のないブラックバスを殺すのはかわいそう。人間の身勝手だ」などと批判する。こうした批判は、アライグマや混血ザルの駆除に対して動物愛護者たちが決まり文句で放つ言葉と全く同じだが、動物愛護者が独断と偏見でわめいているのに対し、釣り人達は、自分たちの楽しみを奪われるのを避けるために、屁理屈をこねているだけだ。どっちがタチが悪いかと言えば、どっちもどっちかなあ。

「ブラックバスが可哀想だ」なんてバカな事を本気で言ってる人が、もしいるのなら、数百万年の歴史を経て進化してきた日本の在来魚の立場になって考えて欲しい。彼らにしてみれば、大陸から突然やってきたエイリアンのような肉食魚によって食いまくられているのだよ。


環境省は頑張れ!

言っておくけど、僕は釣りが嫌いなわけではない。僕は釣りをするんだよ。中学生の頃から釣りをしている。なんてったって僕は瀬戸内海の子だ。海はいつも身近にある。釣りが嫌いな訳ないじゃないの。今でも時々子供を連れて釣りに行く。
釣りがしたければ自然の海で釣ればいい。環境を破壊する外来魚を人工的に密放流して釣りをする必要なんて無いじゃない。そんなん、釣り堀に行ってやれば?瀬戸内海の子としては、釣り堀の存在意義も分からないんだけどね。

環境省は、自分たちの権益を増やそうと環境税の導入をもくろんだりしているが、そのような自己利益の追求をしているヒマがあるんなら、もっと深刻な環境破壊の防止に身体を張って欲しい。政治家の圧力に屈することなく、なんとしてもブラックバスを始めとする数多くの外来生物を駆除して欲しい。それが環境省の本来の仕事だぞ。

(2004.12.4)



〜おしまい〜





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