カタルーニャ独立問題

〜 独立は無謀だ 〜



カタルーニャ情勢緊迫化している。
スペイン北東部のカタルーニャ州において、カタルーニャ州政府がスペイン政府を始め周辺国の大反対を押し切って、10月1日に独立の是非を問う住民投票を実施したからだ。予想通り、住民投票では独立賛成派が圧勝したが、住民投票を認めないスペイン政府がカタルーニャ州の自治権を停止すると発表し、今後は予断を許さない。

(石材店)「デジャブですかっ!? 前回の記事「クルド独立問題」と全く同じ書き出しですが!」
(幹事長)「ただでさえ衆議院選挙で興奮状態なのに、こんな楽しい事件が続発すると狂喜乱舞じゃ!」



〜 カタルーニャ人とは 〜

そもそもカタルーニャ問題とは何か。大半の日本人は関心が薄いだろうが、国際紛争オタクの私は、大昔からカタルーニャ問題には興味津々だった。
文化的にも民族的もほぼ単一民族の日本と違い、スペインは少数民族を抱えており、カタルーニャは独自の歴史や文化や言語を持っている。今回独立騒ぎを起こしているのは狭義のカタルーニャであるカタルーニャ自治州のことで、首都はバルセロナだ。
しかし、カタルーニャ語文化圏という意味で言えばカタルーニャ州にとどまらず、バレンシアやマヨルカ島やフランス領北カタルーニャなども含まれる。中世には、この大カタルーニャは隣国アラゴンと合併してカタルーニャ・アラゴン連合王国となり、地中海の大海洋帝国としてジェノバなどと覇権を争った。その後、中世の絶頂期が終わると勢力は衰え、スペインの中に組み込まれていき、スペイン内戦後に成立したフランコ独裁政権からは厳しく弾圧された。これはカタルーニャがスペイン内戦中にフランコの敵側についたからであり、カタルーニャ語の使用が禁止されるなど、民族のアイデンティティーを象徴するものはすべて葬り去られた。
フランコの死後は、スペインが民主化する中でカタルーニャも自治を回復しカタルーニャ語も復権することができた。ただし、なにもカタルーニャ州だけが特別に自治権を得たのではなく、スペインは憲法で自治州制が採用され、地方分権化が進んだという事だ。ただ、連邦国家という訳でもなく、カタルーニャ州政府は自治権が十分ではないと主張している。

スペインの周辺国として、似たような境遇のポルトガルが独立国になった一方でカタルーニャ地方がスペインに組み込まれたのは、ま、単なる運命に過ぎない。なぜかクウェートがイラクから独立しているのも同じようなものだ。ポルトガルとカタルーニャとどちらがスペイン本流に近いかと言えば、むしろポルトガルの方が近いかも知れない。
言語を見ても、カタルーニャ語はマドリッドで話されているスペイン語よりも、むしろフランス語に近いという説もあるくらいだ。ただし、カタルーニャ語はスペイン語とは違う、なんて言ったところで、所詮はスペイン語やポルトガル語、さらにはイタリア語やフランス語とも兄弟みたいなもので、日本国内の方言に比べても差は少なく、偉そうに独自の言語と胸を張って言えるような言語ではない。私が青森勤務時代に地元のおっさんと離した時、99%何を言ってるのか理解できなかったのに比べたら、スペイン語やイタリア語なんて同じようなものだ。

カタルーニャに比べたら、やはり独立運動が続いているバスク地方の方が差は大きい。バスク語はスペイン語の方言という範疇には入らないくらい差があるらしく、他の言語とも共通性が無いと言われている。どこか別の遠い地方から流れてきたんだろうか。そのため、バスク地方の独立運動は生やさしいものではなく、長年「バスク祖国と自由」(ETA)という過激派が独立を求めて反政府テロを繰り返してきている。バスクやクルドに比べたら、カタルーニャ地方の独立運動なんて所詮はおままごとだ。


〜 最近の動き 〜

歴史的に見て、潜在的にスペインとは別の国だとの意識があったカタルーニャだが、かつてはそれほど独立志向が高い土地ではなかった。伝統的に商業の民であるカタルーニャ人は現実的で、ヘタに独立しようなどとは考えなかった。近年、独立志向の動きが高まってきた大きな理由は経済問題だカタルーニャ州が税金としてスペイン中央政府に納める金額と中央政府から還元される金額に大きな隔たりがあると言うことだ。

カタルーニャは州都バルセロナを中心として世界的に超人気の観光地であるが、それだけでなくカタルーニャ人が勤勉なことや地理的条件などから外国企業が多く進出して製造業も発展しており、スペインのGDPの20%を稼ぎ出すなど、スペインでも最も豊かな地域の一つだ。そのため中央政府に多額の税金を納めているが、当然ながら分配金はそれより少ない。景気がいい時ならまだ我慢できるが、若年層の失業率が5割に達しようという今の経済状況下では黙っていられなくて、自分たちの税金が生産性の低い地域で浪費されているとして強い不満を持っているのだ。「無能な中央政府のせいで、どうして自分たちの生活が苦しくなるのか。自分たちだけでやれば、もっとうまくいくのに」と思っているのだ。自分勝手で我が儘な主張と言えよう。
そもそも税金の配分システムはあらゆる国で同じような構造になっている富める地域から貧しい地域への所得移転は国家の均衡ある発展には欠かせない政策である。それなのに、富める地域の人々はとても自分勝手な感情を持ち、不公平だと騒ぐ。北イタリア地方にも同様な発想で独立志向の「北部同盟」がいる。国の中の税金配分だけではない。EUの内部でも同じだ。EU内部での所得移転に対し、富める国の国民は不公平だと騒ぐ。確かに、ギリシャの怠け者のために税金を恵んでやるのが腹立たしいっていう気持ちは分かるが、総合的に考えれば、ギリシャをEUから追放するよりは、幾ばくかの税金を恵んでやる方がお互いの利益にはなるんだけど。

このような不満を背景に、カタルーニャ地方では独立を支持する人たちが徐々に増えていき、かつては20%程度だった独立派の割合が、最近は半分を超えるようになったのだ。


〜 住民投票と中央政府の反発 〜

このような流れの中で、カタルーニャ州政府は独立の是非を問う住民投票を行う意向を表明し、もし賛成多数となれば48時間以内に独立を宣言すると発表した
これに対して中央政府の憲法裁判所からは中止命令が出され、中央政府は独立宣言をすれば憲法に基づいて自治権を停止すると脅した。また、住民投票を断固として阻止しようとし、投票にかかわる公務員の逮捕やら投票箱の押収、ホームページへのアクセス阻止といった実力措置を講じ、さらにカタルーニャ自治警察に対し投票所を封鎖して立ち入り禁止にするよう指示した。
しかしながら、中央政府の妨害にもかかわらずカタルーニャ州政府は住民投票を強行し、住民に同情的なカタルーニャ自治警察が消極的な規制しかしなかったこともあり、閉鎖された投票所は少なく、なんとか住民投票は実施された。一部では治安警察との衝突で負傷者も出たようだが、大混乱にはならなかった。そして、賛成が9割に達する圧勝となった。ただし、投票率は僅か4割だったので、正当性には疑問符が付く。たいていの場合、住民投票ってのは賛成の人しか投票に行かないから、投票率は低く、そして結果は圧勝になりがちだ。

投票率は過半数にも満たなかったが、カタルーニャ州政府は勝利宣言を出し、カタルーニャ独立宣言に署名した。しかし、独立宣言そのものは保留とした中央政府と決定的な敵対関係になるのを避けて「独立宣言を行っていない」という見解を表明したのだ。しかし、独立宣言に署名しておきながら独立宣言はしていない、ってのは分かりにくい。
そのため、中央政府は「法秩序の回復をはかる憲法155条の発動に向けて臨時閣議を開く」との声明を出した。これでカタルーニャ州の自治停止などの措置を決める可能性が高まっている
これに対し、カタルーニャ州政府は、中央政府が自治権を停止するなら独立宣言を行う可能性があると牽制している。自分が曖昧な態度を取っているくせに「よく言うわ」って感じだ。
スペイン国王フェリペ6世もテレビ演説で「住民投票を強行したカタルーニャ州政府の行動は、スペインとカタルーニャの政治、経済的な安定を危険にさらしかねない」と厳しく批判した。


〜 鈍い各国の対応 〜

カタルーニャ州の独立の動きに対し、周辺のヨーロッパ各国の反応は鈍い。カタルーニャ州政府としては、EUに中央政府との仲裁をして欲しそうなんだけど、EUには仲裁する気などサラサラ無いようだ。欧州委員会は、今回の問題はあくまでもスペインの内部事情であるとして、仲裁を拒否している。投票日の翌日になってようやく欧州委員会は、すべての関係者に対話を通した解決をするよう呼びかけたが、「スペインの憲法を鑑みれば、昨日のカタルーニャの投票は合法ではなかった」なんて見解を示した。つまりEUとしてはカタルーニャ州の独立は容認できないって事だ。

なぜなら、ヨーロッパにはイギリスのスコットランドや北アイルランド、ベルギーやオランダにまたがるフランドル地方など独立運動のある地域が数多くあるからだ。日本は適度に小さい島国だったため、自然発生的に単一民族国家として平穏にやってきたが、ヨーロッパを始めとする大陸では、ダイナミックに多くの民族の興亡が続き、色んな国が勃興しては衰退を繰り返してきたため、本来の民族と現在の国家は必ずしも一致しない。なので、1つの地域の独立を認めたら、あっちこっちで我も我もと同じような独立運動が盛り上がって収拾が付かなくなるからだ。

ロヒンギャ問題とかクルド問題のような、ヨーロッパ各国による力づくの植民地政策と勝手な線引きによる人工国家捏造による問題に対しては、ヨーロッパ各国が責任を持って解決しなければならないが、ヨーロッパ内での独立運動については、解決は難しい。


〜 非現実的な独立 〜

はっきり言って、カタルーニャ地方の独立は非現実的だ。独立する意味が無い。独立しても良い事なんて無い。独立賛成派は完全に勘違いしている。

(石材店)「おや?クルド人は独立して国を持つべきだと言ってたのにカタルーニャには冷たいですね」
(幹事長)「クルド人は悲劇の民だけど、自分勝手で視野の狭いカタルーニャには同情しないぞ」


上に書いたように「自分たちのお金が税金として巻き上げられる一方で配分される利益が少ない」というひがみ根性は分かるが、もし独立したらトータルで利益は減るだろう中央政府に吸い取られる税金は無くなるだろうけど、それでは足りないくらいの不利益を被るのは間違いない
なぜならカタルーニャ地方が独立したらEUにはとどまれないからだ。そもそもEUに加盟するためにはスペインを含む全加盟国の同意が必要だが、スペインが承認する可能性は完全に0%だ。また上にも書いたように、スペインの他にも国内に潜在的に独立志向を持つ地域を抱えた国が多いため、カタルーニャ地方が独立しても承認する国はほとんど無いだろう。EUから外れると関税などで不利益を被るし、ユーロ圏からも外れるだろう。現在、カタルーニャ地方の経済はスペイン国内のほかEU諸国との結びつきで成り立っているが、スペインから離れてEUからも閉め出されたら息の根は止まるだろう
て言うか、そもそも今の経済的地位はスペインの一部だからこそ享受できているのであって、スペインから離れて弱小国に成り下がってもバラ色の未来があるだろうなんて楽観視してはいけない。独立賛成派は現在の経済情勢が好調だから何とかやっていけるだろうと根拠のない希望的観測を持っているのだろうけど、勘違いも甚だしい。

ヨーロッパは現在、国という枠組みをなるべく低くしてEUとしてまとまろうとしている。想像を絶するほど愚かなイギリス国民はEU離脱なんてあり得ない選択をしてしまったが、すぐに絶望的な後悔をするのは明らかだ。カタルーニャ地方の独立賛成派は、その辺りを冷静に考えて行動すべきだろう。
イギリスから多くの企業がEU諸国に拠点を移しているように、カタルーニャ地方からも既に銀行や電力、通信などの大手企業が州外に本社登記を移し始めている。これらの動きが出始めてからは、独立反対派の大規模なデモも発生しており、そんな状況では独立は不可能だろう。

(2017.10.21)



〜おしまい〜





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