トランプ大統領がエルサレムを首都と認定

〜 マスコミ報道に騙されてはいけない 〜



アメリカのトランプ大統領が「エルサレムイスラエルの首都認定する」と宣言した。
イスラエルは従来からエルサレムを首都として位置づけており、実際に政府、議会、最高裁がエルサレムに置かれ、名前だけでなく実質的にもイスラエルの首都として機能を果たしている。でも国際社会はこれを認めず、エルサレムに大使館を置いている国は1つも無い全ての国は大使館をテルアビブに置いている。もちろん、アメリカ大使館もテルアビブにある。

エルサレムはユダヤ教、イスラム教、キリスト教のいずれにとっても聖地であり、そのためエルサレムを巡って、長年、争いが繰り返されてきた。このため、国連をはじめ各国は、エルサレムをイスラエルの首都と認めてこなかった。エルサレム問題はイスラエルとパレスチナの対立の核心であり、和平交渉を阻害することになると考えられていたからだ。だが、トランプ大統領はそうした世界の常識を気にせず、大きな政策変更を決めたのだ。

これに対し、まず国連安全保障理事会エルサレム首都認定撤回を求める決議案を採決した。この決議案について、中国やロシアはもちろん、アメリカの西側同盟国であるイギリスやフランス、さらに非常任理事国の日本も含め、アメリカ以外の14ヵ国の全てが賛成した。しかし、当然のことながらアメリカが拒否権を行使して否決された
そして、今度は国連総会の場で、「トランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都に認定した決定は無効」とする決議を諮った。国連総会での決議は、何の法的拘束力も無いが、常任理事国に拒否権がある安全保障理事会と違って、賛成が多数になれば決議される
アメリカはこの決議案に対し、「賛成票を投じた国には金融支援を打ち切る」なんていう前代未聞の露骨な脅しをかけたが、結局は賛成多数で採択された。とは言え、露骨な脅しが功を奏し、国連加盟国193ヵ国のうち賛成票を投じたのは2/3の128ヵ国にとどまり9ヵ国が反対票、35ヵ国が棄権、21ヵ国が欠席した。さすがに反対したのはアメリカとイスラエルのほかは、中米や太平洋の弱小国ばかりだが、棄権したのはオーストラリア、カナダ、メキシコ、アルゼンチンなどの有力国や、チェコ、ハンガリー、ポーランドと言ったヨーロッパ諸国も含まれる。さらに色んな地域の国が欠席している。
その一方で、ヨーロッパの主要国や日本、韓国などは賛成に回った。つまり、同じ西側同盟国でも、自分だけでも独り立ちしてやっていける国は賛成し、アメリカに楯突いたら即、国の存亡に関わる国は棄権に回ったという状況だ。どちらも嫌々ながら態度を決めなければならないから、気の毒なもんだ。
中には、グアテマラのように、決議に反対するだけでなく、自らの大使館をエルサレムに移すと方針を打ち出した国もある。貧困問題を抱えるグアテマラにとってアメリカは重要な援助提供国だからだが、付き合わされて、本当に気の毒だ。

このような国際的に反発は容易に予想された事だが、それにもかかわらず、なぜトランプ大統領は敢えて騒ぎを起こしたのか。それは単なる選挙対策だ。国際情勢なんかまるで配慮なんかせず、単に国内の選挙を乗り切るためだ。彼は既に次の大統領選挙に向けて選挙運動をしているのだ。
まずは、2016年の大統領選挙での公約を果たさなければならない。ところが、これまでに実現できたのは、TPPからの離脱やパリ協定からの離脱などだけで、オバマケアの撤廃やメキシコとの国境の壁建設などは見通しが立っていない。でも、イスラエルの首都をエルサレムと認定するなんてのは、実現がとても簡単な公約であり、大統領の一存で可能だ。大使館をエルサレムに移すというのはトランプ氏の選挙公約だったのだ。もちろん、本当は、国際的な反発や中東問題の今後を考えたら、とてもとても難しい事案だが、そんな事には一向にお構いなしのトランプ大統領にとっては、自分が言うだけで実現する、すごく簡単な事だ

なぜ、こんな、しょうもない事案を選挙公約にしていたのかと言えば、彼の支持基盤であるユダヤ系アメリカ人やキリスト教原理主義者に対する配慮だ。誰もが知ってるように、アメリカには資金力があり政治に大きな影響力を持つユダヤロビーが存在する。彼らは、アメリカの大統領がイスラエル寄りの方針を取るように働きかけており、ユダヤロビーの歓心が得られれば、次の選挙で多額の政治献金が期待できる。また、娘のイバンカの夫であるクシュナー大統領上級顧問はユダヤ人だし、そのためイバンカもユダヤ教徒に改宗している。
また、私はキリスト教に詳しくないし詳しくなりたいとも思わないが、キリスト教原理主義者は、聖書に基づき、神はエルサレムをユダヤ人に与えると考えており、エルサレムをイスラエルの首都として承認することを求めているようだ。

ただ、今回のトランプ大統領のアホな方針に対し、やはりアホなマスコミどもは非難の大合唱だ。別に非難するのは勝手だが、トンチンカンな論評が多くて困る。何も知らないと騙されてしまうからだ。
アホなマスコミどもは、今回の方針により「これまで親米だったサウジアラビアやエジプトなどの中東諸国が一斉に反米になるだろう」なんて浅はかな予想をしている。これは予想と言うより願望だろうけど、頭が悪くて辟易してしまう。中東情勢はそんな単純なものではない
現実には、多くのアラブ諸国でパレスチナ問題の優先度は下がっている。シリアやイラク、イエメン、リビアなどは、内戦などによる混乱で自国が存亡の危機にあり、パレスチナ問題どころではない。また、サウジアラビアなどの湾岸諸国にとって最も差し迫った課題は、過激派対策やイランの地域覇権拡大阻止だ。サウジなどは、対イラン包囲網を形成するために、外交関係のないイスラエルと水面下で関係構築を進めていると言われる。サウジにとって最大の敵はイランであり、イスラエルではないのだ。サウジやアラブ首長国連邦などはトランプ政権と親密な関係を保っており、あまり表だって批判したくないという事情もある。実際、トランプ大統領は、今回の発表に先立ってサウジのサルマン国王に電話しているし、トランプ氏の娘婿むこであるクシュナー大統領上級顧問は同国王の息子であるムハンマド皇太子と密に連絡を取っていると言われる。つまり、エルサレムをイスラエルの首都と認め、米大使館をエルサレムに移しても、アラブ諸国政府からはそれほど強い反発は出てこないし、仮に民衆レベルで感情的な反発が起きても政府が抑えてくれるので、短期的に収束するだろう。
パレスチナ住民によるインティファーダ(民衆蜂起)を予測もしくは期待する向きもあるが、実際には大規模なインティファーダは起きないだろう。なぜなら、今回の事案は、トランプ大統領が口先で言っただけのことであり、エルサレムの実態は何の変わりも無いからだ。本当にアメリカが大使館をエルサレムに移すのかと言えば、そんな事はない。ティラーソン米国務長官が「様々な手続きが必要で、少なくとも年単位の時間がかかる」と言ってるように、実際の大使館移転はトランプ大統領が大統領の間には無理だろうトランプ大統領だって、実際に大使館を移転するつもりなんて毛頭無いだろう。彼の性格からして、手間暇のかかることを着実にやるとは思えない。単に口先で実現できる公約を実行しようとしただけの話だ。

また、アホなマスコミは「アメリカが世界を敵に回した」なんていう甘い論評をしているが、そんな事は決してない。国連総会での議決なんて、何の役にも立たない。屁の突っ張りにもならない。日本だって捕鯨とかでいくらでも世界中を敵に回してるが、どうって事はない。
ヘイリー米国連大使は採決に先立ち、「主権国家として権利を行使したことを巡り国連総会から攻撃を受けた日として、米国がこの日を忘れることはないだろう」なんて厚顔無恥なコメントを平気で述べたが、実はアメリカの共和党は、歴史的に国際社会からの孤立を党是としている。共和党は、第一次世界大戦にも第二次世界大戦にも参戦に反対したし、第一次世界大戦後には国際連盟への加入も阻止した。アメリカの国連軽視は今に始まったことではない。「国際社会で孤立してしまって大変な事になった」なんていう感覚はアメリカ国民には無く、むしろ「偽善的な国連の中でアメリカが堂々と戦った」くらいの印象だろう。日本国民が、国際的な反捕鯨の大合唱に対して独り立ち向かって戦う日本政府の姿勢に大喝采を送っているのと同じだ。まあ、アホなマスコミだけは捕鯨に対しても批判的だが。

そして、アホなマスコミの最も重大な犯罪は、今回のトランプ大統領の決定は、何もトランプ大統領の一存でやった事ではない、という事実を知ってか知らずか、ほとんど報道しないことだ。今回、トランプ大統領が口先で「エルサレムをイスラエルの首都と認定する」って言ったのは、彼のオリジナルな発想ではない。実はアメリカの国会が1995年に「アメリカ大使館をエルサレムに移転する法案」を可決したのだ。これは大統領の意志ではなく、国会の意志なのだ。つまりアメリカ国民の代表の意志なのだ。それに対して歴代の大統領は、事を荒立てたくないから、大使館移転を6か月間延期する大統領令を出してきたのだ。これまで22年間も半年ごとに同じ大統領令を繰り返し出してきたのだ。それを今回、トランプ大統領が初めて法案に従う意志を示した訳だ。つまり、国会が議決した事に従うと宣言したものだ。つまり、これはトランプ大統領の思いつきではなく、アメリカ国民の代表であるアメリカの国会の意志を尊重しただけの話だ。つまり、アメリカとは、そういう国なのだ。
ただ、上にも書いたように、トランプ大統領は本当に大使館を移転するつもりなんて毛頭無いから、「エルサレムをイスラエルの首都と認定する」なんて言いながら、その直後に、再び大使館移転を6か月間延期する大統領令に署名している。つまり、これまでと何ら変わった事はないのだ。ただ単にトランプ大統領が選挙対策で宣言を行い、それに対して色んな勢力が批判しているというだけの下らない話だ。
それを、さも重大な事が起きたような報道を繰り返すアホなマスコミに、我々は決して踊らされてはならない。

(2017.12.26)



〜おしまい〜





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