耐震設計偽造マンション

〜 住宅の安物は危険 〜



千葉県の姉歯建築士によるマンションやホテルの耐震強度計算書偽造事件が大きな波紋を呼んでいる。最初はマンション数件とホテル1件くらいだったのが、出るわ出るわで、全国各地にどんどん増えている。

みなさんも感じていると思いますが、この姉歯建築士って少し変ですよねえ。堂々とテレビの取材に出てきて、その話し方も他人事のように淡々としていて、あんまり悪びれてもいないし、何なんでしょうねえ。開き直っているというほど力も入ってないし、妙に落ち着いているなあ。不思議な人だ。
ただ、今回の事件のような偽造は、明るみになった姉歯建築士だけじゃなく、この業界で幅広く行われているような気がするので、どこまで被害が拡大するか予想できない。

対象となった京王プレッソイン五反田というホテルには僕も泊まった事があるので、割と身近な問題としてとらえている。京王プレッソインは新しくてきれいで安くて無料朝食も美味しいので個人的には大ファンだ。若い女性にも大人気だ。個人的に言えば、震度5の地震なんて、まず滅多にこないので、全然平気だ。営業停止しなくても、「欠陥割引」なんてものが出てさらに安くなれば迷うことなく泊まっちゃう。
マンション住民にしたって、「一刻も早く退去したい」なんて大騒ぎしているけど、そんなに慌てなくても、震度5の地震なんて一生のうちに体験できる人は極めて少ないんだから、もっと落ち着いていいのでは。なーんて言えるのは、当事者じゃないからであり、早く退去するかどうかじゃなくて、そんな欠陥マンションを買わされた当事者なら怒り爆発だろうなあ。公表されちゃえば資産価値もゼロになるし。て言うか、倒れると近所の迷惑にもなるから、近所の人から撤去要請も出るだろうから、むしろ資産価値はマイナスだわな。

さて問題は、この怒りをどこへぶつけたらいいのか、である。て言うか、怒りは姉歯建築士にぶつければいいが、補償をどこに要求したらいいか、である。て言うか、補償要求はどこにしてもいいような気がするけど、問題は補償要求に応えてくれるかどうか、である。
姉歯建築士は、損害賠償請求について「できる範囲で対応したいが、支払い能力に限度がある」と話している。もっともな話だ。彼はこざっぱりした格好をしており、小金はもっているかもしれないが、何十棟ものマンションの住民に補償できるような財力があるとは思えない

建設会社はどうかと言えば、責任は大いにある。て言うか、もしかしたら一番大きな責任があるかもしれない。姉歯建築士は、大口取引先の建設会社である木村建設から「鉄筋を減らせ」といった圧力を受けたと証言している。木村建設の支店長からはリベートを要求されていたとも言っている。
木村建設はこの証言を全面的に否定し、「姉歯建築士に圧力をかけたような行為は全くない。専門家である姉歯建築士の計算結果と確認審査機関の審査結果をそのまま信じてしまったことが原因。足をすくわれた思いだ」なーんて被害者の立場を強調しているが、この業界は何でもアリの業界なので、何があっても驚きはない。
姉歯建築士は7〜8年前から木村建設の仕事を始め、偽造をやり始めてからは、木村建設からの仕事が全体の9割以上を占めるようになったらしい。このため先方の意向に従わないと仕事がなくなると思い、偽造やリベート提供を続けとのことだ。実際、「安全性に問題が生じるので減らせない」と拒むと「さもないと事務所を変える」と迫られたため、「仕事がなくなると生活に困るので偽造した」と説明している。「力の上下関係があって偽造やリベート提供に何度も嫌気がさしていた。今は本当に申し訳ない気持ちだ」なーんて殊勝な事を言っているが、一番悪いのは彼であるので、同情とか共感する必要はない。ただ、構造設計を偽造して利益を得るのは建設会社だけであり、建築士にとっては偽造する事による直接的利益は無いので、彼の証言は嘘では無いだろう。
このように大きな責任を負う建設会社だが、この木村建設は11月末に自己破産を申請することとなった。木村建設は熊本県の建設会社だが、今回の事件で信用力が一気に低下し、銀行が融資を引き上げ資金調達のメドが立たなくなったからだ。会社が破産しちゃえば、補償どころではなくなる「資金力が無くなり、安全性の確認も取り壊しもできなくなった」と言っているから、住民への補償以前の問題だ。

確認検査機関であるイーホームズ社の責任も重い。姉歯建築士の偽造の手口は、正規の書類と改竄した書類を切り張りしたような単純なものであり、プロが見れば一発で分かるという。今回の事件が発覚したのはイーホームズ社の内部チェックのためだが、最初の検査が極めてずさんだったから責任は重い。て言うか、イーホームズ社を始めとして、民間の確認検査機関は競争が激しく、短期間で検査を仕上げるうえ、建設会社との結びつきが強いところも多く、本当に公正な検査ができているかどうか怪しい。
このように責任の重い確認検査機関だが、ここも補償できるかと言えば、たぶん無理だろう。1軒や2軒なら可能だろうけど、何十棟ものマンションの住民に補償することは不可能だろう。

さらに、建設会社には建築主からコスト削減の圧力がかかっているはずだから、元はと言えば建築主が悪いとも言えなくもない。偽造が明らかになっている21棟のうち12棟のマンションの建築主であるヒューザー社は、首都圏で通常のマンションの坪単価を10万円以上も下回る値段で売っているが、施工会社には木村建設など建設費の安い建設会社しか使っていなかったうえ、さらなるコストダウンを達成した場合はインセンティブを支払う契約を結んでいた。しかし、建築主が「不正を働いてまでコスト削減しろ」と露骨に言うのかどうかは分かりません。どうなんだろう。たぶん、普通はそこまで具体的には指示せずに、ただやみくもに「コストを削減しろ」って叫ぶだけだろうから、あんまり責任は追及できないかもしれない。ただ、ヒューザー社の場合は、物件によっては姉歯建築士と直接契約も結んでいるので、コスト削減を直接要求したと思われる。ただし、その場合でも直接、不正工作まで指示したかどうかは分からない。

こうなると住民が怒りをぶつけるのは行政だ。元はと言えば、本来は行政がやるべき設計の確認検査を民間業者に任せているのは行政だから、責任は無いとは言えない。(ただし、これをあんまり声高に言うと、自己増殖の大好きな公務員たちから「ほれ見たことか。だから民営化は駄目なんだ。民間企業は営利のためなら何でもやるから信用できない。大事な仕事は行政がやるべきなんだ」って言い出して、行政のスリム化という流れを押し戻すような動きが出てきてしまう。今回の問題を錦の御旗にして行政肥大化に突っ走ってしまう抵抗勢力は阻止せねばならない)
行政も責任は感じており、国土交通省は、さっそく問題を起こした姉歯建築士の聴聞会を開いた。ただし、建築士の免許を取り消して、刑事告発をしたところで、何の突っ張りにもならない。姉歯建築士は刑事告発や捜査当局の捜査は「素直に受ける」と言ってるが、建築基準法違反だけなら、たかだか50万円以下の罰金だから、なーんにも怖くないわなあ。また、偽装を見過ごしていた民間の確認検査機関も立ち入り検査したけど、これも補償には何の役にも立たないだろうなあ。

一方、与党は耐震構造設計偽造問題対策本部なんていう仰々しい名前の組織を設置し、偽装問題の実態解明やマンション住人への支援策の検討に乗り出した。 例えば、欠陥マンションの住民に対する救済策として、住宅金融公庫を通じた融資の金利減免などの検討を始めた。
ただし、行政の支援には限界がある。住宅は個人財産と位置づけられ、大きな地震でも住宅本体への国費投入の道は閉ざされてきた。阪神大震災の時も、仮設住宅への入居と言った支援策は講じられたが、個人の住宅に対する直接的な補償は極めて困難なのだ。なぜかと言えば、これを始めると、収集がつかなくなるからだ。今回のような大きな事件でなくても、小さな欠陥住宅問題は以前から数限りなく起こっている。どこからが欠陥住宅と見なせるかも難しい。
もっと言えば、詐欺も同じだ。詐欺は犯罪であり、捕まれば刑事罰が科せられる。しかし、被害にあった人に行政が補償してくれるわけではない。あくまでも犯人に対して民事訴訟で取り戻すしかない。僕は、個人的には、詐欺などの犯罪にあった人や事故などで被害を受けた人に対して行政が保証してくれるような制度があってもいいとおもう。もちろん、それは税金から出ることになるんだけど、いわば国民がみんなで加入する保険のようなものだと思えば納得はできるのではないだろうか。もちろん、被害者の落ち度は考慮して、全部のケースに100%補償する必要は無いが、今回の欠陥マンションのような場合は、被害者の落ち度は限りなく小さいわなあ。しかし、これは僕の理想であり、現実には行政はほとんど補償してくれない。

では、我々は、一体どうすればいいのか。答えは簡単。「住宅はケチるな」と言うことだ。
これは、僕が家を買う前に受けた忠告である。家はコストを削ろうと思えばいくらでも削れるのだそうだ。一戸建て住宅の坪単価で言えば、高いのはいくらでも高いのがある一方で、安いのは坪単価30万円を切るようなものもある。決して珍しくはない。特に大手住宅メーカーと地方の工務店の価格差は大きい。大手住宅メーカーのは、同じ程度の家なら、工務店の家のだいたい1.5倍はする。そのかわり、品質はしっかりしており安心できる。同じ品質の家を地方の工務店に頼めば確実に安くすむが、どこまで信頼できるかは、ケースバイケースだ。大手住宅メーカーの家が高いのは安心料とも言えるだろう。もちろん、工務店の家が怪しいなんていう気は無い。僕の家も地方の工務店が建てたものだ。信頼さえできれば、絶対にお得だ。逆に騙されていても分かりにくい。
また、極端に安い住宅が全て欠陥住宅とも言わない。欠陥にしなくても削れるコストはいくらでもあるようだ。欠陥ではなくても、見た目が限りなく安っぽいとか、基本構造の欠陥ではなくても、あちこちがちょこちょこと壊れたりボロボロになっていくとか。それを承知で買うのなら問題はない。だって安いんだから。しかし、見た目とか表面的には良いままでコストをケチるとなると、どこかで欠陥になってしまう。ま、これも、どこまでが単なる安物で、どこからが欠陥と言えるか、簡単ではないが。

マンションでも同じ事だ。近頃のマンションの安さは一体どうしたことか?僕が家を買う時に、ついでに見て回ったマンションと最近のマンションを比べると、同じ立地で同じ広さなら2/3くらいにまで価格低下している。もちろん地価も安くはなっているだろうけど、それにしても異常なまでの安さだ。特に、建築主の会社によって価格差が激しい。高い会社のはボロ儲けをしているとか、安い会社のは合理化が進んでいるとか、ならいいのだけど、それだけでは説明がつかないくらい価格差が大きい。利益率が異常なまでに薄くなっているという話もきくけど、それだけじゃあなく、やはりどこかにしわ寄せがいっているとしか思えない。基本的な構造の欠陥はとんでもないにしても、遮音が悪く、隣や上の音がまる聞こえになるとか、ベランダで水が漏れてくるとか、色々あるんじゃないですか。
まあ、あとで修理がきく程度の欠陥ならいいけど、今回のような基本構造の欠陥になると簡単には修理もできないので、あんまり安い物件は疑ってかかるのが良いような気がします。

(2005.11.25)



〜おしまい〜





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