天皇陛下のお言葉

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 本日第30回戦没殉職船員追悼式に臨み、さきの戦争の戦没船員を始め、船員としての職務に殉じた人々の上を思い、深い感慨を覚えます。
 昭和12年から8年間にわたった戦争の間に、祖国のために海上輸送などの業務に従事しながら、戦火により尊い命を失った我が国船員は、6万人余に上ります。これらの人々の御(み)霊を慰めるために、関係者の努力によってこの戦没船員の碑が建てられ、今日では、戦後、海上で職務の遂行中殉職した1,700人を超える船員の御(み)霊も併せ祀(まつ)られています。
 第1回戦没船員追悼式が行われたのは昭和46年、降りしきる雨の中でした。その後私どもは二度ここを訪れていますが、ここに祀(まつ)られた船員が、碑の前に広がる果てしない海に抱いたであろうあこがれと、その海が不幸にもその人々が痛ましい最後を遂げた場所となったことを思う時、かけがいのない肉親を失った遺族や亡くなった船員と共に航海をした同僚の人々が抱き続けてきた深い悲しみが察せられます。
 戦後50年余を経て、当時の戦争のことが人々の心から次第に遠いものとなっていく今日、私どもは我が国の人々が戦後に築き上げた平和と繁栄が戦没船員を始めとする数しれない人々の尊い犠牲の上に達成されたものであることを決して忘れてはならないと思います。
 第2次世界大戦後、局地的戦争はありましたが、多くの海域に平和が戻り、戦後の我が国が発展する上で海運や水産に携わる船員の果たした役割は実に大きなものがありました。これからもこの海の平和を守るために皆で努めていくことが大切であり、それが亡くなられた人々に報い、遺族の意にそう道でもあると思います。
 ここに御(み)霊の安らかならんことを祈り、併せて遺族の幸せを願って追悼式に寄せる言葉といたします。

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