図書館の新刊貸し出し猶予

〜 図書館は出版社を滅ぼすのか 〜



公立図書館の貸し出しにより本が売れなくなっているとして、大手出版社や作家らが、発売から一定期間、新刊本の貸し出しをやめるよう求める動きが出ている。
新潮社の社長は「本の売り上げが減っているのは図書館の貸し出しの増加が一因である」として、著者と出版社の合意がある新刊に限って図書館での貸し出しを1年間猶予してほしいという考えを明らかにした。「売れる本を貸し出しで回されてしまうと、出版全般が痛んでしまうという構造にある」とのことだ。 ほとんどの小説の売れ行きは、出版後の半年で勝負が決まるので、1年間猶予してもらえれば助かるのだそうだ。

確かに、国内の書籍の販売部数は減少を続けており、ピークの1996年に比べて2014年は7割弱にまで落ち込むなど出版不況が深刻化している。その一方で、公立図書館は増加し、サービスも拡充されているため、公立図書館の貸し出し数は増加傾向にあり、2010年から図書館の本の貸し出し数が本屋さんでの本の販売部数を上回っている

出版文化を守り育ててきたはずの図書館が、出版不況の元凶の一つだという批判は、もうだいぶ以前から出されている。貸し出しを重視するあまり、過剰サービスの無料貸本屋になっているというのだ。ベストセラーを1館で20〜30冊購入する図書館もあるし、さらにはブームが去った後は余剰になった本を廃棄したり、リサイクルと称して利用者に無料で持ち帰らせたりすることもある。インターネットで予約し、コンビニで本を受け取れるというコンビニ配本制度も便利なサービスだが、そこまで本当に必要なのだろうかと疑問は残る。

知らなかったが、大手出版社の文芸作品は、一般的に最初に刷った初版(2〜3万部程度)の大半が売れてようやく採算ラインに乗り、その後、増刷があると利益になるんだそうだ。素人が考えたら、本って言うと、すぐ数十万部くらい売れてそうな気がするけど、そんなベストセラーは少なくて、たいていの場合は増刷でいかにして利益を確保できるかが勝負なんだそうだ。ところが、最近は、こういった作品の増刷ができない状況が多いらしい。そして、その一因が図書館の貸し出しにあるんだそうだ。

このような出版社の意見に対し、日本図書館協会は「図書館の影響で出版社の売り上げがどのくらい減ったかという実証的なデータがあるわけではない」と話しているが、それはその通りだ。そんな調査は、なかなか難しいだろう。ただ、全国の公立図書館が増加傾向にあるのは事実で、この10年で400館以上増え、3246館になっている。当然ながら、貸出冊数も同じように増加を続けている。

個人的な見解を述べさせてもらうと、明らかに図書館はやり過ぎだと思う

(石材店)「おっ?あれほど図書館を利用している幹事長とは思えないご発言」
(幹事長)「節度ってものがあるわな」


確かに、うちは図書館をフルに利用している。うちの娘なんか、小学生の頃から、市立図書館と県立図書館に毎週行っては10冊づつくらい借りていた。私も毎週のように利用している。
ただ、娘が借りていたのは、物語だった。学年が上がるにつけ借りる図書のタイプは変わっていったが、基本的に新刊書ではなく、古い本だ。私が借りているのは、自然科学分野の本が中心だ。当然ながら、こういうジャンルに新刊本は極端に少なく、古い本ばかりだ。

こういう古い本については、そもそも本屋に置いてないとか、さらには出版社が絶版にしている場合も多いから、図書館が大いに役立つ。しかし図書館は、こういう古い本だけでなく新刊書も継続的に購入し続けている
新刊書の購入が全て悪いとは思わない。分厚くて価格も高い学術書なんかは、自分で買うのは無理なので、図書館にあると助かる。こういう場合は、仮に図書館に無かったとしても、自分で買う可能性は無いので、図書館の購入が出版社を圧迫している可能性は無く、逆に図書館が購入することによって出版社を助けていることになる
しかし、放っておいても本屋で売れるような本を図書館が急いで購入する必要は無いと思う。何も、永久に購入するなと言っているわけではなく、1年の猶予期間が過ぎれば購入OKと言うことなんだから、出版社と図書館の共存共栄に役立つ提案だと思う。

そもそも、最近の図書館の対応には違和感がある。まるで本屋さんのような慇懃無礼な接客をするのだ。以前は、役所の施設は、まるで旧ソ連のように対応が高飛車で不親切だったため批判の対象だったが、その反省から、最近は、役所の施設でも「利用者をお客様と考えろ」なんていう思想が広まってきて、それはそれで結構な事なんだけど、ちょっと行き過ぎっていう感じがする場合もある。「こっちは公共施設を利用させて貰ってるんだから、そっちはそこまで丁寧な対応をする必要はないぞ」なんて思うのだ。特に公立図書館の場合、最近は運営に民間が参入していることもあって、その傾向が強い。香川県立図書館も窓口業務は数年前から宮脇書店が担当しており、やたら丁寧な対応をする。

(石材店)「丁寧に対応してくれるのに、何の文句があるんですか?」
(幹事長)「丁寧な対応は嬉しいんだけど、何となく違和感が拭えない」


こっちが本を貸してもらっているのに「ありがとうございました」なんて言われるのは居心地が悪い。「ありがとうございました」ってのはこっちの台詞だ。
役所の施設とはいえ、仮に図書館の利用者が少なくなってしまえば存在意義が問われ、業務が縮小される可能性はあるので、担当部署としては利用者が増えるのが望ましいんだろう。また行政サービスなんだから、利用者の利便性の向上は重要な視点だろう。
だが、しかし、窓口対応だけでなく、利用者の増加を狙ってベストセラー本の購入を増やすなんて事をしているとすれば、それは本末転倒だろうと言いたい。利用者としたら、ベストセラーだって自分で買うのでなく図書館でタダで借りられたら嬉しいから、それも利用者の利便性の向上ではあるけれど、だけどそのために出版社が経営苦境に陥り、潰れたりしたら、それこそ元も子もない事態だ。単なる民業圧迫って言うだけでなく、文化の根底に関わる問題だ

(2015.11.15)



〜おしまい〜





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