今年もまたまたノーベル賞

〜 驚きは少なくなったけど、やっぱりすごいこと 〜



今年もノーベル賞の季節がやってきた。そして、最初の医学生理学賞でいきなり大隅良典東工大栄誉教授が受賞した
受賞理由は、生物が細胞内でたんぱく質を分解して再利用するオートファジーと呼ばれる現象を分子レベルで解明したことだ。

かつて物理学者を目指していた僕としては、ノーベル賞の基本と言うか自然科学そのものの根幹は物理学であり、個人的にはノーベル賞の中では物理学賞が一番偉大な気がする。自然科学の中でも、最も基礎的な本質を明らかにする学問だからだ。化学賞は過去の実績を見ても物理学賞の応用のように見える。医学・生理学賞になると、さらに応用というか実学に近くなり、私の中での評価は低いが、逆に一般社会への短期的な直接的な貢献度合いは医学・生理学賞、化学賞、物理学賞の順になる。
今回の大隅氏の業績は、医学・生理学賞とは言え、なかなか根源的なテーマだ。近年、オートファジーがヒトの癌や老化の抑制にも関係していることが判明して、疾患の原因解明や治療などの医学的な研究につなげた功績が高く評価されたらしいが、それでもまだまだ直接的な応用は見えにくい。しかし、逆に、こういう本質的な研究の方が私の中での評価は高い。

(石材店)「まあ、幹事長の評価なんて誰も聞いてないですけどね」

これで日本人の受賞は3年連続になった。こんなすごい事は未だかつて無かった。と思いつつ過去の記事を読み返していたら、2000年から2002年の3年間も白川、野依、小柴・田中の4氏が連続受賞していた。それにしても、3年連続受賞は14年ぶりの快挙だ。前回の2000年〜2002年の3年連続受賞の後は、2008年の南部さんを始めとした4人受賞の快挙まで少しブランクが空いたが、それでも2000年以降の17年間で17人目だから立派なものだ。それより前なんて、1990年代が1人、1980年代が2人、1970年代が2人、1960年代が2人と、10年間で2人程度だったんだから、最近の量産ぶりには目を見張る物がある。21世紀に入ってからは、自然科学部門でアメリカに次いで世界第2位の受賞者数となっている

                          日本人ノーベル賞受賞者リスト
受賞年 氏名 出身大学 業績
1949年 湯川秀樹 物理学賞 京都大学理学部 陽子と中性子との間に作用する核力を媒介するものとして、中間子の存在を予言
1965年 朝永振一郎 物理学賞 京都大学理学部 「超多時間理論」と「くりこみ理論」、量子電磁力学分野の基礎的研究
1968年 川端康成 文学賞 東京大学文学部
1973年 江崎玲於奈 物理学賞 東京大学理学部 半導体・超電導体トンネル効果についての研究、エサキダイオードの開発
1974年 佐藤英作 平和賞 東京大学法学部
1981年 福井謙一 化学賞 京都大学工学部 「フロンティア電子軌道理論」を開拓し、化学反応過程に関する理論の発展に貢献
1987年 利根川進 医学生理学賞 京都大学理学部 「多様な抗体遺伝子が体内で再構成される理論」を実証し、遺伝学・免疫学に貢献
1994年 大江健三郎 文学賞 東京大学文学部
2000年 白川英樹 化学賞 東京工業大学理工学部 「伝導性高分子の発見と開発」を行い、分子エレクトロニクスを開発
2001年 野依良治 化学賞 京都大学工学部 「キラル触媒による不斉水素化反応の研究」、有機化合物の合成法発展に寄与
2002年 小柴昌俊 物理学賞 東京大学理学部 素粒子ニュートリノの観測による新しい天文学の開拓
2002年 田中耕一 化学賞 東北大学工学部 生体高分子の同定及び構造解析のための手法の開発
2008年 南部陽一郎 物理学賞 東京大学理学部 素粒子物理学における自発的対称性の破れの発見
2008年 小林誠 物理学賞 名古屋大学理学部 CP対称性の破れの起源の発見による素粒子物理学への貢献
2008年 益川敏英 物理学賞 名古屋大学理学部 CP対称性の破れの起源の発見による素粒子物理学への貢献
2008年 下村脩 化学賞 長崎医科大学薬学部 緑色蛍光タンパク質(GFP)の発見と生命科学への貢献
2010年 鈴木章 化学賞 北海道大学理学部 クロスカップリングの開発
2010年 根岸英一 化学賞 東京大学工学部 クロスカップリングの開発
2012年 山中伸弥 医学生理学賞 神戸大学医学部 様々な細胞に成長できる能力を持つiPS細胞の作製
2014年 赤崎勇 物理学賞 京都大学理学部 高輝度で省電力の白色光源を可能にした青色発光ダイオードの発明
2014年 天野浩 物理学賞 名古屋大学工学部 高輝度で省電力の白色光源を可能にした青色発光ダイオードの発明
2014年 中村修二 物理学賞 徳島大学工学部 高輝度で省電力の白色光源を可能にした青色発光ダイオードの発明
2015年 梶田隆章 物理学賞 埼玉大学理学部 ニュートリノが質量を持つことを示すニュートリノ振動の発見
2015年 大村智 医学生理学賞 山梨大学学芸学部 線虫の寄生によって引き起こされる感染症に対する新たな治療法に関する発見
2016年 大隅良典 医学生理学賞 東京大学教養学部 オートファジーの仕組みの解明

もちろん、これは、日本人の業績が飛躍的に高まったというより、以前は極東のマイナーな国の学者の研究成果はなかなか評価されなかった、というハンディに起因している。言葉のハンディもあれば、人的な交流のハンディもあり、いくら優れた業績でも、世界の中心にはなかなか伝わらず、それを応用というか借用した欧米の学者が脚光を浴びてしまう。これまでは、そもそもの原理は日本人が発見したのに、それを応用発展させた欧米学者が受賞するケースが多かった。或いは、圧倒的に日本人の業績の方が偉大なのに、似たような研究をした欧米学者との共同受賞などが多かった。それが最近は、ノーベル賞の選考委員会が公平でかつ綿密な調査をしてくれるようになったこともあり、日本人受賞者が増えてきたのだろう。

最近、日本人のノーベル賞受賞者が多くなったのは、共同受賞のおかげでもある。2008年の南部、小林、益川の3氏は共同受賞だし、2010年の鈴木、根岸の両氏も共同受賞だし、2014年の赤崎、天野、中村の3氏も共同受賞だ。共同受賞は何も日本人に限ったことではなく、外国人との共同受賞も多く、2012年の山中氏とか、2015年の梶田、大村の両氏もそれぞれ外国人との共同受賞だ。かつての古き良き時代はノーベル賞も単独受賞が多かったが、科学の進展とグローバル化に伴い、あらゆる領域で研究成果は複雑に絡み合い、単独受賞は難しくなってきた。て言うか、1つのテーマで共同受賞は3人までという制約があるため、どの3人を選ぶかが問題になっているほどだ。そういう中で、今回の大隅氏の単独受賞は画期的なことだ。日本人の単独受賞は湯川秀樹、利根川進の両氏に次いで3人目だ。これは大隅氏の研究が、いかに独創的だったかという事の証明だ。(湯川氏は言わずもがなだが、今さらながら利根川氏って偉大だったのね)

僕らが子供の頃って、日本人のノーベル賞受賞者って湯川秀樹博士と朝永振一郎博士しかいなかった。中でも湯川秀樹博士は、日本の物理学会の天才というイメージであり、ノーベル賞なんてアインシュタインとか湯川秀樹博士のような天才でないと受賞できないイメージだった。事実、以前は日本ではノーベル賞を受賞する確率は欧米に比べて極めて少なく、よっぽどすごい業績を上げた偉い学者でないと受賞はできなかった。
ただ、上にも書いたような事情で、日本ではものすごく偉い天才的学者でないとノーベル賞は受賞できなかったけど、欧米の状況を見れば、それは勘違いだと分かる。特にアメリカは受賞者が多い。アメリカは唯一、戦争の被害を被らなかった国として、ダントツの国力を維持し、多くの優れた学者を世界中からかき集め、圧倒的な優位性を築いたからだ。僕がアメリカに留学していた大学にも、ノーベル賞学者は何人もいたし、今年も物理学賞の受賞者が出たが、その大学に限らず、どこの大学にもノーベル賞学者はゴロゴロしていた。その頃、僕は、ノーベル賞学者っていうと、まずは湯川秀樹博士を思い浮かべていたので、そんなにすごい人がゴロゴロしているっていうのが感覚的に理解できず、大きな違和感を抱いていた。しかし、それは勘違いであり、ちょっと優れた人なら誰にでも可能性は転がっている、というのが本当だった。また、大学に限らず、企業の研究者がノーベル賞を受賞するのも珍しいことではない。アメリカに限らず、戦争で日本と同様に痛めつけられたドイツだって、戦後もかなりの数のノーベル賞受賞者を出している。ようやく日本でも受賞ラッシュが続き、努力と運次第で、天才でなくても秀才クラスでも受賞できるんだっていう光が見えてきた。

とは言え、今後も日本のノーベル賞受賞ラッシュが続くかと言えば、決して楽観はできない。政府は2001年に「今後50年間にノーベル賞受賞者30人を輩出する」なんて計画を立てたが、まだ17年しか経ってないのに既に17人も受賞した。しかし、この受賞実績は、決して最近の政府の取り組みによる結果ではなく、何十年も前に色んなところの研究者が独自に地道に進めてきた研究成果が花開いているだけだ。2000年以降、ノーベル賞を受賞した17人の研究業績を見ると、1960年代の研究成果が2件、1970年代が5件、1980年代が4件、1990年代以降が4件で、いずれも2000年以前の研究成果だ。もちろん、これは何も日本に限った事ではなく、ノーベル賞の受賞対象業績の大半は何十年も前のものだが、最近、日本人の受賞が増えたのは何十年も前に優秀な業績が多く出されたからだ
ノーベル賞を受賞するような業績を上げるためには、独創性が大切だ。過去の日本には独創的な研究を地道にやっていける環境があったから、立派な研究成果が多く出されており、そういう過去の遺産を食いつぶしていきながら、当面はノーベル賞受賞が続くかもしれない。だが、今後の長期展望を見ると、楽観できないどころか、悲観的にすらなってしまう。国の財政悪化に伴い、大学に出されるお金は年々削減が続けられており、自分の研究費は自分で調達しろという風潮も強くなっている。しかし、企業との共同研究で金を取ってくるためには、何十年もかかるような基礎研究ではなくて、短期的に成果が出るような実用案件の研究に偏ってしまう。これではノーベル賞に値するような研究業績は出てこなくなるだろう。今回受賞した大隅氏も「私の研究は20年前に始めた研究の成果。ノーベル賞学者が日本で毎年出ているなんて浮かれている場合ではない。競争が激化するほど新しいことへのチャレンジが難しくなる。必ず成果で論文になることしかできず、長期的な展望で5年かかるような研究をしてみようというのが続かなくなる」と言い、国の研究支援が競争的資金中心になって、短期的成果を求める方向にに強まっていることに懸念を示している。

日本は科学技術立国で生きるしか道が無い国なんだから、高齢者に無駄につぎ込んでいる医療費や怠けてばかりの奴らに支給している生活保護費なんかを大幅に削減して、研究開発に予算をつぎ込んで欲しい



ところで、こんな素晴らしいニュースなのに、「残念ながら今年のノーベル医学生理学賞は大隅氏が受賞しました」なんて放送したローカルテレビ局がある。RNC西日本放送だ。RNCは高松に本社があり、香川県と岡山県の両方をエリアにしている。そして、岡山県出身の森京都大学教授が今年のノーベル医学生理学賞の有力候補だったらしく、ノーベル医学生理学賞の発表の直前のローカルニュースで、受賞の知らせを待ちわびる地元の様子を放映していた。公民館みたいな場所で、両親やら地元議員やらが集まって祝賀会の準備をしていた。そんな様子を放映したもんだから、大隅氏が受賞したっていうニュースを悲しい顔をして伝えざるを得なかったのだ。ま、ローカルなニュースなので仕方ないんだろうけど、珍しい事態だった。

(石材店)「受賞するかしないかで天と地の差が出ますからねえ」
(幹事長)「大隅氏にしても今まで全然知らなかったもんなあ」


(2016.10.6)



〜おしまい〜





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