コンビニ人間

〜 画期的に面白い作品 〜



7月19日に発表された今年の上半期の芥川賞村田沙耶香の「コンビニ人間が受賞した。

毎回、芥川賞の受賞作品は、その直後の文藝春秋に掲載されるから、いつも買っている。受賞作品を掲載した文藝春秋は、とてもお買い得な商品になっている。今回の「コンビニ人間」も単行本なら1404円するが、文藝春秋なら950円で買える。しかも、単行本は本文だけだが、文藝春秋の方は選考委員の論評とか受賞者のインタビューも載っているのが嬉しい。さらに、このお買い得感は、受賞作品が2つある時は2倍になる。2つも掲載されているのにお値段は同じだからだ。例えば金原ひとみの「蛇にピアス」と綿矢りさの「蹴りたい背中」が同時受賞した2003年下期は、非常にお買い得感が強かった。(しかも当時は780円だった)

て事で、今回も文藝春秋を買ってはいたのだが、すぐには読まなかった。なぜなら、あんまり期待してなかったからだ。作者の村田は36歳の独身女性で、一応プロの作家ではあるが、一方でコンビニのアルバイト店員をずうっと続けている。そして「コンビニ人間」の主人公も全く同じ36歳の未婚女性で、大学卒業後も就職せず、18年間ずうっとコンビニのアルバイトをしている。これだけの情報で、「大学を出てもずうっとコンビニでアルバイトしているようなパッとしない女性の日常生活をしみじみと描いた作品」という先入観を持ってしまっていたのだ。なんとなく、つまんなそう。てことで、せっかく買った文藝春秋は1ヵ月以上も机の上に放置されていた。それが、先日、移動時間が長い出張があったもんだから、暇つぶしに持っていって読んだのだ。

読んでビックリ!前半は、主人公のかなり変わった(ちょっと異常な)性格設定に関心は持ちつつも、基本的には「パッとしない女性の日常生活をしみじみと描いている」ように思えた。ところが途中から話は意外というか、予想だにできないトンでもない方向に展開していき、とてもとても面白かった単に予想外なストーリーが面白いというだけでなく、よくよく考えてみれば「なるほど。確かにそうだ」と頷ける部分が多く、そういう意味でも非常に面白かった。選考委員の川上弘美も「主人公の異常性を描写することが『普通』の人に対する批判にもなっている」と評しているが、その通りだ。最後のオチは、とてもつまんなかったが、決してそれまでの作品の価値や流れを台無しにするようなものではなく、単にあっても無くても同じようなつまんないオチだったというだけだ。
とにかく非常に面白い作品だったので、是非みなさんも一読してください。

芥川賞受賞作で言えば、去年上期に受賞した又吉直樹の「火花」も、お笑い芸人が書いたという話題性で大いに盛り上がった。確かに「火花」も面白かった。私はお笑いが大好きで、造詣が深いと自認しているので、よけい面白かった。ただ、面白かったとは言え、あくまでも自分の想像の延長上にあったので、驚きや違和感は無かった。しかし、今回の「コンビニ人間」は驚きの展開で、過去の受賞作の中でも特筆すべき作品だと思う。評論家の小谷野敦氏が「芥川賞史上最高レベルに面白い」と絶賛しているが、私もそう思う。

個人的には、過去の芥川賞受賞作の中で最高だと思うのは、1976年に受賞した村上龍の「限りなく透明に近いブルーだ。これはすごかった。ガーンと頭を殴られたように衝撃的だった。批判も多かったけど、それは理解できない古い頭の人間が批判していたに過ぎなかった。その後の村上龍の活躍を見れば、受賞が正しかった事が分かる。あらゆる点から最高水準の作品だった。それに比べたら、今回の「コンビニ人間」は、そこまで水準の高い作品ではない。そこまで人生観を揺すぶられるような内容ではない。同じ土俵で戦える作品ではない。しかし、面白いという意味では最高水準だと思う。

もちろん、芥川賞受賞作品が常に素晴らしいものとは限らない。一番、腹が立ったのは、2003年度下期の金原ひとみの「蛇にピアス」と綿矢りさの「蹴りたい背中」の2作品同時受賞だ。芥川賞史上最年少の20歳の金原ひとみと19歳の綿矢りさの同時受賞って事で非常に話題性があり、ものすごく盛り上がった。これら2作品が掲載された文藝春秋はお買い得感満載で嬉々として買ったのだが、ヒジョーにつまんなかった。面白くも何ともない。ちっとも衝撃的でも何でもない。あまりにもつまんなくて腹が立った。特に「蹴りたい背中」なんて単に女子高生の日記であり、下らな過ぎた。
さらに遡れば、1969年に受賞した庄司薫の「赤頭巾ちゃん気をつけて」もひどかった。私はまだ小学生だったが、何も知らない小学生でも下らないバカみたいな作品だって思った。よくもまあ、こんな幼稚な作品を恥ずかしくもなく発表できるもんじゃわ、と田舎の小学生でも呆れたもんだ。また、1977年の三田誠広の「僕って何」もひどかった。精神構造の幼稚さを前面に出したような、まことにひ弱な作文だった。
とは言え、掘り出し物も多く、人間の幅を広げるためには、できるだけ読むようにしている。

ところで、上には、受賞作品を掲載した文藝春秋は、とてもお買い得な商品になっていると書いたが、今回、改めて、文藝春秋の隅から隅まで読んでみたが、芥川賞受賞作品関係の記事以外は、まことにつまらなかった。ページ数で言えば、「コンビニ人間」だけなら77ページ、選考委員の論評とか受賞者のインタビューを入れても94ページだが、雑誌全体のページ数は556ページもある。とても分厚い。なので、ものすごくお買い得感を抱いていたのだが、それ以外のページは、まさにクズであり、読むのは時間の浪費だった。目次には「総力特集 天皇「生前退位」の衝撃」とか「超大型企画 戦争を知らない世代に告ぐ 戦前生まれ115人から日本への遺言」なんて仰々しいタイトルが並んでいるが、中身の無い、まるで詐欺のような記事ばかりだった。
文藝春秋社としては、この号は芥川賞受賞作品目当てで買ってくれる人が対象なので、他のページは単にページが埋まれば内容はどうでもいいのだろう。て言うか「今回の号を買う人は最初から他のページには関心も無いだろうから、面白い記事を載せるのはもったいない。面白い記事があったら次の号に掲載しよう」なんて思っているのだろう。そうだとしても、単行本よりは安いので、これからも文藝春秋を買い続ける事になるだろうな。

(2016.9.8)



〜おしまい〜





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