イスラム教徒がロンドン市長に当選

〜 素晴らしい国際化社会 〜



イギリスのロンドン市長選挙があり、労働党のサディク・カーン氏が初当選した。カーン氏はなんとイスラム教徒で、テロや難民危機をきっかけにヨーロッパで高まっている反イスラム感情をはねのけての当選だ。欧米の主要都市でイスラム教徒が首長になったのは初めての快挙だし、さらに言えばロンドン市長に富裕層以外の出身者がなるのも初めてらしい。

カーン氏はパキスタン移民の両親を持つが、本人はロンドン生まれだ。父親は元バス運転手で、8人兄弟の五男として低所得者向け公営住宅で育った。大学では法律を学び、大学講師や弁護士として活動した後、2005年に下院議員に当選した。
ロンドンは移民の町で、イスラム教徒も多いとは言え、人口の12%を占めるに過ぎないので、イスラム教徒だけの支持で当選した訳ではない。むしろ、庶民出身者である事が支持されたようだ。

現在のロンドン市民の最大の関心事は、国内外の大金持ちの投資により、異常なまでに高騰した家の価格や家賃の上昇による住宅危機なんだそうだ。普通の人が家を買う事が不可能になり、アパートを借りるにしても法外な家賃になってきているため、ロンドン市長選でも住宅危機が大きな争点になっていた。カーン氏は住宅価格の高騰対策や公共交通料金の凍結を訴えて選挙戦をリードしていた。

一方、今回の選挙の対立候補は、有名な資産家の御曹司である保守党議員ザック・ゴールドスミス氏だった。保守党の前市長の後継者だったが、資産家ということで人気が伸びてなかった。
そこでゴールドスミス氏が取ったのが、カーン氏がイスラム過激派と結びつきがあることを示す中傷宣伝だった。イスラム過激派によるテロ攻撃で破壊されたロンドン名物の二階建てバスの写真を持ち出し、「テロリストを友達だと思っている労働党にこの世界で最も偉大な都市を引き渡していいのか」なんて訴えた。この下劣な煽動に対し、イスラム教徒だけでなく、ロンドンに不必要な分断を招くものだとして多くの市民が怒り、保守党内からも批判が上がった。それで、もともとカーン氏にリードを許していたのが、さらに追い打ちをかけて大敗したと言うことだ。

それにしてもイギリス人というかロンドン市民の国際感覚には感心するヨーロッパでも中小国はもちろん、ドイツやフランス等でも民族主義者の台頭が著しく、イスラム過激派のテロの頻発によりイスラム教徒に対する反発と差別が激しくなっており、イスラム教徒の市長が誕生するなんて思ってもみなかった。そんな事は気にしないっていうロンドン市民の感覚には本当に脱帽だ。カーン氏も「自分が小さい頃には、自分のようなパキスタン系イギリス人が市長になるとは思わなかった。そのような不可能なことを可能にしてくれたロンドン市民にありがとうといいたい」 と言ってるが、まさにその通りだ。

もちろん、冷静に考えれば、有名な資産家の御曹司と庶民出身者と、どちらが自分に近くて政治姿勢に共感できるかといえば、白人も含めて多くの庶民にとってカーン氏だろう。そうであったとしても、今日、多くの国では過激な主張が通る傾向にある。資産家か庶民派かという以前に、問答無用でイスラム教徒は駄目という風潮が強まっている。アメリカだって気狂いトランプが大資産家であるにもかかわらず無茶苦茶で無責任な発言で貧困白人層の圧倒的な支持を得ている。そういう流れの中で、イスラム教徒かどうかなんて気にもせずに冷静にカーン氏を選ぶんだロンドン市民は、はっきり言って、すごいなあと思う。

(2016.5.9)



〜おしまい〜





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