植物とアレロパシー

 「アレロパシー」聞いたことありますか。調べてみると『植物から放出される化学物質が、他の植物や微生物・昆虫に対して阻害的あるいは促進的な何らかの作用を及ぼす現象』と言うことらしい。
セイタカアワダチソウやアカマツの周囲には雑草が生えにくい、このことは経験的によく知られている事実ですか、何故かと言うことになると良く分かっていなかった。
環境的にも食生活上でも、除草剤や化学肥料の使用は望ましくはない。近代農業においては狭隘な耕作面積からいかに収穫量を上げるかという問題があり、どうしても化学物質に頼らざるを得ないため、農薬などの化学物質が長年に渡って使用されて来た。

近年この近代農業に対抗して有機農業の必要性が、市民運動として盛り上がりを見せ、”無農薬○○”という言葉が耳新しいものでなくなった。しかし、我が国の農業事情は決して良くない。少子高齢化・農産物の自由化による価格の低迷・従事者不足等枚挙に遑がない。中山間地域においてはその状況がますます悪化しつつある。耕作放棄農地の増加、農業従事者の高齢化から、生きとして働いている農業青年の姿は見たことがない。

そこで、近代農業以前には重要な施肥手段であった、緑肥をアレロパシーの観点から再評価し、アレロパシーに関する研究はまだまだ未知の部分が多いけれど、環境に調和した雑草制御に活用しようとする研究が脚光を浴び始めている。
 簡便で効果が高く安価な雑草防除および土壌管理技術が求められている現在、農業分野においてはこのアレロパシーの活用法として、草で草を退治することが研究されており、特定の雑草のみを抑制し、作物に害を与えない雑草防除法は、除草剤使用に比べて効果は低いものの、環境に与える影響が少ない利点がある。
 
アレロパシーの作用は、
雨や露によって葉から流れ出る、植物体の残さ(刈枝,落ち葉)から放出される、根からしみ出る、揮発性物質として放出される、等であることから、農業においてアレロパシー植物の混作や輪作、植物体残さの地表面被覆等が活用されることとなる。

マメ科牧草の[ヘアリーベッチ]による果樹園や休耕地における雑草抑制及び野菜のハウス栽培におけるマルチ利用、
日本在来の豆である[はっしょうまめ]による雑草抑制と害虫除け、
[ヒガンバナ]のネズミ,モグラ,害虫除け等による畦畔管理、
[ソバ]による雑草抑制、樹木類の落ち葉被覆による雑草抑制等があります。
 また、コーヒーやお茶に多量に含まれているカフェインは、マメ科以外の植物の発芽を著しく阻害するという研究報告があり、
この報告がアレロパシー作用であれば、茶栽培における除枝作業において畝間に刈り落とされる枝葉は、有機物の補給という面だけでなく、雑草の抑制に関しても効果を示している可能性があります

ヘアリーベッチに関して次のような報告(四国農業試験場・生産環境部・土壌管理研究室)がある
緑肥作物のアレロパシー活性を、Plant Box 法(農業環境成果情報,8,p.31)により検索すると、ヘアリーベッチ、コモンベッチ、ライムギ、エンバクの活性が高く、レンゲ、オーチャードグラス、ラジノクローバ、イタリアンライグラスの活性が低い(表1)。
これらの緑肥作物の圃場での雑草抑制効果を調べると、春播き緑肥の場合は強いものでも約60〜80%程度の阻害であるが、秋播きのヘアリーベッチ、エンバク、ライムギ、オオムギには90%以上のきわめて強い雑草抑制作用がある(表2、3)。
ヘアリーベッチは夏期に自然に枯れてしきわら状になり、その後の夏雑草の発生も抑制する。しかし栽培後の上壌には植物生育阻害物質は検出されず、後作に害作用はない。
ヘアリーベッチの播種時期と雑草抑制の関係を調べた結果、10月〜11月上旬までに播種すると、雑草抑制効果が高い(図1)。
ヘアリーベッチを他のムギ類と混植して、雑草抑制能を調べた結果、混植はバイオマスを増やす効果はあるが、雑草抑制の目的にはヘアリーベッチの単播で十分である。
レンゲとヘアリーベッチを比較すると、圃場での繁茂量がほぼ同程度であるのに、ヘアリーベッチの雑草抑制能が高いこと(表3)、Plant Box 法でアレロパシーを検定すると、ヘアリーベッチの活性は高いが、レンゲは活性が小さいこと(表1)から、ヘアリーベッチによる雑草抑制にはアレロパシーの寄与が高いと考えられる。
具体的な方法:10月〜11月上旬に、10アールあたり3〜4kgのヘアリーベッチを散播する。施肥は不要。軽い覆土が望ましい。降雨後発芽する。
[成果の活用面・留意点]
活用面:冬作緑肥。果樹園・休耕地・耕作放棄田の雑草管理。敷藁の代用。自給飼料。
留意点:湿田では生育が劣る。播極時期が遅れると雑車抑制効果が低下する。雑草が多い場合は播種前に機械で除草するか、除草剤で枯らしておく必要がある。

ヘアリーベッチはマメ科の多年草
つる状茎が長さ2m前後まで伸びる。 6月頃に青紫色の穂状花を着ける。 9月頃に発芽が始まり、梅雨明け頃に枯れる。 他の雑草の発芽を抑制するアレロパシー効果が最も期待される雑草の一つ。 種子繁殖する。

ヘアリーベッチは3月中旬〜5月にかけて旺盛に繁茂する。(右)
そのために樹の枝葉に巻きつき光合成を阻害する要因にもなるため、適度な引き倒し作業が必要になる。