量子コンピュータとは何か

〜 素晴らしい世界 〜



遂に量子コンピュータとは何か」というタイトルの本を読みました。ニューヨークタイムズ紙のジョージ・ジョンソンという科学記者が書いた本で、日本語訳は去年の11月に発行され、その筋では結構ベストセラーになっている本です。大きな本屋の科学書コーナーに行けば平積みになっていたりします。量子コンピュータは前々から非常に気になっていたのですが、この本は分かりやすいとの評判だったので読んでみたかったのです。

そもそも量子って何なんだ?理系の人間なら誰でも知っているけど、文系の人間は、たぶん、ほとんど全員知らないでしょう。大学に入学する時は理系だったけど、卒業する時は文系だった僕の場合は、すごく中途半端にだけ知っています。
素粒子レベルの微少な世界では、1個の粒子が同時に二カ所に存在できるのです。「光は光子という粒子なんだけど、動いている時は波の性質がある」ってことくらいは文系の人でも高校で習ったかもしれない。つまり、光子は粒子なんだけど、動いている時は波のようにぼんやりとして形が無く、はっきりと「ここを通っている」って事は言えず、確率分布により色んな場所に同時に存在しながら移動しており、何かにぶつかると、確率に従ってランダムな位置に粒子として出現する、って感じです。だから微少な粒子は、光に限らず、同時に二カ所に存在できるのです。
文系の人は「なんじゃそれ。一体なんのこっちゃ?」って思うでしょう。でも、理系の人だって、ちゃんとイメージできる人はいないんじゃないでしょうか。我々が直接理解できるのは、あくまでもニュートン力学に支配されたマクロな現象だけなので、どんなにあがいても量子力学を直感的に理解するのは無理と思います。あのアインシュタインでさえ、死ぬまで量子力学を否定しようとしていたくらいだから。

さて、いくらアインシュタインが反対しようとも、その後の無数の実験や発見で量子力学は間違いない理論として確立されました。ここで微少な粒子をスイッチの代わりにして、量子スイッチを作ります。例えば、原子の周りを回っている電子の位置でオンとオフを決めます。外側の起動ならオンで、内側の起動ならオフ、という具合に。この量子スイッチのオンを数字の「1」に、オフを数字の「0」に対応させれば、このスイッチを10個並べれば、二進法で10桁の数字を表示できます。
例えば、「オン−オフ−オフ−オン−オフ−オン−オフ−オフ−オン−オン」だったら二進法の「1001010011」を表します。

ところが、電子は微少な粒子なので同時に二カ所に存在できるので、この量子スイッチはオンとオフを同時に表せます。てことは、量子スイッチを10個並べたものは、
  0000000000 (←10進法の0)
  0000000001 (←10進法の1)
  0000000010 (←10進法の2)
  0000000011 (←10進法の3)
  0000000100 (←10進法の4)
  0000000101 (←10進法の5)
       ・
       ・
       ・
  1111111110 (←10進法の1022)
  1111111111 (←10進法の1023)

の全て、つまり2の10乗、つまり1024通りの数字を同時に表すことが出来ます

すると、この10個のスイッチ同士のかけ算は
  0010011101 × 1110010010
とか
  1001010011 × 1101011001
など、1024×1024=1048576(約100万)通りのかけ算を同時にできるのです。

さらに量子スイッチを20個並べたものを2組用意すれば、約1兆通りの計算を同時に行えます

現在、世界最速のスーパーコンピュータなら、1秒間に数兆回の計算ができます。しかし、これを1秒間に数十兆回の計算ができるまで性能を高めるのは、非常に難しいことです。
ところが量子コンピュータなら、量子スイッチを数個増やすだけで、計算能力を10倍にすることができます。すっごく簡単。

一体、何のために、そんなに計算するのか、と疑問に思うかもしれないけど、例えば数百桁の数字を因数分解するには、世界最速のスーパーコンピュータでも何十億年もかかるのです。ところが、量子コンピュータなら、量子スイッチを何百個か並べられれば、一瞬で計算できるのです

どうでしょう?もう、ムチャクチャすごいアイデアだと思いませんか?
課題は、どうやって量子スイッチを作るか、という事です。ただし、これは、ぜーんぜん絵空事ではなく、いくつかの初期的な試みが成功しています。空想の世界からは一歩踏み出しているのです。
ただし、この量子スイッチを、たくさん並べるとか、うまく制御するのは、まだまだ先の事らしい。それでも、何の手がかりも無い状態ではないらしい。だから、うまく行けば、そのうち実現するかもしれないのです。

アインシュタインの E = mc2 という式によって物質がエネルギーに変わるという、これもニュートン力学的には直感的には理解できない現象が、原子力として実現したのと同じように、空想の世界が現実のものになる、という画期的な発明です。
これを期待せずにいられようかっ!

(2005.4.29)



〜おしまい〜





独り言のメニューへ