高橋尚子 引退

〜 もう夢はかなわないのか 〜



遂に高橋尚子現役引退を表明した
これは今年の3月、北京オリンピックの最終代表選考会を兼ねた名古屋国際女子マラソンで惨敗したときから予想されたことだ。あの時は「北京には出られないけど、東京、大阪、名古屋の国内3大マラソンに連続して出る」なんて言ってたから、本格的な引退はまだ先かなとも思ったけど、所詮は時間の問題ではあった。そもそも1シーズンで3大マラソンに連続して出るなんて、すごいことではあるけれど、記録的にはもう期待できない状態だった。

(石材店)「熱狂的なQちゃんファンの幹事長にしては、えらく冷静ですねえ。日本中が大騒ぎしているというのに」
(幹事長)「私は自分を客観的に見ることができるんです。あなたとは違うんです」
(石材店)「気に入ったからって同じフレーズばっかり使わないでください!」


そもそも、今回の終わりの始まりは、昨年の合宿先ボルダーでの右ひざ手術だ。持病だった右ひざの半月板がめくれて、関節に入り込んだ状態になったため、手術で半分を切除したのだ。今年の名古屋まで7ヵ月しかない時点で大事な足にメスを入れたということは、それしか残された手は無かったということであり、そこまで追い詰められていたってことだ。当然、手術後はすぐに練習を再開できるはずはなく、今年の名古屋は万全の調子からは程遠い、一か八かの大きな賭けだった。もちろん言うまでもなく、勝算は極めて低い賭けだったのだ。

これはコンディション調整の失敗とかいうものじゃなく、全て仕方ないことだった。どうしようも無かったのだ。彼女は(野口みずきも同じだけれど)、もともと練習の虫だった訳で、だからこそ世界の頂点に立った訳で、その長年の過度な練習の無理がたたって体のあちこちにガタがきていたって訳で、なんとも仕方ない事ではある。彼女は(野口みずきも同じだけれど)、驚異的な才能があった訳ではない。もちろん、僕らのレベルからすれば宇宙人のような驚異的な才能だけど、練習を適当にやって世界で勝てるような才能ではなく、あくまでも極限まで練習したあげくの世界制覇だったのだ。そこまで練習ができるってのは、そこまで練習が好きだってのは、もちろん大きな才能ではあるけれど、怪我と紙一重の極限までの練習は必要不可欠だったのだ

そういう彼女が、再起の意味を込めて、1シーズンで3大マラソンに連続して出るなんて、すごいことではあるけれど、冷静に考えれば、好記録や優勝なんかは非常に難しい状況だ。長年、酷使してきた彼女の体は、もう元には戻らないのではないだろうか。だから、大好きな大好きなQちゃんだけど、もう期待はしてなかった。そういう意味で、今回の引退表明は時間の問題だった。

だが、しかし、それであっても悲しい。悲しすぎる。
僕としては、好記録や優勝なんかは望めないとしても、それでも醜態をさらしてでもQちゃんが走っている姿を見たかった。もう一度見たかった。もう何度も見たかった。だって僕のアイドルなんだもん。名古屋のようにボロボロに惨敗してでもいいから、まだまだ彼女が走る姿を見たかった。それは僕だけの気持ちじゃなくて、全国1億2800万人のマラソンファンが、いや全世界67億人のマラソンファンが共通に抱く願望だろう。だからこそ名古屋のときも、惨敗しながら走り続ける悲壮なQちゃんに向かって、沿道に立ち並んだ1億人のファンが暖かい声援を送り続けた。その声援は、惨敗して北京への道が閉ざされた悲劇のヒロインを涙して応援している、というより、そんなことは置いといて、とにかくひたすらQちゃんが走る姿を見れて嬉しいというニコニコ顔の応援だった。もうQちゃんに好記録や優勝は期待できなくてもいい。ただ単に走る姿さえ見られればいい。お顔を拝めればいい。もう神様みたいなものだ。僕らの女神様なのだ

それが、もう彼女の走る姿が拝めないなんて、もう考えられない。ただ涙あるのみ。えーんえーん、しくしくしく。
もちろん彼女は今後も、市民ランナーとしてランニングを継続する意向を示している。だから彼女が走る姿は見られるだろう。しかし、その走りは、あくまでも市民ランナーとして走る姿であり、僕が求めているものとは違う。彼女が真剣に、しかし爽やかに軽やかに疾走する姿を見る事は、もう永遠に無いのだ

彼女は今回の引退にあたって「完全燃焼だ」と言い切っている。しかし、これは本当だろうか。怪我で練習できないのではなくて、全力で練習しているのに今まで通りに走れなくなった、という意味では完全燃焼しつつあるとは言えるだろう。これ以上練習を続けても復活できないことを悟り、プロとして自信を持って走れなくなった、という意味では、完全燃焼と言えなくもない。もう燃焼できるものが無いということかもしれない。しかし、肉体的にはそうでも、精神的には不完全燃焼の塊だろう。悔しさ爆発だろう。
悔しさをぶつける先は、もちろん日本陸連だ。何度も何度もしつこく繰り返して言うが、今さらながら、アテネオリンピックの代表にQちゃんを選ばなかった日本陸連のバカタレ共が憎たらしい。シドニーで金メダルという快挙を成し遂げたQちゃんなんだから、選考レースの結果なんか関係なく、無条件で選んでいれば、彼女のその後の競技人生も大きく変わったはずだ。そして、今回のような早い引退は訪れなかったかもしれない。

今年は7月に野茂英雄投手が引退した。Qちゃんと言い野茂と言い、スポーツ界の輝く星が落ち続け、一つの時代が終わっていく感じだ。イチローや野口みずきや中村俊輔がいくら素晴らしくても、野茂やQちゃんや中田英寿の代わりにはなりえない。なぜなら、野茂やQちゃんや中田こそが開拓者であり、他の者は、全てその追随者に過ぎないからだ。開拓者だけが、周りから冷ややかな目で見られようが、そんな事は気にせず、自分を信じて、自分の夢だけを追いかけて全力で突っ走ってきたのだ。パイオニアであるQちゃんや野茂は、時にボロクソに言われながらも全力で突っ走ってきたのだ。その彼らが引退していくのは時代の必然とは言え、あまりにも悲しい。

「あきらめなければ夢はかなう」


それをみんな信じていたのに。
信じていたのにーーーーーっ!!

(2008.10.30)



〜おしまい〜





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