男児投げ落とし殺人事件

〜 やりきれない悲しい事件 〜



川崎市のマンションで小学3年生の男児が最上階から投げ落とされて殺害された事件は、大きな衝撃だった。事件の残酷さに加え、動機が理解できないため、不気味さを感じるのだ。身代金目的の誘拐や性犯罪での誘拐事件において被害者が殺された場合、犯行の理由が分かりやすいため、犯人に対する怒りが爆発し、全国民が死刑を望むだろう。犯人が死刑にされたところで怒りと悲しみが和らぐ訳ではないが、事件の整理は難しくない。
しかし今回の犯行は、非常に不可解であり、単純な怒りだけでは整理がつかない。通常、犯罪者には極めて厳しい態度を取る私だが、今回の事件は、犯人対する怒りがこみ上げてくる反面、やりきれない悲しさも感じる

犯人は、勤めていたカーテン販売会社をリストラされて精神的に参ったのが遠因のような供述をしているようだが、事実は異なるようだ。会社側の説明では、退職前、犯人はほとんど業務に携わらず、出社しない日が半年近く続いていており、退職も本人の意思だったという。リストラなのか本人の意思なのか、どちらが本当かは分からないが、退職前に仕事をしてなかったのは事実のようだ。
彼は1998年に採用され、2人の女性スタッフとともにオーダーカーテンを販売し、店長を務めていた。接客は人当たりが良く、客から礼状が来たり、ケーキを贈られることもあったらしい。休日返上で働く時もあり、2003年には月収100万円を超えていたという。
ところが、2004年秋ごろに父親が病気で倒れて寝たきりとなって以降、体調を崩して会社を休みがちになった。同じ頃、銀行からローンで3000万円を借り、川崎市麻生区内に一戸建てを購入しているが、それまでは仕事も順調だったからローンを組んで自宅を購入したのだろう。しかし、病気の父親は転院を繰り返し、犯人は「見舞いに行く」とか「転院に付き添う」と理由をつけて平日でも仕事を休むようになったらしい
さらに2005年になると、店に出勤しても「外回りに行ってくる」とか「社長と会議をする」などと嘘を言って外出し、そのまま姿を見せなくなることが多くなった。そして、最後には犯人の方から「辞めたい」と申し出て、2005年9月に自主退職したということだ。
彼の退職後は妻が家計を支え、今井容疑者は自宅から外出したきり戻らなくなることが多くなったという。カーテン販売会社の社長は「事件を知って本当に驚いた。どちらかというと気の小さい男だと思っていたが、こんな大それたことをするとは」と話しているが、たぶん本当に気の小さい男だったのだろう。気が小さくなければ、こんな陰湿な犯罪は犯さないだろう。

自主退職が本人の意思なのかどうかは不明であり、もしかしたら会社の方から「辞めてくれ」という圧力があったかもしれないが、それまで勤務状況を考えれば、辞めさせられても文句は言えないだろう。
ただし、本人にとっては、形式上は自主退職になったが、辞めざるを得ない状況に追い込まれたという被害者意識があるから「リストラされた」なんて言っているのだろう。あまりにも自分勝手な言い方であり、同情の余地はないが、彼の気持ちとしては退職によって追い込まれていたのも事実だ
なぜなら、彼は退職後、何度も自殺しようとしていたのだ。「退職後ふさぎ込むことが多くなり、自殺しようと思っていた」と供述しているが、いい加減な供述をしているのではなく、本当に何度か自殺しようとしたらしい。しかも、犯行現場のマンションでだ。

最初に自殺しようとしたのは退社した翌月で、犯行現場であるマンションの15階に行き、飛び降りようとしたらしい。ただし、このときは「通路から下を見たら怖くなってやめた」と供述しており、あんまり気合いは入ってなかったようだ。そのマンションを選んだ理由は「不動産会社勤務時代に仕事で客を案内したことがあったから知っていたので」と説明しているので、深い意味は無かったのかもしれないが、このマンションに妙に固執しているのも事実だ。
この後、11月には自宅で首に電気コードを巻き付けて死のうとしたことが2回あり、いずれも家族に止められたとのことだ。同じ時期には自宅を出たきり所在が分からなくなり、自殺を心配した家族が警察に通報したこともあった。家族には悩みを打ち明けていなかったため、理由が分からなかったので、家族は再び自殺を図らないようその直後に入院させている。そして、今年3月8日に退院したばかりだった。何度も自殺を図ったので入院させ、退院したら今度は殺人を犯しただなんて、冗談じゃないが、自殺願望から一転して弱者を狙った無差別殺人に至った経緯は謎というか不気味だ
自殺未遂に続き、殺人の現場としても同じマンションに異様に固執していたのも、少しひっかかる。自分が飛び降りるのが怖くなった場所を殺人現場に選ぶのは、どういう心理なんだろう。

犯人は、3月29日に男児に続いて女性清掃員を殺害しようとして未遂に終わった後も、半日近く行方不明になり、心配した妻が警察に通報していた。昨年の11月の入院の時もそうだし、奥さんは随分と心配していたようだ。
僕が気になるのが、この奥さんや、子供達の事だ。犯人は、子供達もかわいがっていたようだ。それなのに無差別的に男児を殺すなんて、やっぱり気が狂ったんだろう。
マイホームを手に入れ、妻と3人の子供と仲良く暮らしていたサラリーマンが、一体なぜ、こんなことになっちゃったんだろう。本人は気が狂ったようなものなので、死刑になろうが強制入院させられようが仕方ないが、奥さんと子供が本当に可哀想だ。もちろん、被害者の男児とその家族が一番可哀想で気の毒なんだけど、僕には犯人の奥さんと子供達も、本当に可哀想でやりきれなくなる。せっかくのマイホームからは夜逃げせざるを得ないだろう。今まで幸せだったのに、突然発狂した父親のせいで、これから何処でどうやって生きていくんだろう。犯人は死刑になってもいいけど、家族に罪は無いよなあ。

(2006.4.6)



〜おしまい〜





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