会 長 式 辞

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日本殉職船員顕彰会会長 相 原 紀 一 郎
 本日ここに第三十回戦没殉職船員追悼式を執り行うにあたり、天皇皇后両陛下の行幸啓を仰ぎ、全国各地からご遺族をはじめ関係各位多数のご参列を賜りましたことを心から感謝申し上げます。
 また、本年もこの碑に、二十八人の殉職船員を奉安することになりました。
 これによりまして、先の大戦で戦禍によりその職を殉じられた六万六百四人の戦没船員と、海難などによってその職に殉じられた千七百二十人の尊い御霊が、この碑に安らかに眠っておられます。
 本年は、昭和四十六年、この地に戦没船員の碑を建立し、同年五月第一回の追悼式を執り行いましてから、回を重ね三十回の記念すべき追悼式となります。
 この間私達は、亡き舟人を追慕し御霊の鎮魂と海洋永遠の平和を祈って参りました。
 先の大戦が終わって早や五十年の歳月が過ぎ去りましたが、この碑の前に立ちますとき、昭和から平成へと時代が移ってもなお、あの痛恨の時代に戦火の海に散っていった、余りにも多くの人々のことが去来して、胸塞がる思いがいたします。
 また、戦後の廃墟の中から、わが国の復興を支え、日夜海上勤務に励み、不幸にしてその職に殉じられた船員も多く、これらの方々に思いを致すとき深い感謝の念と哀惜の情ひとしおなるを禁じ得ません。
 今日、戦争体験の風化や海事産業をとりまく環境の変化などによって、ややもすれば戦没殉職船員への思いや功績がその記憶とともに忘れ去られようとしています。
 しかし私たちは、これらの方々の尊い犠牲とご功績の上に、今日わが国が平和で豊かな国家として存在し、生活できていることを決して忘れてはなりません。
 私たちは、ここにあらためて、かけがえのない肉親を失い、様々な苦難の日々を送ってこられたご遺族の心情に思いを致すとともに、六万二千余柱の御霊の安らかならんことをお祈りするとともに、そのご功績をいつの世までも伝え、海洋永遠の平和と安全を祈っていくことを、 ここにお誓いいたします。
  安らかにねむれわが友よ
  波静かなれとこしえに
 という、この碑に刻まれた言葉をご参列の皆様とともに重ねて御霊に捧げ、ご冥福をお祈りし式辞といたします。

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