一票の格差

〜 人口だけでは語れない 〜



議員1人あたりの有権者数の格差すなわち1票の格差が最大5.13倍だった2004年7月の参議院選挙の定数配分は違憲だとして、東京周辺の有権者が選挙管理委員会に選挙無効を求めていた訴訟に対し、最高裁大法廷「定数配分規定が憲法に違反するに至っていたとは言えない」として、合憲判断を示した。
人口が少ない田舎に住む人間としては、まずは良かった、ひと安心、と思う。

実は、最高裁大法廷は1票の格差が5.06倍だった2001年の参議院選挙の定数配分についても、2004年1月に合憲判断をしている。ただし、この時は、15人の裁判官のうち6人が違憲と判断したし、合憲とした9人のうち4人も「次回選挙まで漫然と現在の状況が維持されたままであれば、違憲判断がされる余地は十分に存在する」と指摘していた。そのため、定数是正が行われないまま半年後に実施されて、さらに格差が拡大した2004年の選挙に対して、どういう判断をするかが焦点だった。
これについて、今回の判決では、「5.13倍と5.03倍とでは大きく異なるものではない」とし、また「2004年1月の判決から2004年7月の選挙まで6ヶ月しかなく、是正期間が不十分だった」ということで、問題にはしなかったようだ。

今回の判決は、15人の裁判官のうち10人が合憲とし、5人が違憲との反対意見を述べた。格差は若干ではあるが拡大したのに対し、裁判官の数で言えば逆に合憲が1人増えたわけだ。これについては、2004年7月の選挙の後、是正案が検討され、今年6月に定数を「4増4減」して格差を4.84倍に是正する公職選挙法改正が行われたことを評価した結果らしい。

前回に示した「看過できないほどの著しい不平等状態が生じ、その状態が相当期間継続しているのに是正措置も講じないことが、国会の裁量権の限界を超えている場合は違憲である」という判断基準は、今回も踏襲している。要するに「5倍を越えるような格差を長期間にわたって放ったらかしにするのは駄目よ」って事だ。2004年7月の選挙は、2004年1月から半年しか経っていないし、その後に、ちゃんと5倍以内になるように是正しているのでOKってことだ。
過去に遡れば、格差が6.59倍に開いた1992年の選挙について、1996年9月に最高裁大法廷は初めて「違憲状態」との判断を示したが、これを受けて定数是正が行われて格差が5倍前後になったため、その後の3回の選挙は合憲としてきた。5倍を大きく越えなければ大丈夫って感じかな。

ただし、5倍という数字の根拠ってのは、全く分からない。2倍とかいうのなら理屈として分かりやすいが、5倍って一体なんなのよ。単にキリのいい数字だとしか思えない。そうじゃなくて、5倍でも10倍でも、100倍でも、そういう問題ではないよ、と訴えたい。5倍が基準になっちゃえば、また近い将来に5倍を越えてしまえば、ちょこちょこといじらなければならなくなる。

例えばアメリカでは、日本の参議院に相当する(とも言えないけど)上院の議員定数は各州とも2名となっている。人口が2000万人以上いる州もあれば、数十万の州もあるけど、どこも平等に2名ずつだ。5倍どころじゃないよ。何十倍もの格差だ。でも、だからと言って人口の多い州から不満があって議員定数の見直しが提訴された話は聞かないなあ。一方、下院の方はかなり厳密に人口比率で定員を見直しており、選挙のたびに変わっている。
このように、必ずしも人口だけが絶対的な基準ではない。一方で人口だけを基準にした下院や衆議院があり、他方で人口を考慮しない上院や参議院がある。二院制を取っているのなら、それくらいの違いがあった方がいいのではないか?衆議院では大都市部が議席の大半を独占しているのだから、参議院では全都道府県に平等に配分したっていいじゃないか?そうしないとバランスが崩れるよ。

原告側は、当然ながら「2004年の最高裁判決よりも後戻りしており、大変不満だ」として今回の判決を批判している。こら当然だわな。原告は人口当たりの定員が少ない東京周辺の人だから、不満があるわな。しかし、地方の住民として言わせてもらうと、議員の定数を人口だけで決めるのは乱暴すぎると思う。
憲法が二院制を採用している理由は、衆議院の決定をチェックする「良識の府」としての機能を参議院に求めているからだ。しかし現実には、衆議院と同じような審議・採決をしている現行の参議院の存在意義は乏しい。「衆議院のカーボンコピー」などと批判されて久しい。さらに、このうえ、衆議院と同じように人口比で定数を決めてしまえば、それこそ衆議院と全く同じになってしまう。何の存在価値も無くなる。価値ゼロ。そう思いませんか?
一体、大都市部の人は何を求めているのだろう?正直言って、ちょっと理解に苦しみます。たぶん、憶測するに、自分達が応援する都市型政党が、大都市部に議席の大半が割り振られている衆議院では勝利しても、地方に手厚い参議院では勝つ見込みが少ないから、こういう訴訟をしているんだろうか。まさに都市型政党農村型政党の闘いというか、さらにストレートに言えば大都市地方の闘いだ。でも、ただでさえ富も権力も人材も、あらゆるものが限りなく集中しようとしている大都市部に、一体、さらに、何を集中させようと言うのだろう。ただでさえ、あらゆるものを手にしている大都市部の人たちは、何が目的で農村を敵視しているのだろう。本当に理解できない。

国連の議決権は、どんな小さな国でも平等に1票ずつある。人口に比例させたりしたら、中国やインドは日本の10倍以上の議決権を持ってしまう。大都市部の人は、それを許すのだろうか?
もちろん、国連は実際には大国の力が支配する。日本の政治だって同じだ。いくら参議院の議員定数が人口比になってなくても、現実の政治はどうしたって都市部が中心になる。なぜなら行政だって経済だって、全て大都市部に集中しているからだ。放って置いても大都市部はあらゆる面で優遇される。それを少しでも是正し、均衡のとれた国土の発展を目指すためには、単なる人口比だけではなく、様々な事情を考慮して、各都道府県に平等に議席を配分する院があってもいいじゃないか?

国を支えているのは、何も人口だけではない。人口が少なくても豊かな自然がある地方の自然は誰が守るのか?農業生産が多くて日本の食糧自給上重要な地域は誰が守るのか?放って置いても優遇されている大都市部の議員が、地方の自然を守るとも思えないんだけどなあ。それとも、大都市部の人は、日本から独立してシンガポール型の都市国家になりたいのだろうか?

マスコミは例によって、一票の格差が存在する事に対して、概ね批判的だ。しかし、それはマスコミが、ほとんど全て東京にあるからだ。日本のマスコミは、すなわち東京のマスコミだ。地方で台風が吹き荒れても全国ニュースにはなりにくいが、東京でちょっと電車が止まっただけで大騒ぎだ。つい先日、JR東日本で配電盤が焼けて京葉線が運休した事件など、東京の、それも一部の地域の人以外、全くどうでもいいニュースなのに、NHKなんか、朝から晩まで、そればっかり報道していた。ほんとにウンザリだ。国営放送なのに、どういうつもりなんだろう。そんな事するんなら、地方の人から受信料を取るのは止めてもらいたい。


ちょっと話がそれましたが、ついでに、話はさらに全く違った方にそれるけど、税金を一銭も払わず、子供の給食費だって踏み倒して、そのくせ昼間からパチンコに行っているような人が大勢いるけど、なんでそんな人間にも平等に選挙権があるのか、かなり理解に苦しむ。もちろん、納税額によって選挙権を差別するっていう古い制度が良いとは全然思わない。それは許せない。社会に蔓延し固定化する機会の不平等によって低所得に抑えられて税金もロクに払えない人の意見は、大いに汲み取らなければならないので、絶対に選挙権は必要であり、そうでなければ革命が起きる。むしろあぶく銭で生きているような奴らの選挙権を剥奪してもいいくらいだ。しかし、そうじゃなくて、給食費を踏み倒してパチンコしているような人間が、税金の使い道に対して発言権を与えられるってのは、やっぱり理不尽だよ。

なんの話をしていたかと言えば、何でもかんでも機械的に一票の重さを均等にするのが必ずしも良いって訳でもない、ということが言いたいのです。

(2006.10.5)



〜おしまい〜





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