ポニョの町の景観保護

〜 あまりにも画期的な判決 〜



瀬戸内海国立公園の景勝地である広島県福山市の鞆の浦(とものうら)における埋め立て・架橋計画に対し、反対する住民が広島県を相手取っておこしていた埋め立て免許の差し止めを求めた訴訟の判決が広島地裁であり、「歴史・文化的景観が失われる」という住民側の訴えについて、「鞆の浦の景観は国民の財産」と指摘し、「埋め立てがされれば景観への影響は重大で、埋め立ては裁量権の逸脱」と訴えを認め、広島県に差し止めを命じた。景観保全を理由に着工前の工事の差し止めを初めて命じた画期的な判決だ。

鞆の浦は広島県福山市の沼隈半島南東にあり、古くから良港として栄え、万葉集にも詠まれているらしい。専門外なので全く分かんないけど、文化的価値もあるらしい。
とか何とか言うより、今回の訴訟が全国的に注目を集めたのは、鞆の浦が宮崎駿監督の映画「崖の上のポニョ」のモデル地だったからだ。

そんな所なのに、県や市は、交通混雑の解消などを目的に、湾の2ヘクタールを埋め立て、港を横切る180mの橋を架けることにしたのだ。この計画には賛否両論あったため、一時は凍結されたんだけど、2004年に計画推進を公約にした市長が当選し、計画の推進に勢いがつき、それに対抗して反対派住民が提訴したのである。

(石材店)「明らかに建設反対っぽい論調ですけど、やっぱりポニョのせい?」
(幹事長)「いーえいえいえ、僕はポニョは評価してないのよ」
(石材店)「そうなんですか?あんなに好評だったのに」
(幹事長)「やっぱり風の谷のナウシカだろう」


風の谷のナウシカの圧倒的な存在の前では全ての他作品はかすんでしまう。もちろん、もののけ姫やトトロは素晴らしい。でも、千と千尋やポニョに至っては、あまりにも程度が低すぎるというか理念が無いというか、なんたら、かんたら。

(石材店)「論旨がずれまくってますけど、幹事長は環境保護主義でしたっけ?」
(幹事長)「その辺のヒステリー集団とは一緒にしないでね」


環境保護主義者っていうと、緑の党とかグリーンピースを連想されそうで、とても嫌な言葉ですね。ああいう、とっても知能の低いヒステリックなアホ集団は、世の中から駆除すべきだけど、僕は環境保護主義者です。原子力開発を強力に推進すべきだと考えているのも、環境に最も負荷を与えないエネルギー源だからだ。

で、景観の保護にも非常に強い関心がある。今回の訴訟の舞台である鞆の浦については、それほど価値があるのかどうか、はっきり言って、わかりません。四国になら、あれくらいの田舎は、まだまだどこへ行ってもありそうな気もするし。別にポニョに感動した訳でもないし。
ただ、日本全国どこへ行っても同じ様な風景ばかり続いている現状には、辟易している。どこへ行っても街の中心部は寂れて、郊外を通るバイパス沿いに全国チェーンの大型店が林立し、ほんと、今どこにいるのか全く分からなくなってしまう。こないだ青森から長崎まで往復4000kmドライブをしたけど、ほんと、どこへ行ってもデジャブだ。
なので、景観はできるだけ保護する必要があると思う。

しかし、これまでは、裁判で景観を法で保護すべき個人の利益とまで認めたケースはなかった。記憶にあるのは、東京の国立市で高層マンションが景観を損なうという住民の訴えが認められたケースくらいじゃないか。あれも、非常に画期的な判決で、とても驚いたが、それ以降も、あんまり記憶にない。

今回の訴訟では、
  ・良好な景観を享受する「景観利益」は法的保護の対象か
が大きな争点だった。
で、判決は、鞆の浦の景観を「歴史的、文化的価値を有するもので、国民の財産」だと評価し、鞆の浦の歴史的景観を享受する利益が法的保護に値すると明快に断じたのだ。景観保護への関心の高まりを受けたものとも言える。そして、その上で、「工事が完成した後に復元することはまず不可能」と指摘して差し止めたのだ。

もちろん、景観保護が大事だからと言って、全ての開発を止めろ、とは言わない。そんな事をすれば、社会インフラはどんどん朽ち果てていくだけだ。そのやり方の問題だろう。公共事業による利便性の向上と、景観保全とをいかに両立するかは難しい問題だ。歴史的な施設や町並みの保存には、どうしても住民負担がつきまとう。今回の開発だって、推進側の市長が当選したのだから、住民の声としては開発推進の方が多いという事だ。一方、地域外の人からすれば、住民の生活の不便さなんて関係ないから、景観保護が大事だと無責任に言える
ただ、逆に言えば、地域の住民は、あまりにも身近すぎるため、その景観の価値に気づいてないのかもしれない。長い目で見れば、その景観を保護する方が自分たちの利益にもなる、という事を理解してもらう必要があるだろう。

いずれにしても、これまで行政は、建設業界がバックにいることもあってか、景観保護なんて考えずに、開発ばかりを進めてきた。この風潮に大きな変化がもたらされることは期待したいな。

(2009.10.3)



〜おしまい〜





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