北朝鮮のサイバーテロ

〜 北朝鮮を侮るな! 〜



北朝鮮金正恩第一書記の暗殺を題材にした映画「ザ・インタビュー」を製作したソニー・ピクチャーズエンタテインメント(SPE)にハッカー攻撃が仕掛けられ、大事件に発展している。

「ザ・インタビュー」は金第1書記が暗殺されるコメディー映画で、これに激怒した北朝鮮がSPEにハッカー攻撃を仕掛け、大量の秘密情報を入手したうえで、「もし映画を公開すれば大惨事になる」とテロ予告して脅しをかけたのだ。このため、まず最初はアメリカの大手映画館チェーンが上映中止を決定し、最終的にはSPE自身が全面的に上映を中止した

アメリカ政府は、このサイバーテロが北朝鮮の仕業であると断定したうえで、オバマ大統領は、SPEの上映中止の判断は誤りだった、と非難した。イギリスの経済紙フィナンシャル・タイムズも、表現の自由を守る観点からソニーの対応を問題視し、「攻撃に屈服したのは誤った判断だ」と厳しく批判している。これらに対し、もちろんSPE側は反論している。社員や関係者など数万人の氏名、社会保障番号、誕生日、自宅住所などの情報の流出が確認された以上、「テロには断固として屈しない」なんてきれい事では済まされない事態となり、苦渋の決断だっただろう。

(石材店)「被害者なのに非難されるなんて、ソニーも気の毒ですね」
(幹事長)「テロリストの脅迫に屈する事に対しては、テロリスト以上に非難されるもんなあ」


日本人は昔からテロリストの脅迫に弱く、ダッカ日航機ハイジャック事件でも、「人の生命は地球より重い」なんてアホな事を言って莫大な身代金を払ったうえ、超法規的措置として獄中のテロリストを釈放したりしたが、国際的には、テロリストに屈して要求を受け入れると、その後、ますますテロ行為が増えてしまうことから、テロリストの要求は断固として拒否するのが常識となっている。
ただ、SPEはソニーの子会社ではあるが、もともとアメリカ企業であり、実際の運営もアメリカ人に任されていることから、今回の屈服は日本人の甘さにある訳ではない。

オバマ大統領がSPEを非難したのは、もちろん、これが前例となるのを恐れているからだ。「犯罪的な攻撃に脅かされるようなパターンに陥ってはならない」と述べ、商業行為やスポーツの試合をテロに屈して中止すべきではないと強調している。しかし、いくら強調したところで、犯罪者達が言う事を聞くはずがなく、今後も多くの企業がサイバー攻撃を通じた強要行為の標的になるだろう。

アメリカFBIは、「北朝鮮の行動には、アメリカ企業に著しい害を与え、アメリカ市民が表現する権利を抑圧する意図がある。こうした脅迫行為は、受容できる国家の行動範囲を逸脱するものだ」として、当事者に費用や結果責任を負わせる姿勢を明確にしているが、北朝鮮がサイバーテロを認めるはずがなく、現実問題として責任を取らせる手段は無い。

てことで、どうしようもない事件になってしまった、というのが現実だ。今回の事件の直接的な原因は、SPEがサイバー攻撃に対して無防備だったことだ。SPEに限らず、映画スタジオなどは長い間サイバーセキュリティ―に無関心だったのが事実だ。電機メーカーの子会社なのに情けない話だが、映画会社の意識なんて、その程度のものだろう。

しかし、そもそもの根本的な原因は、今回の映画の内容だ。上にも書いたが、映画の内容は、アメリカ人記者がインタビューするという口実で金第1書記に近づいて暗殺するというものであり、しかもシリアスな映画ではなくコメディーなので、金第1書記を暗殺して笑い飛ばそうっていう趣旨の映画だ。これで北朝鮮が黙ってる訳ないじゃない。怒り狂うのが普通だろう?

もし、これが、北朝鮮の金第1書記じゃなくて、中国の習近平国家主席の頭を爆発させて暗殺する映画だったら、どうなるだろう?中国は激怒し、サイバー攻撃どころではなくなるのではないか?レアメタルの輸出制限どころじゃなくなるのではないか?アメリカ政府だって「表現の自由」なんてきれい事をいってる余地はなく、自主規制を走るのではないか?

或いは逆に、もし日本の映画会社がオバマ大統領の頭を爆発させて暗殺するコメディー映画を作ったら、アメリカ政府は黙っているだろうか?「表現の自由だ」なんて言って不問に付すだろうか?そんな事はあり得ないだろう。

つまり、今回の事件は、普段から憎々しくて忌々しくて目障りな北朝鮮の金第1書記を暗殺する映画だったから「表現の自由」なんて言って野放しにしているだけだ。

それより、今回の事件で注目されるのは、北朝鮮のサイバー攻撃能力だ。北朝鮮によるサイバー攻撃としては、2004年に韓国の海洋警察庁、議会、原子力研究院など政府機関がハッキングされたのが有名だが、その後も、アメリカや韓国が攻撃され、ホワイトハウスなど政府機関だけでなく、大手新聞社や銀行など民間企業にも広がった。

アメリカの分析によると、北朝鮮は、韓国軍の情報、産業施設などを同時多発的に攻撃できるハッカー集団を集中的に育成しており、5千人以上から成るサイバー特殊部隊の能力はアメリカCIAに匹敵する水準にある。

北朝鮮は経済は後進国だが、軍事面では侮れない。ミサイルや人工衛星の技術では先進国レベルにある。北朝鮮の技術レベルなんて低いもんだろう、なんて高をくくっていたら、いきなり日本を飛び越えるミサイルを発射されて慌てふためいたのは記憶に新しい。ミサイル発射には高度な電子・通信技術が不可欠であり、こういった分野での北朝鮮の技術レベルは高い。
これらと同様に、ソフトウェアと軍事情報技術分野でも高い水準にあり、ソフトウェアは、ハードウェアとは異なり、少ない投資で大きな成果を期待できるため、特に力を入れているようだ。

今回の事件に対し、オバマ大統領は北朝鮮への報復を示唆しており、アメリカと北朝鮮の間でサイバー戦が繰り広げられるかもしれない。

(石材店)「国際紛争オタクの幹事長としては楽しみ?」
(幹事長)「サイバー戦争って目に見えないから、つまんないよ」

国際紛争が盛り上がるのは嬉しいけど、どうせなら現実の戦闘を繰り広げてもらいたいものだ。

(2014.12.22)



〜おしまい〜





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