日本代表 決勝トーナメント進出

〜 ボール回しにブーイングの嵐 〜



ロシアで開催されているサッカーワールドカップで、日本は2大会ぶり3度目の決勝トーナメント進出を決めた。誠に喜ばしい限りだ。

この日の試合は、グループHの第3戦で、ここまで2連敗で早々にグループリーグ敗退が決まっているポーランドとの試合だった。日本はここまで1勝1分で、このポーランド戦に勝つか引き分けるかで決勝トーナメント進出が決まるという有利な状況だった。しかしポーランドは2連敗してしまったとは言え、世界ランキング8位で、グループHでは最高位の強豪国だ。いくらグループリーグ敗退が決まっているからと言って、そうやすやすと勝てる相手ではない。むしろ、3連敗では恥ずかしくて国へ帰れないので、ムキになってかかってくる可能性もある。同じように早々と敗退が決まっていた韓国が、最終戦でドイツを破り、前回の優勝国ドイツをグループリーグ敗退の道連れにした実績もある。

て事で、最初から決して油断はできない試合だったが、なぜか西野監督は1戦目、2戦目から先発を6人も入れ替えて臨んだ。長谷部も香川も大迫も乾もいない、控え選手主体の先発となったのだ。この意図は分からない。先発陣に疲労が溜まっていたのかもしれないが、ちょっと不可解だ。結果的に、この新しい布陣は全く機能せずに試合に負けたんだから、失敗は明らかだろう。逆に、1戦目、2戦目で致命的なミスをして失点を重ねた川島は相変わらず使い続けた。これもまことに不可解だ。

ま、それは良いとして、恐れていたとおり、日本はなかなか先取点が奪えない中、逆にポーランドに先取点を許してしまった。いくら点が取れなくても0対0で引き分ければ決勝トーナメントに進出できるんだけど、負けてしまったら状況はややこしくなる。同時進行で行われているコロンビア対セネガルでセネガルが勝てば日本はポーランドに負けても決勝トーナメントに進出できるが、コロンビアとセネガルが引き分けてしまえば、日本は敗退する。そしてコロンビアが勝ったら、日本とセネガルとの得失点差などの争いとなる
取りあえず、日本はせめて同点に追いついて引き分けなければならない状況となり、なんとか頑張ったが、なかなか得点できそうにない。前半の方がむしろ得点できそうなシーンが多かったが、ポーランドが先取点をとった後は守りを固めたこともあり、終盤は得点できそうな雰囲気が無くなった。
そうこうしていると、コロンビアが先取点を取ってしまった。こうなるとセネガルとの微妙な争いとなるが、そのまま日本が0対1で負け、セネガルも0対1で負けると、勝ち点も得失点差も総得点も直接対決の結果も全て同じになるので、イエローカードやレッドカードの数で算出したフェアプレーポイント数の少ない日本の決勝トーナメント進出が決まる。イエローカードやレッドカードの差で決着するなんてルールは前代未聞だし、ルールを作った人も、まさかそういう事が現実に起きるとは思ってなかったんだろう。もしフェアプレーポイント数までもが同じだった場合は抽選で決めるとのことだから、最初から真面目には想定していなかったのだろう。

こういう微妙な状況で日本が取った戦略は、当然ながら、そのまま状況を変えない事だ。そのまま2つの試合の得点が動かなければ、日本が決勝トーナメントに進出できるからだ。これ以上、失点さえしなければ、負けてもいいのだ。下手に攻めていったら守りが薄くなり、逆襲されるリスクが出てくる。なので、日本はもう攻め上がる事をせず、ひたすら自陣でのボール回しに専念した。そしてポーランドも同じように攻めてくることを止めてしまった。そもそもポーランドは早々に予選敗退が決まっているのに、この最終戦でむやみに頑張ったのは、せめて1勝くらいはしたいからだ。1勝すれば1点取って勝とうが2点取って勝とうが関係はない。もう1点追加する必要性は無い。むしろ、点を取りに行って逆襲されて同点に追いつかれる方が避けたい。その意味で、状況は日本もポーランドも似たようなものとなったどちらも失点を防ぐのが最優先となり、攻めていく必要性が無くなったのだ。て事で、日本もポーランドもひたすら自陣でボールを回すだけで、全然、攻めていこうとしない。そういうのが10分ほど続き、結局、そのまま0対1で日本が負けた。そしてコロンビア対セネガル戦も0対1でセネガルが負けたため、日本の決勝トーナメント進出とセネガルのグループリーグ敗退が決まった。まことに喜ばしい結果だ。

ところが、この日本とポーランドのボール回し戦略に対して批判が巻き起こった。ポーランドは勝っているから、そういう状況でボール回しするのはよくあることで、大きな批判にはさらされていないが、日本は負けているのにボール回しして時間を潰すという珍しい事をしたため、批判にさらされているのだ。試合会場でも大ブーイングがわき起こった。
確かに、第三者にとっては不可解でつまらない試合になっただろう。せっかく見に行ったのに消化試合をされては憤懣やるかたないだろう。
しかし、日本のサポーターからもブーイングが沸き凝ったというのが理解できない。全く理解できない。
主な批判は次のようなものだ。

サッカーじゃなかった
 → あれがサッカーじゃないと思ったのなら、あまりにもサッカーを知らなすぎる。もうサッカーなんて見るのを止めたらいいじゃん。

日本にサッカー文化は根付かない

 → 日本もようやくこういう試合巧者なことができるようになったんだよ。

不正が無いように同時に試合をしている意味がない

 → そうか?もう1つの試合経緯も睨みながら、こんなギリギリのエキサイティングな試合運びはなかなか無いぞ。

本当のサッカー強国はそんなことはしない。あくまでも最後まで点を取りに行き、力でねじ伏せ、困難が来ても自力で突破する

 → 全くその通り。でも日本はサッカー強国ではない。世界ランキング61位の弱小国だ。現実を見ないで理想論を語るのは、あまりにも非現実的過ぎる。て言うか、世界ランキング1位のドイツだってグループリーグ敗退したくらいだから、そんなに簡単に点は取れないよ。

二度と侍なんて言わないで欲しい

 → 侍は、勝つ見込みが無くてもアホみたいに攻め上がるのか?侍をバカにしてないか?

スポーツマンシップのかけらもない

 → 勝つ見込みが無くてもアホみたいに攻め上がるのがスポーツマンシップなのか?そんな浅はかなスポーツマンシップは不要だろう。

南米だったら物が飛んでる
 → オウンゴールしたら殺される南米の方が良いと言うのだろうか?

ロシアの日本ファンが減る
 → 一体誰がロシアの日本ファンの事を考慮して試合してるんだ?親善試合じゃないだろ?

子どもに夢を語れない
 → 子どもに現実世界で生きていく術を教える絶好の機会じゃないか。

余りにも消極的な試合運びだと批判されているが、ボール回しは決して消極的な試合運びではない。もし、こちらの試合では狙った通りうまくそのまま試合を終了できたとしても、あちらの試合でセネガルが1点取って追いついたりしたらセネガルが決勝トーナメントに進出し、日本は敗退してしまう。なので、これは大きな賭だ。決して安易な選択ではない。大きなリスクを抱えたギリギリの守りの戦術だ
コロンビアが首位通過を狙って守りを固めるから、セネガルが点を取り返す可能性は低いと日本は冷静に分析して、腹をくくったわけだ。
一方、日本は後半になって点を取れそうな感じが無くなったから、日本がアホみたいに攻めていってカウンターをくらって2点目を入れられそうな雰囲気はあったから、確率的には正しい戦略だったと言えよう
この試合で終始控えだった本田は「僕が監督でも、この采配はできなかった。結果がすべてなので、西野さんはすごいなと思った」と感嘆している。

そりゃあ、何も考えずにアホみたいに攻めて行った方が楽だろう。でも、アホみたいに攻めて行って逆襲をくらって追加点を取られたら、それで全てが終わってしまう。それでも良いのか?と問いたい。「それでもいい、その方がスッキリして良い」なんて言うのは、とても自分勝手な人たちだろう。当事者達が、どれだけ必死で勝ち上がろうと努力しているのか全く考えていない人たちだろう。第三者が言うのは分かる。でも、半分当事者の日本のサポーターが言うのは理解できない。決勝トーナメント進出が決まったから安心して批判しているけど、日本がアホみたいに攻めていって逆襲を食らって2点目を取られてグループリーグ敗退してたら、手のひらを返したように批判していただろう。
そのまま試合を流して終わらせていればワールドカップ初出場が決まるはずだった試合でアホみたいに最後まで追加点を取りに行って逆襲をくらい、ワールドカップに出場できなかったドーハの悲劇を忘れたんだろうか。もし忘れているのだとしたら、それは重度の認知症だ。それとも25年間の事だから若い人は知らないのか?もしそうなら、少しは過去を勉強してから応援しろと言いたい。

最優先されるべき目標は勝ち進む事だ。きれいな試合をする事ではない。「勝てば何してもいいのか?」と言われれば、「その通り。何をしてでも勝てば良い」と思う。なぜ、そんな簡単な事が分からないんだろう。
ワールドカップが始まる前は、日本が決勝トーナメントに進出できる可能性は限りなく低いと見られ、全然期待されていなかった。それが初戦のコロンビア戦で勝ち、次のセネガル戦でも厳しい戦いを引き分けに持ち込んだもんだから、急にみんな手のひらを返したように期待し、強気になった
しかし、コロンビア戦はめちゃラッキーな展開だった。最初の得点のPKは納得できる。コロンビア選手のハンドは明らかだったからだ。でも、あれで一発退場は無いだろう。どう考えても意図的ではないだろうし、一発退場になるような悪質なものではなかった。試合早々の一発退場により、コロンビアは終始10人での戦いとなり、消耗が激しかった。これが大きな要因となって日本が勝ったと言える。ちなみに、主審も、あの一発退場はやり過ぎだと思ったようで、そのバランスを取るために日本が失点した場面のFKをコロンビアに与えた。あれはどう見ても長谷部のファールではなくて、むしろ相手のファールだ。こういうバランスの取り方はサッカーの審判では珍しいことではない。なので、あのFKによる失点と最初のPKの得点でチャラだ。でも、一発退場はオマケでラッキーだった。
次のセネガル戦の引き分けは、2回も追いついたという事で高い評価をされているが、引き分けは引き分けだ。特に日本が強くなったとも言えない。

今回のボール回しは最後の10分間だけの行為であり、それまでは普通に全力で点を取りに行っていたが、どうしても取れなかったものだ。わざと負けたのではなく、後半は取れそうな気配すら無くなっていたものだ。あのままアホみたいに攻めていっても、得点できる可能性は低く、逆に失点する可能性の方が高かった
そもそも、今回の戦略はルール違反でも何でもない。批判している人たちは、甲子園で松井秀喜が5打席連続敬遠された時に批判していた人たちと同じだろう。敬遠はルール上許されているのに、なぜ批判されなければならないんだ。結果的に明徳義塾は試合に勝ったんだから、監督の名采配と評価されても良いと思うんだけど、なぜか批判の嵐にさらされた。批判するのなら、ルールを変えればいい。例えば1人の打者に対しては敬遠は1回まで、とか。そもそも、普通の高校生が試合をやっている甲子園大会で松井秀喜みたいなバケモノを出場させる事の方がよっぽどルール違反ではないか?

ともかく、ランキング61位の日本がアジア・アフリカ勢で唯一グループリーグを突破して決勝トーナメントに進出したんだから、素晴らしい采配だと断言するぞ

(2018.6.29)



〜おしまい〜





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