妊婦たらい回し事件

〜 ちょっと不可解 〜



先月末に、妊娠している奈良県の女性が出血を伴う腹痛を訴えて119番通報し、救急車を呼んで産婦人科へ行こうとしたのに、10ヶ所以上の病院から断られてたらい回しにされているうちに、大阪で流産してしまった事件があった。救急隊は12の病院に延べ16回も要請を繰り返していた。最終的に搬送先となっていた大阪の高槻病院も、一度は断っていたのだが、繰り返し要請されたため、仕方なく受け入れようとしたものだった。断った病院の言い訳は、「ほかに分娩が連続していた」「とても責任を持てる状況ではなかった」などというものだった。奈良県の医療をリードする奈良県立医大付属病院は3度の要請を断っている。当直医2人が当時、他の患者の対応に追われていたからだ。

奈良県では昨年8月にも、分娩中に意識不明となった女性が19病院から転院を断られて死亡しており、2度目の失態となった。ていうか、昨年の事故というか事件について、大騒ぎになったくせに、その後、奈良県は何の検討委員会を作っておらず、放ったらかしだった。
奈良県の産科医療のセーフティーネットは、かなりレベルが低い。厚生労働省はハイリスクの重症妊婦を受け入れる母体・胎児集中治療管理室を今年度中に整備するよう、全国の都道府県に指示しているが、奈良を含む6県は未整備だ。それどころが、奈良県中南部では今年4月以降、休診などが相次いで、大規模病院の産科がゼロの状態だ。奈良県は全体でも産科医が75人しかおらず、大都市近郊で人口増加県なのに、ちょっと考えられない事態だ。

そして、奈良県は極端だとしても、全国的にも似たような傾向にあり、産科医不足は大きな問題となっている。日本産科婦人科学会と日本産婦人科医会は、産科救急医療体制の整備や産婦人科医師不足問題への対策強化を求める陳情書を厚生労働省に提出した。舛添厚労相は「産科医不足は深刻な問題。全力を挙げて取り組む」も危機感を持っている。
少子化問題が大問題となり、どうやって子供を増やそうか頭を悩ませているというのに、このような状況では、少子化を解消できる訳がない。なんとかせねばならない。


って、誰でも思うように、僕も漫然と思っていた。

でも、ふと、自分に子供ができた時の事を考えてみた。なんとなく腑に落ちない。産科って、普通、行き当たりばったりで行ったりはしない。妊娠の兆候というか、少しでも可能性があると思ったら、まずは病院に行く。緊急の病気や怪我ではないから、行き当たりばったりで行くのではなく、交通の便とか、評判を聞いてとか、何らかの理由で病院を選択してからいく。そして、受診の結果、ほんとに妊娠していたら、その後は、普通、その病院に定期的に通う。もちろん、家の近くの方がいいからとか、評判を聞いてとか、何らかの理由で病院を変えることもあるだろうが、いずれにしても、かかりつけの医者を決める。そして毎月、定期的に通う。もちろん、急に何か異変が起きた場合はすぐに行くが、その時、たとえ真夜中だったとしても、かかりつけの病院なら忙しいからと言って拒んだりはしないだろう?担当してくれている医者が不在だったとしても、取りあえず受け入れるだろう。誰か他の医者が診るとか、あるいはなんとかして担当医を呼び出すとかするだろう。
で、よく調べてみると、たらい回しにされて流産してしまった奈良県の女性は、かかりつけ医がいなかったらしい。一体、どういう事なんだろう?つまり、それまで産科には行ってなかったってことか?そんな事があるんだろうか?

彼女はそもそも妊娠している事に気づいてなかったのだろうか。出血を伴う腹痛を起こすまで妊娠に気づいてなかったってことは、あんまり妊娠について気にしてなかったってことか。予想外の妊娠だったのか?普通、ちょっとでも妊娠の兆候があったら、「子供ができたんじゃないか?」って大喜びしながら病院に行ってみるもんじゃないのか?そんなになるまで気づいてなかったって事は、特に妊娠を望んでいたわけでもないのか?
あんまり詮索しても仕方ないんだけど、もしかしたら、新聞が大騒ぎしているほどの大問題でもないのかもしれない。待ち望んで出来た赤ちゃんを流産してしまったのなら、医療システムに大問題があると言えるだろうが、ちょっと腑に落ちない。

もちろん、かかりつけ医がいなかったからと言って、たらい回ししていいはずはないし、貴重な子供が生まれてこなかった事実も消せない。しかし、問題は別のところにあるのかもしれないぞ、とも思う

かかりつけ医がいないってことは、救急車で搬送される先の病院は、妊婦や胎児の受診データが得られないことを意味する。だって、データが存在しないのだから。かかりつけ医がいれば、仮に別の病院に緊急に運び込まれた場合でもデータを取り寄せられるから、的確な処置が出来る。しかし、データが無い場合は、出産時のトラブルによる訴訟リスクを避けるために受入を断るケースが出てきても不思議はない。新生児の周産期死亡率は、かかりつけ医がいる妊婦は0.5%にすぎないが、かかりつけ医がいなかった未受診妊婦は12%にも達するのだ。

たらい回しされた女性に、どういう個人的な事情があったのかは分からないけど、もし仮に、妊娠を望んでいたのなら、なぜかかりつけ医がいなかったのだろう?特に妊娠を望んでいたわけでもないのなら、大騒ぎする必要は全くない。あるいは、仕事が忙しくて、気になっていたけど受診に行く時間がなかったのなら、それは雇用問題とか職場環境問題だ。少子化を食い止めるというのなら、その方がよっぽど大問題だ。
独りよがりのマスコミに煽られることなく、ここは冷静に、本当は何が問題だったのか解明しないと、真の解決には結びつかない。

(2007.9.27)



〜おしまい〜





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