耐火用建材の偽装事件

〜 食品偽装とはレベルが違う悪質さ 〜



大手建材メーカーのニチアス耐火用建材の性能試験を偽り、大臣認定を不正に取得していた事が明るみになった。
建築基準法では「隣地との境界線から3メートル以内にある建物の1階部分は延焼の恐れがあるから、45分以上の耐火性を確保すること」なんて定めているのだが、ニチアスの建材は、基準の3分の2の耐火性しかなかったのだ。つまり、45分の耐火性基準が求められる部材の実際の耐火性は25〜30分、1時間の耐火性基準が求められる部材の実際の耐火性は40〜45分だったそうだ。この不正建材は、これまでに約10万棟の住宅に使用されており、住宅メーカーは無償修理を発表するなど対応でパニック状態だ。

(幹事長)「許せない!断じて許せなーいっ!!」
(石材店)「えらくお怒りですね。このところ、赤福やら比内地鶏の偽装が次々と明るみになったけど、
       特にコメントは無かったのに」
(幹事長)「あれはええんよ」
(石材店)「ええんですかーっ!?」


確かに、ここんとこ、食品関係の偽装がオンパレードだ。消費期限の偽装では、土産食品売上げ日本1位の赤福による消費期限偽装が明るみになって大騒ぎしていたら、その赤福の営業禁止により売上げが急増した類似品の御福餅にも製造日改竄があったなんてのはお笑いだわな。伊勢地域あげての偽装だわさ。お菓子ではこのほか、高級料亭の吉兆が菓子類の消費期限を張り替えて期限切れ商品を販売していた事も明るみになった。さらに、なんか知らんけど、その後も次から次へと出てきた。ミスタードーナツが賞味期限切れ材料を使用していたとか、老舗菓子店如水庵が賞味期限切れ商品を販売していたとか。
ちょっと前には不二家が血祭りに上げられ、その後、土産食品売上げ日本2位の北海道の白い恋人の賞味期限改竄が騒ぎになったりしたけど、こんなに続々と出てくるような事はこれまでなかった。なにも、最近になって偽装が流行始めたからではない。明るみになった偽装は、いずれも何十年も前から綿々と続けられてきたものばかりだ。なんで、ここへきて続々と出てきたのか腑に落ちないけど、このご時世、企業内の結束が緩んで内部告発の抵抗が無くなったという要因もあるだろうし、いくら隠そうとしてもいつかはバレるのなら、早めに自らバラしておいた方がマシだし、こんなにいっぱい出てきたらドサクサに紛れてあんまり非難されないだろうな、という魂胆で自ら公表するケースもあるだろうなあ。

しかし、消費期限の偽装を非難することに関しては、根本的に疑問がある。改竄はいけない事ではあるだろうが、そんなに悪いことだろうか。いずれも、つい出来心でやったんじゃなくて昔から延々とやられてきた偽装だが、長年にわたる偽装にもかかわらず人気を博してきたということは、味が評価されてきたということだ。消費期限を多少過ぎていたって保存状態が良ければ食中毒なんておこらない。赤福は冷凍保存技術が良かったし、白い恋人も包装資材が良かったため、品質は全く劣化していなかった。だから土産食品売上げ日本1位や2位になっているのだ。品質の劣化もなく、まだまだ食べられるものを、機械的に決めた期限が過ぎたからという理由でバカみたいに廃棄することが良いことなのか?
地球環境の破壊がとめどもなく進む中、またアフリカやアジア諸国では多くの子供達が飢餓に苦しんでいる一方で、飽食日本は相変わらず膨大な量の残飯を排出し続けている。

(幹事長)「もったいないじゃないか!」
(石材店)「じゃあ原材料の偽装は?」
(幹事長)「それは消費者に責任がある」


食品の原材料偽装としては、秋田県の肉製品加工会社比内鶏が、比内地鶏と表示した肉や卵のくん製に比内地鶏を使っていなかったことが明るみになった。味が良いと評判の商品だったが、創業以来、ずうっと偽装材料を使っていたらしい。大したもんだ。さらに、ゴールドパックの野菜ジュースの産地表示が不適正だったとか、ドッグフード製造会社サンライズが原材料名を偽装していたとか、なんぼでも続く。
過去には、何と言っても豚肉混入ミンチ事件が横綱級だけど、ほかにも雪印の国産肉偽装事件うどん偽装表示事件も起きた。そして、その度にしつこく指摘してきた通り、僕は、食品関係の偽装事件に関しては、えらく甘いのだ。なぜなら、これらの問題の本質は消費者側にあるからだ。いずれの事件でも、消費者は食べても気づかず満足していた。輸入肉を国産と偽ってとか、輸入小麦を国産と偽っていたくらいなら分かりにくいだろうけど、豚肉を牛肉と偽っていたなんて、結構、大胆な事件だけど、それでも消費者は気づかなかった。みんないい加減なものだ。自分の舌で違いが分からなかったのなら、文句言うな。高い金出して満足していたんなら、それでいいじゃないか。自分で違いが分からないのに文句を言うくらいなら、最初から安い食品を買え

(石材店)「分かりました。で、食品偽装はOKだけど、建材偽装は駄目と?」
(幹事長)「断じて許せなーい!」


食品偽装と建材偽装の根本的な違いは、想定される被害のレベルの違いだ。しつこいようだけど、次々と明るみになる食品偽装事件は、いずれも人体への影響は無い。皆無だ。食中毒が起きてないどころか、味だって良かったから長年分からなかったものだ。味が劣化していれば売れなかったはずだ。
しかし建材は違う。こんなん、素人どころか、プロが見たって、見るだけじゃ分からないけど、いざ火災が起きたら致命的な被害に結びつく。生死に関わる問題であり、極めて悪質だ。

(石材店)「でも、耐震設計偽造マンションの時は、そこまで厳しくなかったのでは?」
(幹事長)「あれは、少しだけど消費者側にも責任がある」


耐震設計偽造マンションの場合も、素人では見分けられない偽装だし、いざとなれば生死に関わる問題だ。ただし、あの事件で問題になったマンションには共通する特徴があった。すなわち、価格が異常に安いという点だ。まともなマンションの3分の2から、極端な場合は半額近い物件もあった。いくら近年、マンションの価格が大幅に下がっていたとは言え、周辺の物件に比べて異常に安い物件は、やはり何かあるのではと疑ってかかるべきだろう。
耐震設計偽造マンションの記事でも書いたけど「住宅はケチるな」と言うことだ。家のコストは削ろうと思えばいくらでも削れるもので、一戸建て住宅でもマンションでも、坪単価はピンからキリまである。もちろん、価格には色んな要素がからんでいるので、安いから品質が悪いとは言い切れない。効率的に作っているだけかもしれない。また、欠陥ではなくても見た目が限りなく安っぽいとか、遮音が悪く隣や上の音が聞こえるとか、ベランダで水が漏れてくるとか、そういう低品質のものもあれば、見た目は立派だけど根本的な部分で手抜きしているという深刻なものもあるから分かりにくい。しかし、いずれにしても常識では考えられないような低価格の物件は、消費者も疑ってかからなければならない。そういう意味で、偽装マンションについては、それほど厳しく非難はしなかった。騙される方も悪いのだ。
しかし、建材は違うぞ。納入されていた住宅メーカーはともかく、家を買う消費者に至っては、絶対に知りようがない。疑いようがない。なので絶対に許せない。

ニチアスの常識はずれの悪質な偽装工作の手口は、民間性能評価機関による試験の際、外から見えない内側の材料を水に浸し、燃えにくくしていたというものだ。幼稚と言えば幼稚な手口であるが、あまりにも悪質な偽装だ。

偽装の理由は、2000年から新たに始まった国の耐火性能試験に早く合格して同業他社との競争に勝つためだ。社長は「国の基準が厳しくなり、性能を満たすものができなかったため、開発担当者が不正を思いついた」なんて言い訳をしている。しかし、これは単なる言い訳に過ぎない。2000年から始まった試験に間に合わなかったからというのなら、取りあえずは偽装しても、その後、急いで新しい製品を開発し、素知らぬ顔をして入れ替えていくはずだけど、結局、その後もずうっと偽装製品を出荷し続けている。新しい製品を開発していない。金がかかることはしたくなかったというだけだ

また偽装が明るみになった経緯も許せない。昨年10月に法令順守を目的とした社内調査をしたら、この偽装が判明したのだけど、せっかく判明したのに、社長ら幹部3人の判断で公表しなかったのだ。これじゃ、一体、何のための法令順守調査なんだ?そして、今月になって「会社として不正行為に対応しないならば報道機関に情報を流す」っていう匿名の告発文が届いたため、慌てて報告したのだ。良心ある社員の内部告発だろう。社長は「隠蔽いと受け取られても仕方がない」と陳謝しているが、ちょっと日本語がおかしい。明らかな隠蔽なんだから、「取られても仕方がない」はないだろう?隠蔽でなくて何なんだ?

しかも、過去の出荷は隠蔽しつつも新たな出荷は取りやめたというのなら話は分かるが、なんと呆れたことに、社長が偽装を把握してからも、この1年間に25000棟の住宅用に偽装建材を出荷し続けていたのだ。おまけに、国へ偽装の事実を報告してからも、2週間は出荷を続けている。一体、どういう神経をしているのだ?て言うか、どういう思考回路をしているのだろう?国へ報告したからには、ただでは済まない。当然、リコールというか、改修工事をしなければならなくなるのは目に見えている。それなのに出荷を継続していたってのは、どういう知能レベルをしているんだろう?アホなのかしら?
社長は「納入先の住宅メーカーに混乱を招き迷惑をかける」と判断したらしいが、住宅メーカーの先にいる最終消費者の事は考えなかったのだろうか?たぶん、考えなかったのだろうなあ。社長は「家に住んでいる人への配慮が足らなかった」なんて言ってるけど、「配慮」っていうレベルの問題ではないぞ。生死にかかわることだぞ。

雪印乳業の事件の場合は、食中毒被害者を出したため会社解体にまで追い込まれたが、それにしたって死人が出たわけでもなく、たかが食中毒くらいで会社を潰す必要があるのか、と腹立たしかった。しかし、建材偽装のニチアスは、もしかしたら被害者が出ているかも知れない。火災が起きて、建材がニチアスの偽装建材だったがために燃え広がり、死者が出ていたとしても、今となっては何の証拠もない
毎年、全国で1万戸以上の戸建て住宅が火災にあい、1千人以上の人が亡くなっている。ニチアスの偽装建材を使った住宅は10万戸以上あるのだから、簡単に試算すれば、毎年、ニチアスの偽装建材を使った数十戸の家が火災にあい、数人が亡くなっている計算になる。累計すればニチアスの偽装建材を使った何百戸もの家が火災にあっているだろう。このうち、建材がちゃんと基準をクリアした製品だったら助かったはずの家や人がどれだけいたかは試算できないけど、ゼロじゃあないだろう。
こんな悪質な犯罪には断固とした罰を与えねばならない。社長以下、関係者は全員、市中引き回しのうえ打ち首にするべきではないか。

(2007.10.31)



〜おしまい〜





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