ブラックバスの迷走

〜 早くしないと手遅れになる 〜



もちろん、ブラックバス君たちが迷走している訳ではない。環境省が迷走しているだけだ。ブラックバス君たちは、そんな事は気にせず、今日もでかい口を開けて牙をむき、日本の在来種の魚たちを片っ端から食い荒らして絶滅に追い込む作業に余念が無い。

環境省は、5月に施行予定の特定外来生物被害防止法に基づき輸入や移動、飼育を規制する「特定外来生物」の指定作業を進めているのだが、そもそも、この法律が出来た1つの大きな理由であったブラックバスについて、業界団体や政治的圧力を受けて、指定を半年間先送りすることを決めたのだ。業界団体の言い分は「すぐに指定されると釣り人の間に混乱が生じる」などと言ったものだが、こんなん理由になるのか?

ブラックバスはルアー釣りの対象として人気が高く、市場規模は1000億円ともいわれる。なので、突然、規制すると、確かに影響はあるだろう。
しかし、これは覚醒剤や麻薬と同じだ。我が国の覚醒剤市場はすさまじく拡大している。国際的な麻薬市場も同じだ。覚醒剤や麻薬の市場関係者は多いし、市場規模はブラックバスより桁違いに大きい。しかし、だからと言って、覚醒剤や麻薬の規制をゆるめることが正しい事だろうか。「ケシ栽培で収入を得ているアフガニスタンの農民に、ケシ栽培を止めさせると生活に困るだろうから、ケシ栽培を認める」って事が許されるだろうか。「泥棒で生計を立てている人に、泥棒を止めさせると生活に困るだろうから、そのまま泥棒を続けていいよ」って言うだろうか。
ブラックバスの規制に反対する人の論理には、害を及ぼしているという自覚が全く無い。まるで自分たちを被害者のように思っている。お前らは悪人なんだ。泥棒であり、麻薬の売人なのだ。それを自覚しろ!

今回の合意では、業界団体も、ブラックバスが「地域的な在来生物の絶滅をもたらしうること」「これ以上の分布の拡大を抑制する必要がある」ことについては渋々認めた。その上で、なんとか規制を免れようとして、指定の先送りの道を探ったのだ。

圧力に屈した環境省は「指定前に駆除の在り方を検討しておくことが制度の円滑な運用につながる」なんていう言い訳をしているが、いい加減にしろ、と言いたい。もっとちゃんとせんかっ!「研究者や漁業、釣り関係者らによる合同調査委員会を新たに設置し、ブラックバスの駆除のための指針づくりを進めることを決めた。モデル地域で駆除テストを実施しながら、具体的な方法や対策が必要な地域を選ぶ。半年間で優先的な対策が必要な地域や駆除方法に関する指針を策定した上で、今年秋にも改めて指定に持ち込みたい」なんて悠長な事を言っているが、はなはだ心許ない。まず、はっきりと指定した上で、具体的な方法を考えるべきだ。順番が逆だぞ。ブラックバスは繁殖力が強く、在来魚の稚魚や卵を好んで食べるため、生態系への影響が広がっており、半年が命取りになる地域だってあるのだ。環境省は「駆除の指針が決まれば、指定に対する釣り関係者の理解も得られるはず」と言い訳しているが、業界団体は「指定の是非は、指針の策定後に改めて検討する」としており、半年先だって、どうなるか分からない。

環境省は、炭素税なんていう自分たちの金儲けのことばかりに精力を費やし、本当に重大な環境問題には熱心でない。これが役人の本質なのか?百害あって一利なしの炭素税なんかにうつつを抜かしているヒマがあったら、長靴はいてブラックバスの駆除に出かけて欲しい。


なーんて怒り狂って書いていたら、あらら、あっさりと方針が変わっちゃった。

指定を先送りすると発表した僅か2日後に、一転して、ブラックバスを指定する方針を決めた小池百合子環境相が「指定が望ましい」と発言したことから、突然、リスト入りが決まったらしい。なんて素晴らしい事なんだっ!
小池環境相は「ブラックバスの指定が生態系を守る法の趣旨に沿う」と、誰が考えても当然の事を言っただけだが、環境省の役人どもは、大臣には説明してなかったのか?こんな大事な問題を、大臣に説明無しで発表していたのか?そんな事あるのか?環境省の幹部は「全く青天のへきれき」と語っているが、一体、あの役所はどうなってるんだろう?環境省の役人は、「半年先送り」という方針で専門家会合の委員に根回しをしていたんだけど、大臣には説明してなかったのか?さすがに、それは考えられないわなあ。てことは、新聞報道による世論の反発を見ながら、「こら、やっぱり、まずいわ。方針を変えなくっちゃ」て事で、役人に相談無しで、勝手に発言したのかもしれない。あるいは、大臣に対しても環境省の役人は説明を誤魔化し、「絶対に半年先には指定しますから」とか何とかうまい事を言ってたけど、報道で、業界団体が「半年先だって、指定を容認した訳ではない」なんて言ってるのを知り、「いかん。役人に騙されよった。先送りは反対派に都合良く受け止められている。半年先には私も大臣ではないかもしれないから、今、決めておかないと、どうなるか分からない」と危機感を抱き、強行突破したのかもしれない。

ま、しかし、それはそれで良い。それが政治家のする仕事だ。役人は、業界団体の顔色を窺いながら、みんなが妥協できるように調整するしか能がないが、それで良い場合と良くない場合がある。今回の問題のように、泥棒の事情を考慮する必要が無い問題では、そなな調整は無用だ。大臣は「政治的な判断は我々がする」と強く言い切っており、これこそが政治家の役割だ。業界団体も政治家を総動員して反対運動を展開しており、一時は、そのために先送りされそうになったが、小池大臣の決意が勝ったってことか。業界団体側の政治家も、さすがに、誰が見ても業界団体の方が悪いってことが自明の問題なので、あんまりおおっぴらには行動できなかったのかもしれないが。
朝日新聞も、NHKの下らない番組への政治的圧力を問題視するヒマがあったら、このような重要な問題に対する政治的圧力の問題にこそ、注目してもらいたい。

(2005.1.22)



〜おしまい〜





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