臓器売買

〜 必要悪かも? 〜



生体腎移植で金品の授受が明らかになった愛媛県宇和島市の臓器売買事件が騒ぎになっている。宇和島市の宇和島徳洲会病院で昨年9月に行われた生体腎移植手術をめぐり、腎臓移植を受けた患者と、売買を仲介した女性の2人が逮捕されたのだ。臓器売買事件の摘発は、臓器移植法の施行後、初めてである。
腎臓をもらった男性患者は、重い糖尿病で腎移植が必要だったため、内縁の妻が、男性に対して200万円を貸していた女性に対し、「腎臓を売ってくれたら、200万円を返すうえ、さらに300万円を上乗せする」なんて言って臓器売買を持ちかけたのだ。ドナーは病院に「患者の義妹」と偽り、病院側はそれを鵜呑みにして「親族」として手術を行ってしまったらしい。

人間の臓器が金銭と引き換えに売買されていた、というのは、確かにショッキングな事件と言えなくもない。だけど、なんとなく、今までもあったんじゃないかなあ、表に出なかっただけじゃないかなあ、なんて思ってしまう。みんなも、そう思ってるんじゃないかなあ。例によって超独善的なマスコミは、とんでもない事が起こったみたいに大騒ぎしているけど、本当は、「それくらいあっても不思議でもなんでもないよなあ」なんて思ってるんじゃないかなあ。
だって、サラ金の取り立てなんかで「金が無いんやったら腎臓売れやっ!」なんて脅かされたっていう話は昔から多いもんなあ。それって、単なる脅し文句なのか、それとも「分かりました。腎臓売ります」って言ったら、サラ金さんは、ちゃんとアレンジしてくれるのかなあ。
それから、国内では提供者が少ないから、順番待ってたんじゃあ何十年かかるか分からないから海外で臓器移植する人も多いけど、それって臓器売買のケースは無かったの?今までも批判はされてたけど、禁止はされてなかったよねえ。

今回の事件が特異なのは、臓器売買そのものではなく、腎臓の提供を受けた男性が臓器を売った女性から借金をしてて、「腎臓をくれたら借金を返す」なんていう、トンデモナイ提案をした事だ。普通、逆だろ。普通は「借金を返せないのなら腎臓を売れ」だろ。それが、借金した側が居直ったため、おかしな事態になった。まあ、借金を返すからと言われて腎臓を提供した女性の発想も信じられないけど。もしかして、「腎臓を提供しないと相手が死んでしまって借金を返してくれない」って心配したのかなあ。

とにかく、今回は、提供者が「約束通り金をくれない」って事を警察に相談しちゃったからバレたけど、これはほんの氷山の一角であり、普通はたぶん、ちゃんと金を払うだろうから、バレないだけで、臓器売買は実は幅広く行われているんじゃないかしら。

肉親の間での臓器移植のケースでも、親子の場合は問題ないだろうけど、親子でもない親族の場合は、「身を切って臓器を提供してもらうのだから、お礼をするのは親族間でも当たり前」という意見もある。さらに夫婦以外の非血縁者の親族の場合は、むしろ「裏に何かあると考えるのが自然」とも指摘されている。
親子間の移植の場合でも、その親の遺産相続の際に、親から移植してもらった子供に対して、別の兄弟から「親から臓器をもらったんだから、遺産相続を放棄しろ」なんて迫られた事例もあるらしい。おおう、なんて醜い争いなんだ。

日本国内で昨年実施された生体腎移植は834件だけど、そのうち非血縁者間の移植は25%程度だ。この非血縁者間移植の大半は夫婦だが、今回問題となった宇和島徳洲会病院は、夫婦以外の非血縁者間移植を受け入れる数少ない病院の1つらしい。
同じように非血縁者移植を多く手掛けている別の病院の医師は、「ドナーと患者の間でお礼のやりとりがないと100パーセント言い切れる医者は1人もいないと思う」と言っている。そらそうだろう。普通に考えれば、そうだよ。でも、そんな事を医者がいちいち疑う必要もなければ、疑ったって本当の事が分かるはずはない。
例によって独善的で商売第一主義のマスコミどもは、「病院側がドナーが親族かどうかの確認を怠った事が原因だ」として批判しているが、なにも病院を批判する事はない。何も病院は悪いことはしていない。マスコミは、自分が神様だと勘違いしているかのごとく、偉そうにばっかり言ってる。
病院側は「ドナーが患者の義妹だと偽ったのを鵜呑みにしていた」と弁解しているが、それで十分だ。それを一体、どうやって確認しろと言うのだ?住民票だとか保険証で確認しろなんていう意見もあるけど、そんなん、その気になったら、なんぼでも誤魔化せるぞ。臓器売買するくらいの人だったら、それくらい誤魔化すのは簡単だぞ。
全国80大学の付属病院の腎臓移植を担当する医者を対象にした調査があり、それによると、臓器提供者と移植を受ける患者の本人確認について、約15%の病院では実施していないことが判明している。逆に言えば、85%もの病院が確認しているって事だけど、本当かしら?確認の方法は、健康保険証や運転免許証のチェックのほか、白血球の型の検査、問診による家族構成、病歴確認などが多いとのことで、厳しい事例では「本人と関係あるすべての家族と面接して確認する」という病院や、「夫婦間でも戸籍謄本で確認する」というケースもあるようだが、逆に「書類での確認は難しい」とか「健康保険証で確認しているが、年齢や性別が著しく異なる場合を除けば、人がすり替わってもわからない」なんていう意見もあった。て言うか、わざわざアンケートしなくたって、普通に考えれば、騙そうと思えばいくらでも騙せるよ。騙そうとしている人間に対していくら確認したって、本当の事を話してくれるはずがないじゃない。

そもそも、生体間移植について法律には明確な定めはない。もちろん、売買はしちゃだめよってなってるけど、どういう手順を踏むかといった決まりはない。あるのは日本移植学会の倫理指針だけだ。この指針では、提供者を原則として患者の親族に限定しており、親族以外が提供するときは、任意かつ無償の提供であることなどの審査を求めている。しかし、これにしたって、親族関係かどうかの確認の具体的方法までは示しておらず、患者や医療機関の判断に任せている。それに、そもそも、これはあくまでも学会の指針であって、法律でもなんでもない。今回の事件の舞台になった病院は学会とは無関係だし、執刀した医者も学会には所属していない。だから、いくら学会が勝手に指針を作ったって、そんなん関係ない。執刀した医師は、実は、何百例もの腎臓移植をした腎臓移植のカリスマ的存在であり、そういう医師が所属していない日本移植学会って、ちょっと弱いよね。
さらには、ドナーを親族に限定した学会の倫理指針を守っている病院であっても、これを逃れるため、関係を偽装したりする実態があるらしい。例えば手術前に患者がドナーと偽装結婚する例もあり、ここまでくれば、絶対に分かんないよ。


臓器売買が行われる根本的な原因は、本来あるべき脳死による臓器提供が日本では絶対的に不足していることだ。その大きな原因の1つは、いまだに脳死による臓器移植に反対している狂信的な人々がいるからだ。金儲けしか頭にない悪徳弁護士や医者どもが影で煽っているのだが、「脳死は死ではない」とか何とかわめいて、キチガイのように脳死移植に反対している。そのため、腎臓や肝臓の移植は生体からの移植が大半を占めている。その生体間移植が学会の指針によって親族からの提供に限定されると、どうしたって限界があるから、最後の手段として臓器売買が行われてしまう。仕方ないじゃないか。

もちろん、僕も、臓器売買を積極的に奨励しようというものではない。臓器売買は、本来は、売春と同じように、あくまでも本人の任意の意思によってなされるのであれば、別に構わないと思う。しかし現実は、いったん、それが許されちゃうと、借金の返済の代わりに強要されたりして、不幸な人が出てくるだろうから、やはり禁止しなければならない。
ただ、現実問題としては、止むに止まれず行われている事を、闇雲に禁止しようとしたって、本質的な解決にはならない。いくら国内で禁止したって、発展途上国では堂々と行われているため、海外で手術する日本人はいくらでもいる。本質的な解決は、ただ1つ、脳死移植の枠を広げることだけだ。

(2006.10.6)



〜おしまい〜





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