米朝首脳会談の失敗

〜 安易な妥協をしなくて良かった 〜



派手派手しく前宣伝していた第2回目の米朝首脳会談が予想外の大失敗に終わった。
決裂した原因は、アメリカ側は北朝鮮側が全面的な制裁解除を求めたからだと言ってるが、北朝鮮側は一部解除しか求めていないと反論している。

トランプ大統領は「北朝鮮が制裁の全面解除を求めてきたので、それに応じることはできなかった」という趣旨の説明をした。北朝鮮側は寧辺の核施設の完全放棄だけを条件に制裁の全面解除を求めてきたので、応じるべきではないと判断したということだ。
一方、それに対して北朝鮮外相は、「北朝鮮は制裁の全面解除など求めていない。求めたのは一部解除だ」なんて反論した。

このどちらも完全に間違っている訳ではない。完全に嘘ついてる訳ではない。
北朝鮮は「アメリカの査察の下で寧辺核施設の完全廃棄を提案したが、これは米朝間の信頼の程度を考えると、現段階では北朝鮮ができ得る最大級の非核化措置である」というが、それはもっともな気がする。だって、まだまだ信頼関係が無いなかで、いきなり本当に全ての核施設を廃棄するなんて、自分だけが丸裸になる訳であり、あり得ない
アメリカは「寧辺廃棄以外にもう一つ廃棄すべだ」なんて突然言いだしたが、これは恐らく寧辺の2倍のウラン濃縮能力を持つカンソンの第2秘密ウラン濃縮施設を指しているものと思われる。まさかアメリカがこの施設の存在を知っているとは思ってなかった北朝鮮としては、突然、これを持ち出されて対応に窮したのだろう。

北朝鮮は、制裁解除に関しても「北朝鮮が解除を求めたのは、あくまでも国連安全保障理事会が2016〜2017年に採択した決議による制裁のうち民生分野の一部だ」と説明している。すなわち、民間の経済と北朝鮮国民の暮らしを妨げている制裁のみを解除するよう求めたのだ。
ただし、これについては詭弁とも言える。北朝鮮が言ってる事は嘘ではないが、実質的にはこれだけで全面解除に等しいから、アメリカとしては絶対に飲めない提案だ。

このように決裂した米朝会談だが、なぜこのような結果になったのかと言えば、明らかに調整不足だったのだろう。どちらもトップダウン式の交渉を好む二人なので、事務レベルでの調整が足りなかったのだろう。て言うか、そもそも事務レベルの調整が全く進んでいない今の段階で首脳会談を行うってこと自体が、かなり無理があった。二人とも国内での立場が弱まっていく中で、華々しい外交成果を焦っていたのだろう。

そのため、事前には、トランプ大統領が大きく譲歩して何らかの成果を上げるだろうと思われていた。トランプ大統領は事前に、朝鮮戦争の終戦宣言をプレゼントしてもいいと思っていたし、ご丁寧にも共同声明に署名すべく共同声明文まで用意していた。大きな成果を期待してなかったら、わざわざベトナムまで来なかっただろう。もちろん金も、大きな成果を期待してなかったら、遠路はるばる列車に揺られてベトナムまで来なかっただろう。

事務レベルの調整不足は分かっていながら、何らかの妥協をして成果を出すだろうと思われていた会談が、予想外の大失敗に終わった最も大きな理由は、同じ日に、アメリカの下院でトランプ大統領の元顧問弁護士のコーエン被告の公聴会が開かれたからだろう。民主党が多数派を占めるアメリカの下院が、トランプ大統領が米朝首脳会談で大きな成果を上げて国内におけるスキャンダルを帳消しにしようとしても、それが通用しないように同じ日に設定したのだろう。
民主党の目論見通り、コーエン被告は公聴会で「トランプ氏は人種差別主義者、詐欺師、ペテン師だ」とののしった。そしてロシア疑惑や不倫相手への口止め料支払いなど、顧問弁護士として知り得た情報を全て暴露してしまった。
このような状況の中で、もしも北朝鮮に甘い顔を見せて譲歩したりなどしたら、トランプ大統領が受けるダメージはますます大きなものとなってしまう。下手な妥協はできなくなってしまったのだ。

トランプ大統領としては、わざと会談を失敗させるために、突然、カンソンの秘密ウラン濃縮施設の存在を持ち出してきたのかも知れない。北朝鮮としては絶対に安易に認められない事だから、会談が決裂するのは目に見えているが、北朝鮮に対して強い姿勢を見せることで、コーエン被告の証言によるダメージを少しでも緩和させようとしたのだろう。

今回の会談は予想外の決裂となったが、これですぐに朝鮮半島の緊張が高まることはないだろう北朝鮮の経済破綻はせっぱ詰まっており、再び緊張を高めて脅すなんて事をする余裕は金には無いからだ。
その証拠に、会談が決裂した割りには、北朝鮮メディアは会談決裂について一切言及していない。何かあったら、すぐに声高に誰かれ構わず批判しまくるのが常なのに、今回はアメリカに対する非難を自制して対話ムードを維持している。会談が始まるまで、嬉しそうに報道しまくっていたから、今さら「失敗しました」なんて口が裂けても言えんわな。

そして、今回の決裂にホッとしているのは、もちろん日本だ。事前には、トランプ大統領が妥協して「アメリカを標的とする大陸間弾道ミサイルについてだけ交渉して、日本を標的とする中・短距離ミサイルは認めてしまう」なんて可能性も危惧されていたから、そうならなかった事で日本政府は安堵している。安倍首相は「安易な譲歩をしないというトランプ大統領の決断を全面的に支持する」と述べた。

逆に、首脳会談の成功で南北経済協力事業を再開する機会を狙っていた韓国は大きく失望している。このような結果になったら、文大統領は北朝鮮との関係をもうこれ以上進展させることができないだろう。

何はともあれ、トランプ大統領は安易な妥協をしなかったことは喜ばしい限りだ。アメリカが核兵器を使って朝鮮半島を草も生えない焦土にすることを願ってやまない私としては、最悪の事態は回避された。

(2019.3.3)



〜おしまい〜





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