イスラム教寺院の建設禁止

〜 やっぱり違和感があるかも 〜



スイスで、イスラム教寺院のミナレットという塔の建設禁止を求める国民投票が行われ、賛成多数で可決された。つまり、建設が禁止になった

この国民投票は、スイス国会の第1党である右派の国民党が呼びかけ、10万人超の署名を集めた末に実施されたものだ。なんで、わざわざこんな禁止令が出てきたかと言えば、その背景として、ヨーロッパ全体に言えることだけど、イスラム系移民が急増しているからだ。スイスのイスラム系移民は1980年代には5万人台だったけど、その後、旧ユーゴスラビアやトルコから流入して、現在では50万人くらい居るらしい。人口750万人程度のスイスに50万人もいるってことは、日本に換算すれば、800万人もいることになる。こら、かなり多いぞ。
スイス国内のイスラム関連施設は既に150ヵ所くらいあり、このうちミナレットも4ヵ所に設置されている。イスラム教徒も、数が少ないうちは、目立たずにひっそり暮らしてたんだろうけど、あちこちに寺院ができ、しかも目立つ尖塔なんかボンボン建ち始めると、やっぱり摩擦が生まれても仕方ないかもしれない

このような状況の中で、スイスに限らず、ヨーロッパ各国で移民排斥を訴える声が次第に広がってて、オランダや英国でも移民排斥を訴える極右政党が台頭している。各国とも政府は良識ある態度を取っておりスイス政府も建設禁止に反対なんだけど、右派のスイス国民党が議会第1党になってるって事は、国民の間に移民排斥の気持ちが広がっている証拠だろう。国民党は、これまでも、犯罪歴のある外国人の追放など排外主義政策を相次いで国民投票に持ち込んだりしている。これらは、いずれも否決されたけど、懲りずに、今回は「ミナレットは政治権力の象徴で、イスラム化を完結する意図を表している」などと言って建設禁止を求めたのだ。ちょっと過激すぎる見解というか、あからさまに敵対心を煽っているよなあ。
これに対して、良識あるスイス政府と議会は「ミナレットの建設禁止は憲法違反であり、信教の自由を侵害している」と反対投票を呼びかけていた。

(石材店)「その論調は、幹事長は建設禁止には反対なんですね?」
(幹事長)「建前は、な」


事前の世論調査では反対が優勢だったため、政府は油断していたフシがある。ただ、この手の世論調査は、なかなか本音が出にくい。堂々と「わしゃイスラム教徒は嫌いじゃけん、建設禁止に賛成や」などと言うと、人種差別と非難されるから、世論調査では無難に答えておきながら、実際には建設禁止に賛成したのだろう。

(石材店)「要するに、幹事長も、そうだと?」
(幹事長)「ま、そうかな」


事前の世論調査では反対が優勢だったが、結果は賛成派(建設禁止派)の圧勝だった。26州中22州で建設禁止が勝ち、スイス全体での得票率は57.5%に達した。禁止に反対が多数だったのは、国際機関が集中するジュネーブなどフランス語圏を中心とする4州だけだった。
スイス政府は反対投票を呼びかけていたけど、国民投票の結果を無視するわけにはいかないから、「期待した結果ではないが、受け入れざるを得ない」としており、ミナレットの新規建設を禁じる憲法改正手続きに進むだろう。

これに対し、世界のイスラム社会は強く反発している。アラブ連盟の事務局長は「スイスに住むイスラム教徒の権利を侵害するものだ」と批判しているし、エジプトの指導的イスラム法学者は「信教の自由への攻撃であり、世界各国のイスラム教徒を侮辱するものだ」と指弾している。
イスラム教と言えば、デンマークの新聞が2005年にイスラム教預言者ムハンマドの風刺漫画を掲載して、これに反発したイスラム諸国で激しい抗議運動が起きたことがある。同じく2005年には、キューバのグアンタナモ米軍基地で、捜査官が聖典コーランをトイレに流してイスラム教を冒涜した、という報道(実は誤報だった)を発端に、反米デモが世界のイスラム社会で吹き荒れた
イスラム教の怖いところは、世界のどこの国の出来事であっても、反イスラム教的な出来事があると、一致団結して一斉に反発することだ。国が違うんだから、ほっといてくれ、というのは通用しない。イスラム教徒は、みんな仲間なんだろう。

このようなイスラム教徒に対する漠然とした恐怖心があるとすれば、スイス国民の投票結果に対し、「了見が狭い」とか「人種差別だ」とか、安易に非難することはできない。建設禁止賛成派の勝利は、経済危機を背景とする移民労働者らへの警戒心の高まりがあるとの見方が多く、昨年秋の金融危機以降、国民の間に、移民労働者に仕事を奪われるという警戒心が強まっているのかもしれない。
しかし、それ以前の根本的な問題として、文化風土的に違和感があるのではないか。全国どこへ行っても同じようなチェーン店の安っぽい建物や看板が立ち並ぶ支離滅裂な景観の日本やアメリカと違って、ヨーロッパの町並みは、どこへ行っても統一的で美しい。スイスも例外ではなく、古い建物が残り、落ち着いた景観を形成している。そこにイスラムの象徴である尖塔がニョキニョキ立ち始めたら、こら景観が台無しだわな。例えば、京都の古い町並みに突如イスラム教寺院が出現したら、こら大変な事だ。そう考えると、今回の投票結果もうなずける。

イスラム教徒も、自分たちの国じゃないんだから、もうちょっと控えめで慎ましくしていれば摩擦も少ないと思うのだが。

(2009.12.2)



〜おしまい〜





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