電源開発の外資規制

〜 相変わらずチグハグな政策 〜



イギリスの投資ファンドであるザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンド(TCI)が電源開発の株式追加取得しようとしていた計画に対し、政府は追加取得計画を中止するよう勧告を出した。外国為替および外国貿易法(外為法)に基づく外資規制で、中止勧告が出たのは初めてだ。TCIが勧告を拒否すれば、次は中止命令を出す方針だ。

(幹事長)「予想通りだよな」
(石材店)「市場万能自由経済主義者の幹事長としては、当然、批判するんでしょ?」
(幹事長)「いや、必ずしも、そうでもないよ」


経済産業省は中止勧告を出した理由について、「公の秩序の維持を妨げるおそれを認定した」ためとした。具体的に言えば、短期的な利益を追求するというTCIのこれまでの投資行動を勘案すると、青森県の大間原子力発電所の建設計画を抱え、また全国各地において送電線など基幹設備を運営するという、日本の電力の安定供給に大きな役割を果たしている電源開発という会社に対し、悪影響を及ぼすだろうと予想したのだ。

この見解は、とても妥当だ。大間原子力発電所はフルモックス燃料の発電所であり、日本の核燃料サイクルにおいて重要な施設となる。また輸送設備や発電所など、全国10電力会社を補完する会社として電力の安定供給に重要な使命を帯びている。このような基幹的な公営企業が短期的な利益のみを重要視する投資ファンドに操られては、原子力政策や電力安定供給など、我が国の長期的な安全保障に支障をきたすことになる

これに対しTCIは、原子力発電所などに関する事案については株主総会で議決権が行使できないようにする新提案を発表し、揺さぶりをかけた。しかし、仮に原子力発電所に関する直接的な事案については関与しなくても、財務的な案件になると黙ってはいないだろう。巨額の投資を要する発電所建設を賄う自己資本がファンドに流出させられては、必要な投資も行えなくなってしまう。

今回の勧告について、TCIは当然のことながら「海外からの投資を拒否することで、日本の金融資産が過小評価され、国民も十分な利益を得られなくなる」と批判した。これは事前から言われていたことで、少し前に空港会社に対する外資規制の導入を巡って政府内で激しい議論があったこともあって、経産省の判断には市場からの大きな注目が集まり、対日投資の促進に水を差さないための難しい対応が迫られていた。

とは言っても、結論は最初から決まっていたようなものだし、この程度の規制は、実はどこの国でもやっているものだ。今回の事案だけで日本の市場が閉鎖的と見なされる可能性は少ないだろう。それよりも、もっとひどい障壁が他にいくらでもあるぞ。

(石材店)「えらく政府よりですねえ。珍しい。同業界の身びいきですか?」
(幹事長)「いやいや、政府は批判したい。でもそれは今回の判断ではなく、そもそもの政府の方針が間違っていたのだよ」


電源開発なんていう会社は、一般の人には馴染みが薄いだろう。直接、国民に電気を売っているわけではなく、各地の電力会社だけを相手に仕事をしている会社だからだ。この会社は、ほんの数年前までは国営会社だった。それを民営化したのが、今回の問題の発端だ。それまでは国が2/3の株式を保有し、残りの1/3を全国の電力会社が保有していた。電源開発という会社は国策会社であり、また全国の電力会社だけを相手に商売しているのだから、そのままで何の問題もなかった。それを何でもかんでも民営化の流れに乗って株式を売っぱらっちまったもんだから、こんな事になったのだ。

今回のように、国策が脅かされるというのなら国が保有し続ければよかったのだ。仮に国がどうしても手放すとしても、せめて電力各社だけでも保有し続ければよかったのだ。それなのに、国は電力各社に対して、強制的に株式を手放させたほんの数年前にそんな暴挙をしておきながら、いざ海外ファンドが株を買い増ししようとすると中止させるなんて、すごく矛盾してるぞ。そんなに買収されるのが怖いのなら、最初から民営化なんかするな、と言いたい。あるいは、超安定株主であった電力各社の株を強制的に売らすな、と言いたい。親方日の丸で多大な問題を抱えていた国鉄や電電公社と違って、電源開発なんて、民営化する必然性は無かったはずだ。
電力の安定供給や原子力政策を守ると言いながら、その場その場の場当たり的な政策を繰り返してきたアホな政策には、本当に腹が立つが、彼らは反省しているのだろうか。

(2008.4.17)



〜おしまい〜





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