イタリアの地震学者に有罪判決

〜 今後が心配 〜



多数の犠牲者が出た2009年のイタリア中部地震で、イタリア防災庁付属委員会メンバーの地震学者ら7人が「大地震の兆候はない」って判断したことが被害拡大につながったとして過失致死傷罪で有罪になった。しかも執行猶予じゃなくて、求刑を上回る禁錮6年の実刑判決だ。

(石材店)「恐ろしい世の中になりましねえ」
(幹事長)「これじゃあ、日本の地震学者は軒並み縛り首だわなあ」


イタリア中部地震は大きな被害をもたらしたとは言え、死者は300人程度だ。去年の東北大地震の死者は、それより2桁多い2万人だ。それを考えたら、日本の地震学者は100人くらい死刑になってもおかしくない。それは、トンでもない事だと思うかもしれないが、それくらいイタリアの裁判はトンでもない判決だったと言える地震の予想なんて外れて当然みたいな感覚があるので、有罪判決には大きな違和感がある。

確かに、今回問題となったイタリアでの予報は、悪影響が大きかった。単に「この地方で大規模な地震は今後1万年に一度くらいしか起きないだろう」くらい曖昧な予想をして、なんとなく油断させたってなものではなく、数ヵ月にわたって群発地震が続いていた地方において、「大地震に結び付く可能性は低い」なーんて報告して、それが誇張されて報道されたために、安心して避難しなかった多くの住民が6日後に起きた地震で死傷したってものだ。今後一万年とかいった、のんびりした話ではなく、群発地震が続いて緊迫感が増していた中での予想だったので、結果的に大きな被害に結びついたのだ。検察側は「委員会の報告がなければ犠牲者は用心深く行動したはずだ」と主張している。それは、そうだろう。もっともだ。

ただし、学者たちは必ずしも「大きな地震は来ないから安心してね」なんてストレートに言ってた訳ではない。事の起こりは、地震が発生する前に、大気中のラドンガスを研究している人が「地中から異常な量のラドンガスが排出されており、この地域で大地震が起きる危険性が高い」なんて言い出したため、住民の間に急速に不安が広がったのだ。それで国の防災当局は災害対策委員会を開催し、集められた地震学者たちが「地中からのラドンガスの排出量によって地震を予知できることは科学的に証明されていない」などと否定し、「大地震の予兆はない」と結論付けたのだ。そもそもの目的が、純粋な地震予知ではなくて、群発地震をめぐって町で起きていた混乱を収拾する事が目的だったのだ。そして政府は、住民の不安を打ち消すために、より強い表現で「近いうちに大きな地震が発生する可能性は低い」なんていう情報を流したのだ。騒ぎを収めるための勇み足だったと言える。さらに「専門家は小規模な地震でエネルギーの放出が続いており好ましい状況だと確認した」なんて言った人もいて、住民に対して家にとどまってよいという安全宣言になってしまった。
なので、単に地震を予知できなかった事が責められている訳ではなく、群発地震が発生している中で安全宣言っぽいものを出したことを責められているのだ。学者による「小さい地震は続いているが、それは必ずしも大きい地震の前兆ではない」という見解を、混乱を収拾させたい政府側が、ちょっと誇張して「大きな地震は来ない」っていう安全宣言にしてしまったのが問題と言えよう。

とは言え、今の知見では予知なんてできっこない地震の発生について、学者を有罪とした今回の判決には、世界中から非難が沸き上がっている
一番大きな問題は、今回の状況は特殊だったとは言え、地震を予知しようとする科学者がうまく予想できなかったからと言って法的責任を負わされるとしたら、今後あえて危険を冒す科学者がいなくなってしまうことだ。犠牲者の遺族の気持ちは分かるが、この判決によって地震学者がいなくなれば、将来、命を救うことになる研究の進展を妨げることになるのだ。そういう意味で、今回のイタリアの裁判所の判決は、トンでもない判決と言えよう。
やっぱりイタリアは、やってくれるなあ。

(2012.10.25)



〜おしまい〜





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