混乱する北京オリンピック聖火リレー

〜 やる意味が無いぞ 〜



北京オリンピック聖火リレーが欧米で末期的様相を呈している。もちろん、チベット暴動に対する中国当局の愚かな対応が原因だ。このチベット問題そのものは、とても大きな問題なので、また別の機会に徹底的にボロクソに批判するとして、今回は愚かな聖火リレーについて批判したい。

まず事件はロンドンで起きた。人権意識が高い西欧諸国で最初のリレー通過地点だったため、当初から混乱が予想され、2000人以上の厳重警備態勢が敷かれたが、中国に反発する市民団体などが抗議デモを行い、混乱を極めた。聖火はラドクリフを始めとするスポーツ選手や著名人によってロンドンを西から東へ横断したが、走者は常に10人の中国人伴走者と20人以上の警備員にガードされる物々しさ。それにもかかわらずリレー妨害を試みる者が続出し、妨害行為で35人が逮捕された。走者に向けて消火器を発射する者もいた。激しい抗議を浴びながらのリレーは、祝福ムードからは程遠く、最終的には、妨害行為を避けるため、予告なしにルートが変更された

続いてパリだ。フランス政府はロンドンを上回る3000人の警備態勢を敷いた。しかし、それでも中国に抗議する亡命チベット人や支援者らの激しい妨害に遭い、混乱回避のため3回もトーチの炎を消さざるを得なかった。最初、僕は、もし途中で火が消されたりしたらどうするんだろう、って思ってたけど、何のことはない、常に種火が一緒に運ばれており、いつでも再点火できるようになっている。なので、危険だと思ったら、先手を打って自ら火を消したようだ。一体、何のためのリレーかと思ってしまうけど、最後にはリレーは途中で打ち切られ、バスで最終地点に運ばれていった

そして、今度は大西洋を渡ってアメリカのサンフランシスコだ。
ロンドンやパリでも、最終的には混乱を避けるためにコースを変更したけど、なんとサンフランシスコでは最初からコースを変更した。しかも極秘で
予定のコース周辺でチベット人と中国系住民との間で小競り合いが発生したこともあり、聖火リレーは予定から約20分遅れで始まった。しかし始まったとたん、第1走者は、なんといきなり近くの倉庫に消えていった。そして、その倉庫からは複数の車両が別々の方角に走り出した。まるでスパイ映画のようですな。そして45分後には、走者は予定のコースと全く別の地点に突然現れ、抗議集団も見物の市民もいないルートを走り続けた。まさいイリュージョンマジックですわ。
抗議する市民は慌てて移動を試みたりしたようだけど、聖火ランナーは何重にも守られたまま、高速道路も走ったりしながら小刻みにルートを変え、最後は当初のゴール予定地点だったゴールデンゲートブリッジまでたどり着かずに、中途半端な場所で突然終わってしまった。そして、次のリレー予定地であるブエノスアイレスへ向かうため、バスで空港に運ばれていき、非公開で閉幕行事が行われて終わりとなった。

さてさて、このような聖火リレーって意味はあるのだろうか。中国政府にとっては、実態がどうであれ、何はともあれ聖火リレーが完遂できれば良いのだろう。だって、中国では政府が情報を思うがままに操作できるから、何も知らない中国人は「聖火リレーが無事に成功したのか。世界中で歓迎されたんだろうなあ。これでますます中国は世界中から歓迎されるんだろうなあ」なんてアホみたいに信じることだろう。

しかし、強権的人権蹂躙国家である中国以外に、今回の無様な聖火リレーの存在意義を正当化できる人はいないだろう。IOCのロゲ会長自身が「願っていたような、愉快なパーティーではなかった」と不快感を表しているほどだ。もちろん、中国政府はロゲ会長の発言に対しても不快感を示しているが。

なぜ意味が無いかということは、幼稚園児が考えてもすぐ分かる。
そもそも、聖火リレーってのは、最初はヒトラーがナチスドイツの威力を誇示するために始めたものだけど、今は国家や民族の争いを超えて平和を訴えるオリンピックの理念を広く伝えるためにやっているものだ。それなのに、あんな物々しい警備の中で見物人を排除してリレーしたって、誰に何が伝わるというのだろう。誰も見ることができないのに、何も伝わりはしない。て言うか、むしろイメージ悪化も甚だしい。常に屈強な中国人が大勢ガードしながら走るなんて、めちゃめちゃイメージ悪いぞ。さらに、当初予定コースを極秘で変えたりするなんて、まさに本末転倒もいいところだ。誰もいない所を中国人警備チームに囲まれて走ることの意味って、いったい何?

中国政府はルート変更について、デモ隊との衝突を回避できたってことで成功を強調しているけど、確かに、何でもいいからリレーが完遂できたという事実だけが欲しい中国としては成功だろうけど、本来の意味からして、誰も見ていないところでリレーしたって何の意味もないわなあ。それなら飛行機に乗せて一周すればいいことだ。
そもそも、聖火リレーって、本来は、ギリシャで採火した火を開催地までリレーで運んでくることに意義があったのに、今回の北京オリンピックでは、最初にギリシャから北京まで運んでいるのに、わざわざ北京から再び世界一周の旅に出ているのよ。単に、北京オリンピックを盛り上げるための宣伝でしかない訳なのよ。それなのに観客が誰もいないようにして極秘ルートでリレーするなんて、ほんとに全く意味がない。

さて、こうなると、問題は日本だ。長野だ。例によって能天気な日本人は、これまでは、今回の中国による中国だけのための宣伝リレーを、何の疑いも無くはしゃぎながら参加しようとしていたけど、こうなると状況は予断を許さない。日本にどれだけチベット人がいるのかは分かんないけど、中国批判に便乗して右翼も抗議行動を起こすかもしれない。また日本の警察が欧米の警察のように、抗議する市民に安易に暴力を振るうとも思えない。そうなると、もしかすると、かなりの混乱が巻き起こされるかもしれない。
どうせなら、日本もルートを変更して、中国が侵略を企む尖閣諸島でやればいいのに。誰もいないから。

(2008.4.11)



〜おしまい〜





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