滋賀県知事選挙

〜 民主党は何やってんだ? 〜



全国的には全くノーマークで注目されてもいなかった滋賀県知事選挙は、強烈な結果となり、一気に全国ニュースとなった。新幹線の新駅建設に反対する無名の嘉田由紀子氏が、自民、民主、公明が相乗りした現職の3選を阻み、全国で5人目の女性知事として当選したのだ。

争点としては、琵琶湖周辺のダム建設事業の賛否もあったが、ほとんどが滋賀県栗東市に計画されている新幹線の新駅問題だけに焦点が当たった。
滋賀県は京都に近いため、新幹線が通っているにもかかわらず、これまで新幹線の駅が無かった。必要なかったのだ。仮に駅ができても、せいぜい「こだま」くらいしか停まらないだろうから、大半の人は「のぞみ」が停まる京都まで電車で10分くらいかけて行くと思う。
事実、今年1月には、住民団体が県民75000人の署名を集めて、新駅建設に関する住民投票条例の制定を直接請求した。ところが滋賀県議会はこれを否決し、地元政界も財界も揃って新駅建設に邁進し、反対の声を押し切って5月に着工したのだ。
地元の要請で作る駅なので、250億円にのぼる建設費のほとんどは、県と地元7市で負担する。駅前の区画整理事業なども含めると総事業費は650億円にまでふくれあがる。このような経緯から、今回の知事選挙では、この新駅問題が一気に脚光を浴び、唯一の争点として県民の判断を仰ぐこととなった。

古いタイプのゴリゴリの地域開発主義者である私の意見を述べさせていただくと、もし自分の立場であったなら、新幹線の駅など、何があっても死力を尽くして建設推進に邁進したいところだ。いまだに瀬戸大橋を通って新幹線が四国にやってくる日を待ち望んでいる。
しかし、あくまでも極めて利己的な地域開発主義者である私は、四国以外の他地域については冷静に客観的に物事を判断する。そして、滋賀県に新幹線の駅が必要か、と言えば、神戸空港や長崎新幹線以上に、無用の長物であると断言できる。全く用の無いものだ。ほとんどの県民は見向きもしないだろう。単に地元の土建業者が喜ぶだけだ。今や、国民は開発や利便性以上に環境保全や税金の無駄遣いに敏感になっている。それに気づいていないのは政治家と行政だけだ。

嘉田氏は埼玉県出身だが、京大農学部に進み、その後、琵琶湖に惹かれて滋賀県に移り住んだ人だ。滋賀県の職員になり、20年以上も琵琶湖博物館などで研究を続けてきた。そして6千人もの県民を対象に「水辺の遊び」を調査したり、県内各地の古老を訪ね歩いて過去の洪水の聞き取りを行ったりするなど、足を使った研究を地道に続けてきた。このおかげで、行政的には全くの無名でったにもかかわらず、県民には環境を守る人として好感を持たれていた。
今は京都精華大学の教授として環境社会学を専門にしており、「一般会計の1.7倍の借金をかかえる滋賀県は、こんな無駄な駅を作るのは止めて、教育や福祉、防災など県民に広くかかわる事業に予算を充てるべきだ」と主張した。そして、選挙参謀の知恵で「もったいない」をキーワードに選挙運動を展開することとした。これが県民の大きな共感を呼び、現職に圧勝したのだ。選挙戦術の大勝利だ。

逆に、現職知事は、推薦を取りつけた自民党、公明党、民主党に加え、連合の支援を受け、組織力を生かした旧来型の選挙を展開した。国会議員や地方議員らの後援会組織を動員し、遺族会など200以上団体から推薦をもらっている。戦争が終わって60年以上も経ったこの時代に遺族会なんかに頼っていることも理解に苦しむうえ、個人演説会に古賀自民党元幹事長なんかを応援に呼ぶ手法も呆れてしまう。古賀なんて呼んだって、逆効果しかないよ。考えられないほどの政治オンチだよなあ。



ま、しかし、以上は概要説明である。今回、テーマとして糾弾したいのは、考えられないほどアホな民主党の対応だ
小沢一郎が代表になって自民党との対決姿勢を強めている民主党は、選挙において相乗り禁止の原則を掲げている。それなのに、滋賀県知事選挙では自民党や公明党と一緒に現職に相乗りした

一般論を言えば、現職に自民党と一緒に相乗りすれば勝つ可能性は極めて高く、現実的な選択ではある。国政選挙レベルでは自民党と張り合う民主党も、地方選挙では存在感が小さい。地方選挙は地域の利害関係が密接にからみあっているから、少しくらい風が吹いたところで、なかなか勝てない。だから、いくら小沢代表が相乗り禁止を打ち出しても、勝てる見込みのない戦いを挑む地方組織は少なく、結局、自民党と一緒になって現職に乗っかる構図が多い。県議会で与党になるのと野党になるのとでは、その後の発言力に大きな差が出るから、負け戦は避けねばならないのだ。

しかし、今回の滋賀県知事選挙はどうだ?選挙前の見通しでは、確かに現職が有利だったかもしれないが、対立候補が勝つ可能性は全く無いと判断したのだろうか。対立候補の嘉田氏は、訳の分からない泡沫候補ではなく、脱ダムの方針など、その主張は民主党の政策と通じる部分が少なくない。それなのに、「経験に疑問符がつく」などの理由から推薦を見送ったのだ。
確かに行政経験はない。立候補表明もギリギリで遅かった。勝つ見込みが無いと判断したのだろうが、そうだとすれば、県民の意識変化を読めなかった大失敗だ。今回の結果は、2人だけの戦いの僅差の勝負では、実は、ない。嘉田氏が現職に大差を付けて勝利しただけでなく、もう1人、共産党の候補者もおり、彼も結構、得票している。こちらも新駅には明確に反対姿勢を訴えており、新駅反対2人を合わせると、全体の6割以上を取っているのだ。そこまで強い反対の声があるのに、民主党は読めなかったのだ。反対派が共倒れして現職が漁夫の利を得ると考えたのか。あるいは、勝てるかどうか分からない選挙を戦うのがしんどいから、敢えて見えないフリをして、現職に乗っかったのか。

知事の与党になると、確かに具合は良い。居心地は良い。発言力は確保できるだろう。しかし、オール与党体制は緊張感が欠落する。今回の新駅建設問題で住民団体が多くの署名を集めて請求した住民投票条例を、県議会があっさりと否決したのは、緊張感が無いから県民の声が聞こえなかったということだ。オール与党体制になると、一度決めた政策を見直すことは極めて難しくなってしまう。

ま、しかし、今回の選挙結果で、自民党も民主党も少しは目が覚めただろう。去年の衆議院選挙で、小泉政権による落下傘候補が優勢反対派の現職を各地でうち破ったのを見れば分かるが、国政選挙では地域の利害関係に縛られない新人が勝利するのも当たり前になってきたが、地域に根ざした知事選挙などでは、まだまだ難しいと思われてきた。もちろん、高知県の橋本知事や長野県の田中知事のような例はあるが、いずれも他地域から来た新人とは言え、有名人だった。今回のような無名の人が勝利するのは画期的ではあるが、これが時代の流れだ

来年春の統一地方選挙や来夏の参院選を控え、自民党だけでなく、民主党も候補者選びの見直しを迫られている。
そして、その前に、わが香川県知事選挙が、この夏に行われるのだ。これまで、自民党と相乗りして現職に乗っかろうとしていた民主党は、今回の滋賀県知事選挙の結果を受けて、一体、どうするつもりだろう?特に争点の無い平穏な香川県では、やっぱり相乗りかなあ。

(2006.7.3)



〜おしまい〜





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