コムスン介護不正事件

〜 ドタバタ劇の行方は? 〜



訪問介護最大手のコムスンの不正を巡って、ドタバタが続いている。

(幹事長)「少しとは言え、介護分野ビジネスに片足を突っ込んでいた我々としては、他人事とは思えない事件よなあ」
(石材店)「いや、全く。これで介護ビジネス全体に不審の目が向けられたら困りますねえ」

そもそもの発端は、人材派遣などを手広く展開しているグッドウィル・グループの一員である訪問介護最大手のコムスンが、全国各地で運営していた事業所で、雇用していないヘルパーを勤務しているなどと偽って水増しして申請していた不正だ。東京都など5都県による監査で8事業での不正が発覚したが、コムスンは当初は「そのような事実は無い」なんてシラを切っていたが、都県が指定取り消しに動こうとすると、先手を打って不正が発覚した事業所を自主的に廃業し、処分逃れをはかっていた。
今回、このようなコムスンの会社ぐるみの不正が悪質だとして、厚生労働省が、コムスンの介護事業所の新規開設や更新を5年間認めないよう都道府県に通知したのだ。以前の介護保険法では、先手を打って事業所を廃止してしまうと、それ以上、指定取り消し処分なんかはできなかったが、昨春の同法改正により、そういう事をする不正な申請者に対しては、他の事業所の指定取り消し処分もできるという連座制を取り入れたため、コムスンが全国展開する全ての事業所の新規指定・更新を認めないようにしたのだ。介護施設は、新規事業所の開設でなくても、既存施設でも5年ごとに更新の申請が必要なため、今後、5年間は、更新期限がきた事業所から順に閉鎖に追い込まれていくことになる。

介護事業所についてこうした処分が下されたのは全国初めてだが、この処分により、コムスンは介護サービス事業から撤退せざるを得なくなった。コムスンだけでなく、コムスンの役員が、別会社で介護サービス事業を行うこともできなくなる。

この厚生労働省の処分には驚いた。だって、コムスンと言えば訪問介護の全国最大手企業だ。全国に2000以上の事業所を展開し、利用者は6万人にのぼる。いくら不正を行ったとは言え、これだけの規模の介護事業者が事業廃止となれば、利用者に及ぶ影響は甚大だ。もちろん、全事業所が一斉に廃止になるわけではなく、今後5年間にわたり更新期限が来た施設から順次廃止になるので、それまでは、利用者は利用している施設が更新期限を迎えるまでは、そのままサービスを受けられる。しかし、そうは言っても、そなな将来の無い不安定な施設の介護サービスを利用し続けるのは、なんとなく不安だろう。
だから、こんな思い切った処分をするなんて、厚生労働省は何を企んでいるのだろう、と思った。率直に言えば、介護保険が破綻するのを防ぐためではないだろうな、と思った。介護保険は、運用開始前は、「日本は伝統的に子供が親の面倒を見る文化だったから、介護保険なんてできても、利用する人が少ないのではないか」なんていう懐疑的な見方が多かったが、いざ蓋を開けてみると、当初懸念された介護サービスを受ける事のネガティブなイメージは短期間で払拭され、利用が爆発的に拡大してきた。介護サービスなんて受けなくても、まだまだ大丈夫そうな人まで、使わにゃ損々てな感じでどんどんサービスを受け始めたもんだから、介護保険がパンクしそうなのだ。これを食い止めるために、厚生労働省は、敢えて最大手のコムスンを取りつぶそうとしたのかと思った。

ところが、さすがコムスンは、あっさりと引き下がりはしなかった。親会社のグッドウィル・グループは、コムスンの介護サービスの全事業を、別の子会社である日本シルバーサービスに譲渡することにしたのだ。日本シルバーサービスも、元々は1964年設立の古い企業だが、グッドウィル・グループが買収して子会社にしたものだ。厚生労働省の処分により、コムスンは運営する介護サービス事業所の新規指定や更新が禁止されたし、コムスンの役員が別会社で介護サービス事業を行うこともできなくなったが、コムスンとは役員が異なる日本シルバーサービス社が運営する形で事業を引き継げば、コムスンの事業継続は可能となるのだ。

あまりの事に、びっくり。そんなん許されるのか、ってのが第一印象。誰が考えても、そんなんで許されるのなら、処分の意味が無い。それなのに厚生労働省は「法律で禁じられていないから認めざるを得ない」なんて言って容認する姿勢を見せた。そこで思った。これは厚生労働省も一緒になって作ったシナリオなのか、と。つまり、厚生労働省としては、見せしめのために極刑を言い渡しが、本当にそなな事をすれば介護の現場は大混乱に陥るから、実態としては影響が無いように、別の子会社への看板のすげ替えを許したのか、と。
グッドウィル・グループでは、「お客様へのサービス継続と従業員の雇用の確保を最優先するため」としているが、これは嘘ではないだろう。ていうか、厚生労働省だって、全く同じ事をコムスンに求めていた。一方で「今後、許可はしない」と言いながら、もう一方で「利用者へのサービス継続と従業員の雇用を確保しろ」なんていうのは、ちょっとむしがよすぎるよなあ。
それはともかく、コムスンと言えば、24時間介護など独自のサービスで急成長してきた企業だ。24時間対応で夜間も訪問ヘルプをしている事業所なんて、他にはほとんどないため、このサービスを必要とする利用者にとっては、廃業ってことになると、ものすごく影響が大きいので、これを落としどころとしていたのか、なんて納得した。

ところが、今度は、このコムスンのあまりにも素早すぎる対応に批判が噴出した。自民党の政治家達が「介護を食い物にしている。事業者としてふさわしくなく、直ちに退場してもらいたい」とか「厚生労働省の認識は、はなはだ甘い。一層厳しい行政処分が必要だ」とか「処分逃れ、脱法行為にならないよう厚労省、各自治体は厳しい判断をしていくべきだ。公務員には告発義務があり、詐欺に当たるなら告発すべきだ」とか激しい口調で糾弾し始めた。中には「何かおかしなことをしてないと利潤は上がらないはずだ」なんていうトンチンカンな発言もあった。介護ビジネスでは、悪いことをしない限り利潤があがらない、なんていう理屈だが、そんなことを言ってたら民間企業は一切進出できなくなってしまう。これは病院を民間企業に開放させまいとする既得権益者=医者の理論と同じだ。利潤を追求する民間企業は悪だと断言するものだ。しかし、実態としては、世の中で一番、金儲けに目がくらんでいるのは民間企業ではなくて医者だ。介護ビジネスにしたって、あくどい商売をしているのは、純粋な民間企業でなく病院系が多い。病院は自分とこの患者を病院や介護施設でたらい回しにしながら囲い込み、搾れるだけ搾り取っている。なんでもかんでも既得権益者を守ろうとする抵抗勢力が息を吹き返すのは阻止せねばならない。それはともかく、県知事達からも「脱法行為で正義に反する。県は指定を絶対に認めない」というような強い批判が出始めた。

厚生労働省は、当初は「法律で禁じられていないから認めざるを得ない」なんて言ってたが、政治家から批判が噴出するのに慌てて、グッドウィル・グループに対して、事業譲渡を凍結するよう行政指導した。このような不透明な行政指導が法的に通用するのかどうかは知らない。また、このような不透明な行政指導がまかり通るような世の中に逆行するのは避けたい。
しかし、誰が考えても、コムスンの対応は法の裏をかいくぐる脱法行為と言われてもしかたない。厳密に法理論から言えば違法ではないかもしれないが、法の精神を踏みにじる悪質な行為だろう。しかし、一方で、「利用者へのサービス継続と従業員の雇用を確保しろ」なんていう厚生労働省のムシのいい要望をかなえるためには、このような方法しかあり得ない。もちろん、グループ外の企業で、まるごと引き受けてくれる企業があればいいが、コムスンの売り物であった24時間サービスに対応できる企業を見つけるのは簡単ではないだろう。それを考えれば、コムスンの対応が一概に悪いとも言えない。

問題は、あまりにも抜け目のないコムスンの対応だったと言えよう。事業継続禁止の処分が言い渡されたその日のうちに事業譲渡を表明したのは拙速だった。営業停止ったって、明日からいきなりじゃなくて、更新期限のきた施設から順番なんだから、そんなに慌てなくても、ほとぼりが冷め始めた頃にこっそりと事業移管すればいいのに、慌てすぎて目立っちゃった。
事業移管する相手の日本シルバーサービスにしたって、ついこないだまでコムスンの子会社だったのを、コムスンが当局から目を付けられたため慌てて別のグループ内企業の子会社に付け替えたばかりだ。役員だって兼務していたのを、最近になって兼務をやめただけだ。明らかに処分をかいくぐるための脱法行為だ。
そもそも今回の事件の発端にしたって、全国のいくつかの事業所で不正請求などが摘発され、処分を受けそうになったので、それに先手を打って、処分を受けて連座制を適用されるのを逃れるかのように自主的に廃止届を次々と出したため、企業ぐるみの不正ということで大きな処分をくらったのだ。そのまま素直に違反していた事業所の取り消し処分を受けていれば、有料老人ホームなど訪問介護以外の事業は更新禁止を免れていたはずだ。全事業の不許可という事態に陥った原因は、コムスンの拙速な対応にほかならない。何につけても対応が早すぎたため、抜け目のない悪質な企業っていうイメージになってしまった。ていうか、もともとグッドウィル・グループは抜け目のない悪質な企業なのだ

これから、コムスンは、いやグッドウィル・グループはどうなるんだろう。何も僕はコムスンやグッドウィル・グループに同情する気は全くない。コムスンは確かに24時間介護サービスをなどを打ち出した貴重な企業ではある。手のかかる重度の要介護者は、一般的に事業者から敬遠されがちだが、コムスンには「どんな利用者でも、収入につながる。サービス提供は断らない」という風潮があった。
しかし、その実態は、かなり悪質な金儲け主義だ。費用の安いサービス方法があっても、単価の高いサービスを提供したり、1人に対するサービスを、費用がかさむよう複数へのサービスであるかのように書類を作ったりするケースもあり、「コムスンは金もうけ主義。相手が費用を払えそうだと見ると、余計にサービスをつけたり、高いサービスをふっかけたりしていた」というような批判が、現場や業界には根強かった。また「コムスンは予定時間にヘルパーが来ない」といった利用者の苦情も絶えなかった。
ただし、コムスンのずさんな運営、というか不正は、金儲け第一主義だけでなく、経営が苦しいことも背景にある。売り物にしている24時間対応のサービスはコストがかさむ。だからこそ、他の事業者はやっていないのだ。重度の障害を持った利用者を受け持つケアマネジャーにとっては、サービスの質や手法に問題があっても、最後はコムスンに頼るしかないという現実がある。

しかし、それでも、私はコムスンを擁護する気は無い。その根本的な理由は、グッドウィル・グループの折口会長だ。彼は日商岩井の社員だった時、ジュリアナ東京をプロデュースして一世を風靡した人だ。それだけで私は生理的嫌悪感をおぼえる。ジュリアナ東京で踊っている頭がカラッポのおねいちゃん達なんて、みんなまとめて北朝鮮に送ってやりたかった。そういうアホなおねいちゃんから金を搾り取るというビジネスをやる人自身は、決して頭がカラッポじゃなく、冷静で有能なビジネスマンだろうけど、それにしても、現実として、あのような国民白痴化を進める人間は許せない。あの髪型も許せない。
彼はその後、会社を辞め、グッドウィル・グループを急成長させて長者番付にも名を連ね、ベンチャーの旗手としてもてはやされた。今では経団連の理事にまでなっている。最近の経団連は、ちょっと脇が甘すぎる。サラ金の社長も受け入れていたし。確かに、従来型の重厚長大型企業ばかりが中心になった組織を変えていこうとする姿勢はよろしいのだが、だからといってサラ金や不正企業を取り込んでいたのでは、日本の企業社会のモラルが低下する一方だ。
グッドウィル・グループは、基本ビジネスは人材派遣であり、倉庫やイベント会場などでの軽作業に人材を派遣する会社として急成長したが、その後、将来性があり、ひともうけできそうな通信関連事業などに次々と進出した。そのひとつが介護事業のコムスンだ。コムスンは元々は九州の企業だったが、グッドウィル・グループが買収して急速に全国展開した。「介護ビジネスでの成否はひとえに、どのくらいの数のヘルパーを確保できるかにかかっている」と言われるくらいであり、その意味で人材派遣で急成長したグッドウィル・グループのノウハウが活かせる分野だ。
折口会長は、24時間365日体制の老人介護サービスに進出するにあたっても、社会的責任や公益性なんてきれい事は一切語らず、「これはビジネスチャンスだ」と公言していた。どんなに腹黒くて金儲け一色の医者でも、口では「患者のため、社会のため」なんて見え透いたきれい事を言うが、彼は最初から堂々と金儲けの事しか言ってなかった。それはそれで裏表が無くて気持がいいのだが、堂々と不正を行う姿勢は許せない。ほんの少しとは言え、介護ビジネスに片足を突っ込んできた我々としては、絶対に許せない。

(幹事長)「僕らなんて、法規制の遵守どころか、法では求められていないことまで、
       良心に従ってサービス向上に力を入れすぎて収支が悪かったもんなあ」
(石材店)「ほんまですよ。僕らみたいな良心的ビジネスでは、いつまでたっても赤字が続くんじゃないかって不安でしたよねえ」


グッドウィル・グループは、介護ビジネスだけでなく、人材派遣ビジネスでも不正を働いている。もともとグッドウィル・グループは人材派遣の大手だったのだが、さらに全国最大手だったクリスタルグループを買収して圧倒的な人材派遣企業となった。ところが、このクリスタルグループは、偽装請負などで大がかりな不正を働いていた悪質な企業だ。この悪質な企業を、これまた怪しい手口で買収してしまったグッドウィル・グループって、さらに上手をいく悪質企業だ。このような悪質な企業が介護ビジネスの全国最大手だなんて、ほんと、やってらんないわ
とは言え、コムスンに頼っている老人は、現実に全国で65000人に上る。地域によっては、大きな混乱が待っているだろう。厚生労働省の行政指導を受けて、とりあえずはコムスンのグループ内事業譲渡は凍結したグッドウィル・グループだが、あくまでも「当面凍結する」としているだけで、「選択肢としては残っている」とし、厚生労働省と協議していくとのことだ。厚生労働省もいい加減な役所だから、今後どうなるのか、目が離せない。

(2007.6.8)



〜おしまい〜





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