慰霊祭の準備


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日の丸の寄せ書き  ラバウル2日目の朝、朝食のために部屋を出て、食堂に向かって歩いていたら、ホテルの従業員が庭の花を摘んでいる。南国では年中花が咲いているようである。
 それにしても1人ではない。座り込んで花輪を作っている人もいる。
 できた花束を集めて、箱に入れている人もいる。不思議に思って眺めていたら、今日の合同慰霊祭に使う花輪や花束だという。
 花輪や花束は、ホテルに依頼しているということは聞いていたが、その意味がやっと判った。日本のように花屋さんから持って来るわけではないのだ。どこの庭にも花はたくさん咲いているから、この国に花屋さんは無いと言うことにやっと気付いたのである。
 朝食の準備は出来ている様子なのに、隣の休憩室で何かやっている。覗いてみると、日の丸の寄せ書きを作成している。私たちが朝一番にやらなくてはならない、合同慰霊祭の準備なのだった。
 その日の丸には、浅草西徳寺住職大谷義博氏によって「散る桜 残る桜も 散る桜」との歌が書かれていた。この歌は、戦没者の慰霊と言うより、十回以上の慰霊の旅を重ねても、なお心が落ち着かないという生還者に対する、慰めの歌と受け止めた。
 この日の丸の寄せ書きは、今日の合同慰霊祭の会場正面に飾り付けるのである。
 私たちは、先に、妻が「第一若松丸阿部八郎平 娘 文子」と書き、私がその横に「夫 佳明」と書き添えた。

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