グルジア情勢

〜 戦争なんて簡単に始まるもんだ 〜



ロシアグルジアが、かなり本格的な戦争を突然、始めてしまった。かなり、びっくり。以前から民族紛争がくすぶっていたオセチア地方だから、紛争勃発自体は何の違和感も無いが、今回のはかなり本格的な戦争だ。もちろん軍事大国領土大国のロシア側としては、それほど大きな戦争ではないだろうけど、グルジア側からすれば国の存続に関わるほどの規模だ。

なぜこんな戦争がいきなり勃発したかと言えば、グルジアからの分離独立を求めて実質的にグルジア政府の支配外にある南オセチア自治州に対し、領土を取り戻そうとして、グルジア軍が突然、本格的に進攻したからだ。もちろん、これまでも小競り合いはあった。国内に支配力が及ばない地域があれば、どの国だって独立派と内戦状態になる。いかなる国家であれ、領土保全は国家の最優先事項だ。しかし、南オセチアの独立派政権はロシアのバックアップを受けた傀儡政権であるため、これまではグルジアも簡単には手を出せなかったのだ

それがなぜ、突然、本格的に侵攻したのかと言えば、ひとつは北京オリンピックが開催されている時だからロシアも簡単には反撃しないだろうと踏んでいたのではないかと言われている。これに関しては、グルジアのサーカシビリ大統領は、完全に読み誤ったわけだ。先進諸国なら国際的な批判を考慮して、多少は控えめな行動を取るかも知れないが、ロシアや中国のような強権的な独裁国家は、そんな事は考慮しない。核兵器を保有し、国連安保理の常任理事国でもあるロシアや中国は、他国からの批判など無視して、いつでも好きなように戦争をしかける

(石材店)「やっぱりロシア批判ですか?」
(幹事長)「いや、そうでもないよ」


グルジアは近年、軍事力を強化しており、南オセチア州を簡単に制圧できると見ていたのかもしれない。サーカシビリ大統領は大統領就任後、欧米の支援を受けて軍改革を実施し、装備も旧式のロシア製兵器からNATO加盟国が使用する戦車や戦闘機への切り替えを進めてきたのだ。しかし、これに関しても、サーカシビリ大統領は、完全に読み誤ったと言える。実はロシアは、グルジアの怪しい動きを事前に察知し、いつでも徹底的に反撃できる態勢をとっていたのだ。いくら性能が西側諸国の兵器より劣るとは言え、圧倒的な物量で攻められればグルジアなんてひとたまりも無い
またサーカシビリ大統領は、昨年、野党勢力を武力弾圧したもんだから人気が下降気味になっていて、人気回復のために戦争を仕掛けたとも指摘さていれる。これは独裁者がよくとる手段だ。アメリカだってイラクに侵攻した時は政権に対する支持率が上昇したものだ。アメリカと言えば、ロシア側は、アメリカはグルジアによるオセチア進攻を事前に了承していたのではないか、と見ている。ロシアに対して軍事力で圧倒的に劣るグルジアがアメリカの承認なしに勝手に攻撃を決断できるはずがないからだ。もし、これが本当なら、アメリカも読みを誤ったと言わざるを得ない。

さて、このような突然のグルジア軍の侵攻に対し、事前にグルジア軍の動きを察知していたロシア軍は、素早く、かつ徹底的に反撃し、独立派が支配するオセチア地域だけでなく、グルジア全土を攻撃目標とし、首都トビリシ近郊を含む各地の空軍基地や海軍基地、さらにパイプラインのルート周辺などを空爆している。また地上軍も、オセチア地域を大きく越えてグルジア領内に侵攻し、一時はトビリシまで侵攻してくる可能性まで懸念され、首都攻防戦の緊張が高まった。サーカシビリ大統領は「ロシアはグルジア全土を征服しようとしている」と危機を訴えたが、これはあながち嘘でもない。状況さえ許せば、ロシアはグルジアくらい、いつでも徹底的に叩きのめせるのだ。

グルジアなんて面積も人口も北海道より小さい小国で、超巨大なロシアからすれば取るに足りない国のように見えるのに、なぜロシアはこうまで徹底的に介入するのかと言えば、ロシアに取って極めて重要な場所にあるからだ。
グルジアを含むカフカス地方は黒海とカスピ海の間に横たわり、ロシアにとっては地域大国であるトルコやイランを抑える地政学上の要衝である。ソ連崩壊前後から、この地域ではチェチェンに象徴されるように分離・独立の動きが相次いでいるが、ロシアとしては絶対に譲れない地域であることから、常に強大な軍事力で制圧してきたのだ。

それなのにグルジアでは、2003年にバラ革命と呼ばれる政権交代劇により親欧米派のサーカシビリが政権を奪取し、NATO加盟を目指す一方、ロシアを迂回して欧米に石油を供給するBTCパイプラインの建設にも協力し、欧米傾斜を急速に強めてきた。これを許すわけにはいかないロシアとしては、もともと親ロシア系のオセット人が実効支配する南オセチアにロシア軍を派遣し、グルジアを牽制してきたのだ。このため、今後、いかなる展開があろうとも、ロシアがグルジア支配を諦めるような事態は考えられない。ロシアにとって理想的なのは、圧倒的な軍事圧力によるサーカシビリ政権の転覆だが、そこまでいかなくても、この際、グルジア軍の力を徹底的に弱体化させたいだろう。そして少なくとも南オセチア地方の支配だけは絶対に継続するだろう。ロシアにとってグルジアのNATO加盟なんて悪夢以外の何ものでもない。

(石材店)「う〜ん、幹事長はロシアとグルジアと、どっちの味方なんですか?」
(幹事長)「これは単純にどちらか一方を応援するのは難しい戦争だよなあ」


今回のロシアのグルジア侵攻に対し、アメリカを始めとする西側諸国の反応は、予想通り鈍い。かつてアフガニスタンにソ連が侵攻した時の反応に比べて、とても鈍い。なにも、アフガニスタンに侵攻したソ連に対抗するためにアメリカが養成したゲリラ達が、その後、アメリカを敵視し始め、今では国際テロの巣窟になってしまった反省から、では、決して無い。単に、西側諸国には大義が無いからだ。何の大義かといえば、民族自決の大義だ。

ほんの少し前に、セルビアコソボ全く逆の事態が起こっている。旧ユーゴスラビアのセルビア領内のコソボ地域は、長らくアルバニア人が実効支配してきた。しかし国としてはセルビアだった。それがユーゴスラビアが崩壊して6つの国に分裂した勢いに乗って、コソボまでもが独立したいと言い出した。クロアチアやボスニアとは戦争までして独立を食い止めようとしたしたセルビアだが、ボスニア戦争で西側諸国から徹底的に痛めつけられたため、マケドニアやモンテネグロの独立の時には渋々容認した。しかし、さすがに完全に自国領土であるコソボの独立は簡単には認められない。それなのに、EU側の支援を全面的に受けたコソボは一方的に独立してしまった。もちろん、セルビアや、セルビアの守護神であるロシアは承認していない。ソ連が崩壊して出来た15ヵ国や、ユーゴスラビアが崩壊してできた6ヵ国は、長期間にわたって1つの連邦を形成して1つの国として行動してきたとは言え、もともとは別の国であったとも言えなくもない。しかし、いくらなんでもコソボはセルビア固有の領土だ。て言うか、セルビアという国はコソボから誕生したのだ。それなのに、わずか200年くらい前からアルバニア人が大勢住み始めたからという単純な理由で安易に独立を認めていては、こら収拾がつかなくなる。世界中に似たような状況の地域があるからだ。だからこそ、スペイン、インド、中国など国内に民族紛争を抱える多くの国が承認していないのだ。何も考えず、西側諸国の後をついてホイホイと承認した日本だって、高齢化が進んで人口が減少している四国に中国人が大挙して押し寄せて勝手に独立を叫びだしたら許さないだろう。

コソボ独立を後押ししてパンドラの箱を開けてしまった西側諸国としては、同様な地域での民族独立運動に対し、面と向かって反対はできなくなってしまった。その最初の事例が、今回のオセチアとなったわけだ。オセット人は、ロシア領内にある北オセチアとグルジア領内にある南オセチアを一体化してオセチアという国として独立を目指している。セルビアから独立したコソボと同じ構造だ。コソボの独立を支援したEUとしては、オセチアの独立を面と向かって非難することはできない。なので、オセチア独立派を攻撃したグルジア軍を食い止めたロシアに対しても、あんまり大きな声では非難できない。だって自分達がコソボ問題ではセルビアを攻撃したのだから。

それに、ロシアにとってはグルジアは極めて重要な地域だが、西側諸国にとってどれだけ重要か、となると温度差がある。グルジアの存在価値としては、中央アジアからロシアを経由しないパイプラインがあるっていう事くらいだ。
だいたい、グルジアなんて国自体、ソ連が崩壊するまでほとんど全員の日本人が存在すら知らなかった。日本人に限らず、世界の大半の人はグルジアなんて国が存在することは知らなかった。ソ連の中の国なんて、州とか県と同じようなもので、国になるなんて思ってもみなかった。グルジアなんてスターリンの故郷だし、ロシアとは別の国だなんて発想は、ロシア人だって思ってもみなかったはずだ。

さあてさてさて、この先どうなるか、すごく楽しみ。

(石材店)「た、楽しみって、あなた、何を期待してるんですか?」
(幹事長)「だってワクワクしない?」
(石材店)「幹事長は自分のことを平和主義者だって言ってなかった?」
(幹事長)「戦争反対とは口で言いながら、実は国際紛争オタクなのよ」


国際紛争オタクとしては、どちらかを一方的に支持するなんて素人がするような事はしない世の中の争い事ってのは、基本的に、どちらにも言い分がある。もっともらしい言い分がある。ガス田を巡って日本と中国が争っている東シナ海の領有権問題なんて、日本人にとっては議論する余地もなく明らかな日本の領海だが、大陸棚の延長までは中国領海だと主張する中国の主張も、国際的にはまんざら認められていない訳ではない。このように、どんな紛争でも、どっちの立場を取るかで見かたが完全に変わってくる。なので、無知で無邪気な第三者が勝手に判断するのは危険だ。ロシアが正しいのか、グルジアや西側諸国が正しいのか、さらには、どちらが勝つほうが日本の国益になるのか、簡単に結論付けられる問題ではない。
いずれにしても、バルカンにしてもカフカスにしても、昔から民族紛争の宝庫だ。そう簡単に収まるわけが無いのは確かだ。この先どうなるか、目が離せない。

いずれにしても、平和ボケした日本でボケッとしていると、21世紀の平和な時代に、こんなに簡単に突然、戦争が始まるなんて、かなり驚いてしまう。日本はアメリカの軍事力のもとで呑気に平和を享受しているが、もしかして、ちょっと余りにも呑気すぎるかもしれない。いくらキチガイ国家の北朝鮮だって、まさか本当に核ミサイルを撃ち込んできたりはしないだろう、なんて何の根拠も無く思っているけど、やっぱり何が起こるか分かんないよねえ。

(2008.8.12)



〜おしまい〜





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