ワシントン条約の混迷

〜 マグロ規制否決も素直に喜べない 〜



カタールのドーハで開かれていたワシントン条約締約国会議で、大西洋産のクロマグロ禁輸案が、あっさり否決された
即刻、禁輸という過激なモナコ案は、禁輸賛成が僅か20票にとどまったのに対し、日本などの反対が68票という圧倒的な大差での否決だ。賛成票20票ってのは、EUの加盟国数27さえ下回っているから、もうボロボロだわな。ざまみろモナコだわな。さらに、ある程度、漁業国に配慮したEUの修正案でさえも、賛成43票、反対72票という反対多数で否決された。そもそも可決するには2/3以上の賛成が必要だったから、圧倒的な否決と言っていいだろう。

(石材店)「一応、否決されて良かったんですよね?」
(幹事長)「て言うか、事前に、えらく心配していた割には、なんのこっちゃ、って感じの結果だよなあ」


日本国民の多くは、今回の否決に安堵したと言うより、事前のバカ騒ぎは何だったんだ?って感じですよねえ。

そもそも、僕個人としては、世界中から孤立してでも、国連を脱退してでも、核兵器を保有してでも、中国とオーストラリアを殲滅してでも、捕鯨だけは絶対に守らなければならないと思っているけど、マグロについては特に固執していない。でも、マグロについて禁止されてしまうと、同じような規制が広がる恐れがある。て言うか、間違いなく広がるだろう。日本人は魚介類を大量に消費してて、その半分は輸入に頼っているから、規制対象が広がると、かなり危機的な状況になる。なので、こういう日本たたきを狙った邪悪な提案に対しては断固として反対していかねばならない

そもそも即時禁輸というモナコの過激な提案は、どう考えても、何か裏があるとしか思えない。漁業なんかに無縁な小国モナコが、なんでこんな提案をしたのか。モナコなんて、そもそも、そんな提案ができるような一人前の国じゃないだろ?一応、国のフリをしているけど、国の実態なんて無いだろ?こんな国が、国際会議で一人前に投票権があるってこと自体が納得できないけど、そななモナコが、突如、マグロの禁輸なんて言い出したのには、絶対に何か裏があるはずだ。どこかの回し者に違いない。だから、まあ、これが否決されても、それほど不思議はない。
しかし、域内に漁業国を抱えたEUによる妥協的修正案は、当然、可決されると思っていた。なぜなら、マスコミなんかが絶対に可決される。間違いなく可決される。何があっても可決される。可決されなくても可決される」なんて意味不明のバカ騒ぎをしていたから、他の情報が無い善良な国民は騙されてしまっていたのだ。マスコミどもは、本当に「絶対に可決される」って思っていたのだろうか?
ま、マスコミは、実際にそう思っていたかどうかなんてのは関係ない。マスコミは、ニュースになる事なら嘘でもなんでも大げさに報道する。やらせだって捏造だって平気でする。オリンピックだって、冷静に客観的に見れば絶対に金メダルなんて無理と分かっていても、国民を煽り立てるために金メダル確実なんて報道を恥ずかしげも無くやり、後は知らん顔だ。

しかし、政府は、そう簡単には済まされないぞ。政府も事前には大騒ぎしていたけど、本当に可決されると思っていたのか?なんとなく、本当にそう思っていたようなフシもある。少なくとも、採決の少し前までは、本当にそう思っていたようなフシがある。で、蓋を開けてみれば、予想に反しての大差での否決だ。あるいは、会議の前日あたりからは、そのような雰囲気を嗅ぎ取っていたらしいが、それにしても事前の予想とはえらい違いだ。
僕が問題にしたい第@点目は、ここんとこだ。これまでも、例えばオリンピック誘致なんかで、事前の楽観的予想が、ぜーんぜん外れて大敗北を喫したってな事がよくあった。今回のは、結果としては良い方に転んだんだけど、事前の予想が大はずれってのは共通している。相変わらず日本の外交は、まるで無能なんじゃないか?

(石材店)「でも、大差での否決に持ち込めたってのは、日本外交の勝利なんじゃないですか?」
(幹事長)「途上国の大半が反対したのは、日本が説得したからでもなさそうだよ」


当初は、例えばアフリカの内陸部の国なんて、もともと魚なんてあんまり食べないから、今回の提案なんてどうでもいい話なので、ヨーロッパの影響が強いから賛成するんじゃないかって思われていた。日本政府は、これに対して政府顧問を派遣して多数派工作を展開していたが、とうてい勝てないと思われていた。ところが、いざ会議が始まると、強硬な反対意見をわめきたてたのは、アフリカ諸国だったりする。採決を早めて、一気呵成に即刻採決する動議を出したのもリビアだったし。
アメリカによる多数派工作や、環境NGOによるロビー活動でヨーロッパ諸国が結束し、旧植民地のアフリカ諸国を取り込んで禁輸案可決するという、従来のやり方を食い止めることができたと言えるのだが、しかし、これは日本政府の多数派工作が成功したからとは、とても言えない状況だ。裏で暗躍したのは、実は中国だった
僕が問題にしたい第A点目が、これだ。

(石材店)「ここでも中国の影響力ですねえ」
(幹事長)「複雑な気持ちよねえ」


日本ではマグロの話ばかり話題になって、その他は、ほとんど報道されていない。なぜならマスコミは売れる話題しか報道しないからだ。奴らは報道機関としての使命なんて、800年くらい前に放棄しているからな。
実は、今回の会議では、サメの規制案も出されていた。一般的な日本人にとっては、サメは、それほど重要な食材でもないけど、フカひれスープをこよなく愛する中国人にとっては、こら一大事だ。「フカひれスープなんて、無くなっても死にはせんだろう」って思うけど、そななこと言ったら「マグロや鯨だって無くなっても死にはせんだろう」って言われそうだから、言わない。中国人にとっては、フカひれスープは、核兵器で世界中を殲滅してでも守らなければならない料理なのだ。とにかく、中国としては、マグロが規制されると、サメにも規制が広がる事を恐れて、経済援助などで急速に影響力を高めているアフリカ諸国などに対し、マグロの規制反対を訴えかけ、そして成功したのだ。

今回は、マグロとサメとで、日本と中国の利害が一致したわけだから、喜んでもいいんだけど、中国は、地球温暖化に対しても、途上国を巻き込んで、先進国が主張した規制案を葬り去った実績がある。どんな小国でも平等に一票を持つ国際会議においては、多くの途上国を子分に従えた中国の影響力は強大だ。これは、要注意というか要警戒だから、あんまり無邪気に喜ぶべき事態ではない。日本政府も、さすがにそこんとこは認識していて、「アフリカに対する中国の影響力の大きさを、今回もまざまざと見せつけられた」なんて言ってる。

(石材店)「ま、しかし、今回は結果オーライだから、良かったんじゃないですか?」
(幹事長)「マグロやサメはいいけど、シロクマ君まで規制が否決されたからなあ」


僕が問題にしたい第B点目、というか、重要性から言えば、一番重要な問題が、これだ。
今回の会議では、シロクマ国際取引禁止案も出されていたのだ。日本のマスコミは、キチガイみたいにマグロの事ばかり報道していたけど、実際には、現地ではマグロよりシロクマの方が圧倒的に重要な議題だった

シロクマの取引禁止の提案はアメリカが出したもので、現在、輸出許可制の対象としているシロクマが絶滅の恐れがあるとして、皮など関連製品の国際取引を全面的に禁止するよう提案したのだ。アメリカは、シロクマの生息数は現在2万〜2万5000頭と推定されるが、2050年には1/3に減少する恐れがあると主張している。
これに対し、カナダ、ノルウェーなどは、ホッキョクグマは絶滅の危機にはなく、国際取引で個体数が大きく減少するようなこともないと主張し、禁輸案に反対した。そもそも、生息数の減少は、気候変動によって生息地である海氷が減っているからであり、ワシントン条約会議で話すような議題ではなく、問題は温暖化だ、という主張だ。カナダでは、なんと、合法的にシロクマの狩猟が認められており、イヌイットの人もそれで生計を立てている人が少なくないらしい。世代で受け継がれてきている伝統なんだそうだ。

(石材店)「鯨と似たような状況ですね」
(幹事長)「明らかに数が減少しているシロクマを、科学的に見て数が増えている鯨と一緒にするのは、どうかしら」


で、投票の結果は賛成48、反対62、棄権11で、採択に必要な出席国の3分の2の賛成票が集まらず、否決された。

(幹事長)「やっぱ、シロクマの毛皮の取引は、いかんだろう?」
(石材店)「立場が変わると難しいですよねえ」


日本人にとっては、シロクマは、マグロやサメや鯨と全く逆の立場である。直接的な経済的利益は何もない。シロクマなんて動物園で見るだけだ。で、どこの動物園でも子供たちに大人気だ。なので、その数が減少しているとなれば、こら放っておけない。なんとかして守らねばならない。そのシロクマを狩猟して毛皮を売ってる人がいるなんて許せない。絶対に許せない!
なーんて言えば、捕鯨反対派から同じような事を言われそうだ。ただ、しつこいようだけど、シロクマの数が急減しているのに対し、鯨の数は増えているのだ。だから、鯨は数を管理しながら捕獲して食べればいいのだ。何の問題もない。一方、シロクマは、数が減っているのは北極の氷が解けているからだとしても、急減しているのは間違いないんだから、毛皮目的で獲るのは、どうかと思うなあ。

(石材店)「ただ、捕鯨反対派は、数が減ろうが増えようが、絶対反対ですよね」
(幹事長)「そうなんよ。あいつらは、数の問題じゃなくて、可愛い鯨を殺すこと自体が許せないのよ」


この気持ちは、分からなくもない。もし仮に、シロクマの数が減ってなかったとしても、シロクマを毛皮目的で狩猟するのは、なんとなく良い気持ちはしない

今回の会議では話題にはなってないけど、アフリカのサバンナ地方では、旱魃により草地が減少したため草食動物が減少し、草食動物を食べるライオンなんかが困ってマサイ族の家畜を襲い、怒ったマサイ族がライオンを殺したりしている。これなんか、どうでしょう?個人的には、ライオンを殺すようなマサイ族は、ライオンの餌にしちまえばいいと本気で思うけど、みなさん、いかがでしょう?

(石材店)「マサイ族の人が読んだら殺しに来ますよ」
(幹事長)「マサイ族の人が読んでくれたら、それはそれで、なんとなく嬉しいな」


人はみんな、自分の経済的利益が犯されない限り、自然保護に賛成だ。でも、自然保護によって経済的な死活問題に直面する人に対して、どう対応するかは、かなり難しい問題だ。
マグロやサメのケースでは、アフリカのど真ん中のような海も無いような、全く関係ない国に投票する権利なんてあるのか?なんて思うのだけど、ライオンやシロクマの場合は、逆にアフリカや北極から遠く離れた国に投票する権利なんてあるのか?なんて言われそうだ。
マグロやサメは食材であり、その保護は産業政策であり、野生生物保護のワシントン条約は馴染まないと主張したいけど、ライオンやシロクマだってマサイ族やイヌイットの産業政策だなんて言われると、難しい。

僕が世界征服したら、アフリカにせよ北極にせよ南米にせよ動物や熱帯雨林や氷河を守るためなら、日本以外の国の人間なんて虫けらのように殲滅してもいい、と本気で思うけど、みなさんは、どうでしょう?

(2010.3.26)



〜おしまい〜





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