防衛大臣の失言

〜 政治センスの欠落 〜



久間防衛大臣が「原爆を落とされたけど、しようがない」と発言したことで辞任に追い込まれた
久間防衛相は、これまでも失言のオンパレードで、その政治感覚に大いに疑問が抱かれていたが、安倍首相は自分の総裁選挙での功労者と言うことでかばい続けてきた。しかし、今回の発言は、参議院選挙の直前という最悪のタイミングのため、与野党を問わず非難の大合唱となり、さすがに安倍首相もかばいきれなかった。

本当に最悪のタイミングでアホな事を言う空気の読めないおっさんだけど、ただ、今回の発言の趣旨は理解できる。彼の発言は「原爆を落とされて本当に悲惨な目に遭ったけど、あれで戦争が終わったのだと、そういう頭の整理で今、しようがないなと思っている」というものだ。頭の整理として、自分の中で折り合いを付けるという事だ。
人生、だれしも辛い事や悔しい事や許せない事がたくさんある。いくら悔しくても、今となってはどうしようもない。取り戻せない。いくら後悔したって、もう遅い。手遅れだ。いくら憎くても、殺してやりたくても、現実には何もできない。表面的にはうまくやっていかなければならない。そういう辛い事を山ほど抱えたまま生きていくのは辛い。なので、自分の中では、「それは仕方なかったんだ」と思いこみ、なんとか自分の中で折り合いを付けなければ、やってられない。いつまでも過去の事を思っていても発展性が無い。辛いだけの人生になってしまう。だかか、「仕方なかったんだ。これで良かったんだ」って思いこもうとする。それが人生をうまく生きていく処方だ。
太平洋戦争にしたって、ロクに準備もせずに精神論だけでアメリカと戦争するなんて無茶なことをやらかした軍部のバカさ加減に呆れかえって腹立てているだけでは悔しくて夜も眠れなくなる。だから「アメリカに負けたおかげで日本が民主国家になり、発展することができたんだ」なーんて思いこまなければ、ほんと、やってらんない。

そういう意味で久間防衛相の心情は理解できる。

(石材店)「今回も甘いですねえ。最近、妙に甘くないですか?やっぱり歳のせい?」
(幹事長)「甘いというか、そもそも、たかがそれくらいの軽い発言だったと言いたいのよ」


例によって独善的かつ偽善的な商売第一主義のマスコミが鬼の首でも取ったかのごとく大げさに報道したから大騒ぎになったけど、小さな講演会での取るに足らない軽い発言だったのよ。それが大騒ぎになったんだから、気の毒と言えば気の毒。

(石材店)「じゃ、許す、と?」
(幹事長)「いーえ」


彼の心情は理解できるけど、そもそも彼は事実認識が間違っている。もう一度、彼の発言を紹介すると、
日本が戦後、ドイツのように東西で仕切られなくて済んだのはソ連が日本に侵略しなかった点がある。米国はソ連に参戦してほしくなかった。日本に勝つのは分かっているのに日本はしぶとい。しぶといとソ連が出てくる可能性がある。日本が負けると分かっているのにあえて原爆を広島と長崎に落とした。長崎に落とすことで日本も降参するだろうと。そうすればソ連の参戦を止めることができると原爆投下をやった
というものだ。
つまり「日本が降伏するのは時間の問題だが、放っておいたら、まだしばらくはかかる。そんなモタモタしてると、ソ連が北海道に攻め込んでくる。ソ連が来る前に早く戦争を終わらせるためには原爆投下しかなかった」と言ってるのだ。

一見、もっともらしい意見だけど、これは原爆投下を正当化するアメリカ側の一方的で身勝手な論理だ。これが本当なら、2発も落とす理由はなく、広島のあとは、しばらく様子を見れば良かった。しかし、実は、広島や長崎への原爆投下の3ヶ月前に、ウラン型とプルトニウム型の2発を投下し、効果をテストする、という方針を既に決めていた。2種類あるから、どうしても2発は落として実験する必要があったのだ。つまり、少なくとも長崎への2発目は純粋な実験だったのだ。これは、いまどき誰でも知っている常識だ。そんな基本知識すら持ち合わせていない久間防衛相の知的レベルの低さには呆れかえる。しかも彼は長崎県の出身だぞ。
さらに、ソ連の北海道占領についても、当時の対日戦は圧倒的に米国主導のものであり、日本を単独占領する方針を決めていた。現実には、ドイツのようにソ連が分割占領する可能性は無かったと言い切れる。

上でも述べたように、久間防衛相としても、敗戦の悔しさを自分の心の中で整理する処方として、なんとか自分自身を納得させるために「仕方なかったんだ。結果的に、これで良かったんだ」と思いこみたいんだろう。その心情は理解できる。
しかし、政治家が、しかもしかも防衛大臣が、それを口にするかどうかは、別問題だ。そんな事は自分の心の中で勝手に思っていればいいことであり、みんなの前で口にする事ではない。しかも、大事な参議院選挙の直前に。この辺りの感覚は、ちょっと信じられない。というか、感覚が無いんだろうなあ。まったくボケている。
久間防衛相はこれまでも、米国のイラク戦争開戦判断を間違っていたと批判するなど、トンチンカンな発言で不興をかってきた。米国のイラク戦争開戦判断が間違っていただなんて、誰が考えても分かり切ったことだ。赤ちゃんでも分かる。小泉前首相だって阿部首相だって分かっている。当のブッシュ大統領だって無茶苦茶後悔しているはずだ。でも、それを口にできるかどうかは立場によって異なる。日本は、最初から間違った戦争だと分かってはおりながら、国際的な利害関係を総合的に判断してアメリカに協力してきたのだ。それを防衛大臣がバカみたいに「ありゃ間違っとるわ」なんてアホづらして言ってはいけない。
たぶん、この人は、公私の区別がつかないというか、自分の立場を冷静に考えられないというか、要は頭の悪い幼児型人間なんだろう。こんなアホを防衛大臣に任命したってのは阿部首相の決定的な弱点だよなあ

(2007.7.7)



〜おしまい〜





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